証拠開示(刑事訴訟法316条)

類型証拠開示

(検察官請求証拠以外の証拠の開示)
第316条の15
検察官は、前条第1項の規定による開示をした証拠以外の証拠であって、次の各号に掲げる証拠の類型のいずれかに該当し、かつ、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められるものについて、被告人又は弁護人から開示の請求があった場合において、その重要性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、同条第1項第1号に定める方法による開示をしなければならない。この場合において、検察官は、必要と認めるときは、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。
証拠物
第321条第2項に規定する裁判所又は裁判官の検証の結果を記載した書面
第321条第3項に規定する書面又はこれに準ずる書面
第321条第4項に規定する書面又はこれに準ずる書面
次に掲げる者の供述録取書等
イ 検察官が証人として尋問を請求した者
ロ 検察官が取調べを請求した供述録取書等の供述者であって、当該供述録取書等が第326条の同意がされない場合には、検察官が証人として尋問を請求することを予定しているもの
前号に掲げるもののほか、被告人以外の者の供述録取書等であって、検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの
被告人の供述録取書等
取調べ状況の記録に関する準則に基づき、検察官、検察事務官又は司法警察職員が職務上作成することを義務付けられている書面であって、身体の拘束を受けている者の取調べに関し、その年月日、時間、場所その他の取調べの状況を記録したもの(被告人又はその共犯として身体を拘束され若しくは公訴を提起された者であつて第5号イ若しくはロに掲げるものに係るものに限る。)
検察官請求証拠である証拠物の押収手続記録書面(押収手続の記録に関する準則に基づき、検察官、検察事務官又は司法警察職員が職務上作成することを義務付けられている書面であつて、証拠物の押収に関し、その押収者、押収の年月日、押収場所その他の押収の状況を記録したものをいう。次項及び第3項第2号イにおいて同じ。)
前項の規定による開示をすべき証拠物の押収手続記録書面(前条第1項又は前項の規定による開示をしたものを除く。)について、被告人又は弁護人から開示の請求があつた場合において、当該証拠物により特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときも、同項と同様とする。
被告人又は弁護人は、前二項の開示の請求をするときは、次の各号に掲げる開示の請求の区分に応じ、当該各号に定める事項を明らかにしなければならない。
第1項の開示の請求 次に掲げる事項
イ 第1項各号に掲げる証拠の類型及び開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項
ロ 事案の内容、特定の検察官請求証拠に対応する証明予定事実、開示の請求に係る証拠と当該検察官請求証拠との関係その他の事情に照らし、当該開示の請求に係る証拠が当該検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であることその他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由
前項の開示の請求 次に掲げる事項
イ 開示の請求に係る押収手続記録書面を識別するに足りる事項
ロ 第1項の規定による開示をすべき証拠物と特定の検察官請求証拠との関係その他の事情に照らし、当該証拠物により当該検察官請求証拠の証明力を判断するために当該開示が必要である理由

主張関連証拠開示

(争点に関連する証拠開示)
第316条の20
検察官は、第316条の14第1項並びに第316条の15第1項及び第2項の規定による開示をした証拠以外の証拠であって、第316条の17第1項の主張に関連すると認められるものについて、被告人又は弁護人から開示の請求があった場合において、その関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、第316条の14第1項第1号に定める方法による開示をしなければならない。この場合において、検察官は、必要と認めるときは、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。
被告人又は弁護人は、前項の開示の請求をするときは、次に掲げる事項を明らかにしなければならない。
開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項
第316条の17第1項の主張と開示の請求に係る証拠との関連性その他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由

類型証拠開示、主張関連証拠開示

公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件では、刑事訴訟法の規定により証拠開示を行うことができます。

それが、類型証拠開示請求と主張関連証拠開示です。任意開示と最も異なるポイントは、請求がされた場合、検察官は法律上の要件に該当する証拠を開示する義務を負うということです。

類型証拠開示請求は、刑事訴訟法に定められた一定の類型に該当し、検察官が請求した証拠の証明力を判断するために重要と認められ、開示の必要性などを考慮して相当と認められたときに、検察官が開示義務を負うものです(刑事訴訟法316条の15第1項1号〜9号)。

主張関連証拠開示請求は、弁護人の主張に関連すると認められるものについて、関連する程度や開示の必要性などを考慮して相当と認められたときに、検察官が開示義務を負うものです(刑事訴訟法316条の20第1項)。

類型証拠開示、主張関連証拠開示請求では、要件を満たすときには検察官に開示義務が生じることが、任意開示とは異なる大きなメリットです。仮に検察官が開示を拒否するときは、裁判所に対して裁定請求を行い、開示命令を求めることもできます。

この類型証拠開示請求も、主張関連証拠開示請求も、事実を争う事件や量刑事件を戦う上で、極めて重要な武器になります。

まとめ
注意しなければならないのは、類型証拠開示請求、主張関連証拠開示請求は、公判前整理手続か期日間整理手続に付されている場合にしか行えないことです。そのため、事実を争う場合など、徹底した証拠開示が必要な事件では、公判前整理手続や期日間整理手続に付することを裁判所に請求することが必要です。

幅広い証拠開示を行わせるには技術と経験が必要です。拙い証拠開示請求では十分な証拠開示がされないままとなってしまう可能性があります。

日本の刑事裁判では、全ての証拠を開示しなければならないという全面証拠開示の制度は現時点ではとられていません。しかし、検察官に多くの証拠を開示させる方法ができつつあり、事実を争う事件では、できる限り多くの証拠を開示させる弁護士の力量が不可欠です。