マジの昭和のブラック企業
日本電産(現ニデック)
2011年に掲載された日本電産(現ニデック)の永守会長と、ウシオ電機の牛尾会長との対談内容。今一度反芻してみましょう。
〈牛尾〉
永守さんの経営人生を象徴するものの一つが、日本電産本社の一階奥に設置しておられるプレハブ建屋だと思うのです。今度御社に伺う時にぜひ一度拝見したいと思っているのですが、創業当時に作業場として使っていたものだそうですね。
〈永守〉
はい。あれをご覧になった方の反応は半分半分に分かれるのです。涙を流さんばかりに感動される方と、本社ビルの一番いい場所になんであんな汚いものを置くのだという方がいらっしゃって、おもしろいですよ。
私としては、創業期のあの厳しい時期を乗り越えてきたからこそ、ここまでこられたわけでね。辛い時にそこへ行くと、あの時の苦しさに比べたらこんなものは大したことはないなと思い直して、また元気を取り戻せるのです。
新入社員にも入社時に必ず見せますし、落ち込んでいる幹部がいたら、ちょっと見てこいと言うのです。
〈牛尾〉
今のお話を伺って頭に浮かぶのは「惜福」という言葉です。これは安岡正篤さんから教わった言葉で、訪れた福を使い果たさずに、将来のために惜しんで取っておきなさいという教えなのですが、永守さんの考え方はこれに通ずるものがあると思います。
下積みの時代に泊まった安宿に、成功してからも時々泊まりに行くといった話をよく聞きますが、惜福を実践するには、そういうように苦境にあった時のことを忘れない工夫をすることが大事です。
〈永守〉
非常に大事なことですね。
一番怖いのは、後から入ってくる幹部が昔の苦労を経験していないために、一流企業に入ってきたような感覚で振る舞うことです。そういう人たちには口で言っても伝わりませんから、プレハブ建屋を見せるのが一番いいのですよ。
そこは建物だけではなしに、当初からの記録もたくさん残っていて、私自身が現場で懸命に仕事をする様子も残っている。それを見ると皆ハッとするのです。逆に、それを見ても感激しない人は、最初から採用しないほうがいいです。
やっぱり考え方が一致していないと今後のグローバルな戦いは勝てません。ただ頭がいいとか、経験が豊富だとかいうだけではダメで、本当にその会社が好きだという人が集まってこないとしらけてしまいますね。
〈牛尾〉
本当にそうですね。
〈永守〉
だから私は採用担当者に言うのです。
最近は一流大学からどんどん入社してくるようになったけれども気をつけろよと。一番大事なのは、日本電産という会社が好きだという人間、よく働くこの会社で自分も一緒に頑張りたいという人間が集まってくることだと。
一所懸命働くところから始まった会社なのに、ただ有名で給料も高いから入りたいとか、役員として入ってきて威張り散らすような気持ちでやられると、会社なんてあっという間に沈んでいくのですね。
〈牛尾〉
おっしゃるとおりです。
〈永守〉
会社がおかしくなる要因を6つ挙げよと言われたら、一番は『マンネリ』でしょう。それから『油断』、そして『驕り(おごり)』。人間はすぐこういう躓き(つまづき)をするのですが、この段階はまだ元に戻せるのです。
その次が『妥協』。「震災がきたのだからしょうがない」、「円高だからしょうがない」と妥協する。これはもう更に落ち込みますね。
次は『怠慢』です。「頑張っても怠けても給料は一緒じゃないか」とかね。
そして最後は『諦め(あきらめ)』です。「そんなこと言ったってできません」という考えがはびこってきた時は末期症状ですね。
最初の3つはそんな大敵ではないけれども、後の3つに陥ったらもう取り返しがつきません。
〈牛尾〉
特に会社が順調な時が危険ですね。他社よりも昇給率もいいし、収益もいいし、「いいところに入れてよかったですね」と人から言われるようになると、だんだん自分を見失ってくるんです。
...
そして、写真がその日本電産本社総合受付の横に備え付けてあります、創業最初の自家工場件本社。このプレハブ精神を忘れないこと、これこそが世界と勝負できる日本電産の強さそのものではないかと、わたしはかように考えます。
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