とっとと失敗しろ

「成功の経験」よりも、「失敗の経験」のほうがよっぽど重要だった。これまでの半生を振り返ったとき、深く実感することです。失敗したときの方が、成功したときよりも何倍もの大きな学びがあるからです。

もちろん、自分に対する自信を得るという意味では、成功体験はとても大切だと思います。特にまだ、人生の経験値が少ないうちは。

しかし、年齢を重ねていったとき、大きな失敗がない時期が続くことは、いつのまにか「成長が止まる」ことにつながるかもしれません。失敗がないのは楽ですからね。経験によって、無難に安全運転ができる。しかし、実はその分、新たに学ぶ機会も減らしてしまっているのですよね。

自分も、このことに関して忘れられない苦い経験があります。

ある領域において、自社が(他に比べて)圧倒的に秀でている能力がありました。だからそれを価値の源泉とし、安心して他の新しい領域への進出、投資を進めていったのです。もっともっと事業を多角化しようと、かなりの勢いでした。

しかし気がつくと、まったく違うアプローチでその「根本の能力」を脅かす勢力が出てきたのです。あっという間でした。価値の刷新を怠っていたからですが、気がつくとすでに危機的ともいえる状況に(一時的に)追い込まれてしまいました。

まさにイノベーションのジレンマで、「成功体験による慢心」があったのだと猛烈に反省しました。その後、その「失敗」を元に全力で失地を取り返すべく努力を続け、なんとか少しづつ回復することができたのですが。

これも、途中で「失敗」を経験したからのこそ全力の転換でした。もし、成功と慢心の時期がもっと長かったとすると.. 本当にまずい結果になったかもしれませんね。想像するだけで冷や汗が止まりません。

成功は、「多くの要素が、うまく重なった結果」といえます。しかしそれは、たまたま運が良かっただけかもしれない。だから、いったいどの要素が最大の成功要因だったかが分かりづらいことがあります。

逆に、失敗は、「たった一つのこと」が引き起こすことがあります。そしてその場合、メインの要因を割と特定しやすいのですよね。成功の要因を特定することに比べ、はるかにシンプルな場合が多い。

そういうこともあって、成功の経験からよりも、失敗の経験からの方がより多くを学べる。これは、半生を通じて本当に実感してきたことです。

失敗したことの逆をやること、これは再現性が高いのですよね。過去の自分を反面教師とし、同じ過ちを繰り返さなければ良いだけだから。

逆に、成功は、再現がとても難しい場合があります。結局、どこがクリティカルなポイントだったのかがわからないままだから。

過去の一回の成功に調子に乗って、どんどんやるぞ… と突っ走った結果、結局はうまくいかなかったという経験はたくさんあります。結局、何が成功要因だったのかを理解していなかったのですよね。失敗してはじめて、成功と失敗の要因がクリアになり、それ以降は大きなケガをしなくて済むようになるものです。

だから大切なのは、「失敗、大歓迎です」という姿勢だと思うのです。失敗すればするほど、経験値が上がり、次のフェーズでは確実に成功しやすくなっていく。

成功は単純に嬉しいですが、失敗はとてもつらいもの。だから人は、どうしても短期的な成功ばかりに目が行くようになる。しかし、長い目で見ると、「適切な失敗」をきちんと経験することこそが、大きな成功の要因や基礎になっている。そういうものだと思います。

だから、いつまでも「失敗は大歓迎」、こういう気持ちでやって行かねばと思っています。それも、経験を重ねるほどに、ですね。