(2020/02/20)強烈な焦土作戦ともいうべき買収防衛策「大幅増配」について

おはようございます。

2020年2月の、日本企業の最先端のビジネス関連記事です。

日本も、ついに敵対的買収が日常的に起こるようになりました。

そして、それまで浪花節で処理されてきた親子会社や関連会社の関係も、どうやら分水嶺に来たようで、今般ご紹介したいのは、上場会社の前田建設という親会社の子会社である、これまた上場している前田道路という会社が、驚きの買収防衛策を繰り出したという話になりますので早速紹介します。

前田道路が総額535億円の大規模な特別配当を実施することを発表しました。

配当を受ける権利がもらえる基準日は2020年3月6日に併せて設定しました。

これまで2020年3月期に計画していた配当総額(80億円強)の約6倍の規模になります。

前田道路は筆頭株主の前田建設工業から敵対的TOB(株式公開買い付け)を受けており、同案は自分自身を捨身にした、強烈な対抗策となります。

先に仕掛けたのは前田建設でして、2020年1月20日、前田道路への出資比率を25%から51%へ高めるTOBを発表しました。

これに対し、前田道路は「シナジーは見込めない」などとする反対意見を表明し、敵対的TOBに対抗する姿勢を鮮明にしました。

多額(すぎる)配当の実施による資金の流出で純資産が大幅に減ることになり前田建設によるTOBが撤回される可能性が高まります。

つまり、〇円で買い付けますよ、と他の株主に言っていた価格が、いきなりの企業価値の配当過多による大幅棄損によって、逆に信じられない高値になってしまい、TOB(公開買い付け)を行っている前田建設に対し、そんな高値で突っ張って株を集めるのですか(あなたが株主になったら結局大損しますよ)と迫っているのです。

同じグループ企業の、しかも株主企業に対してこうした焦土手法を用いる事例は珍しく、日本のビジネス社会もここまで来たかと思うとある意味清々しい気も致します。

これに対し、前田建設側がどう応じるかが非常に注目されます。

この案は2020年2月20日午前に開催した前田道路の臨時取締役会で決議されました。

2020年4月14日に開催する臨時株主総会に諮るものですが、なんと配当額は1株当たり650円という破格なものです。

特別配当、従来から計画している今期配当(100円)とは別に配当するものです。

特別配当総額は前田道路の2019年12月末の手元流動性(要するに現金と預金の合計)852億円の6割強に当たりますが、前田道路側は資金繰りとしては全く問題ないという強気の姿勢です。

注目の株価ですが、前田道路の株価はこの特別配当の報道を受け、一時11%安まで下落しました。

TOB成立(買い付け価格は1株3950円)をみこしてその価格近くまで買っていた投資家が、前田道路の対抗策の実施で成立の先行きが不透明になったため、利益確定売り、もしくは離脱に動いた面がありそうです。

しかしながら、TOBが成立しなくても特別配当が650円入るということであれば、3,950円から650円を引いた額(特別配当が株主総会で決議されれば株主は一株あたり650円の配当現金を手に入れることができるため)が一応の理論価格ということもできますので、こうした策が繰り出される中で株価は一進一退の攻防を行うことになりそうです。

大規模配当案の狙いはTOBの阻止にあります。

前田建設は1月20日に発表したTOBの条件の中で、前田道路が単独の純資産の10%に相当する額(203億円強)を配当するなどして棄損させた場合に「TOBを撤回する場合がある」と予め自社の株主の批判を考慮した「予防線」を張っていました。

今回の配当総額は純資産の2割を優に上回り、豊富なキャッシュを減らし買収対象者としての魅力を落とすことは間違いありません。

と、同時に、TOBに応じたくない既存の少数株主へ還元し、彼ら少数株主の支持を得ようという前田道路の考えもありそうです。

自らのこれまで積み上げた過去利益を一気に吐き出し株主還元を実施し、買われる前に大幅配当で会社の価値を流出させようと目論む前田道路の作戦、筆頭株主の前田建設にしても簡単には取り込まれないという気概が、投資家の支持を得られるか、目が離せない胸の熱い戦いになってきました。

引き続きウォッチして行きたいと思います。

こちらからは以上です。

(2020年2月20日 木曜日)

(2019/10/30)企業の買収や合従連衡が世界中を舞台に行われているというグローバルな話です(ティファニーやFitbit)