(2020/04/18)契約書等の書面におけるハンコ廃止と完全オンライン化の可能性についてより厳密に検討してみました

契約書の捺印作業

おはようございます。

さあビッグウェーブが来ました!

インターネット企業グループのGMOが、お客様手続きにおける「印鑑レス・ペーパーレス」の方針を決定しました。

これは大変な進歩です。

印鑑を押すために出社する、という前近代的運用がなんとかならないのか、という悲鳴にも似た市井の、民草の要望に、民間企業がいち早く対応したわけです。

しかしながら、ここで、少しだけ立ち止まって単純に印鑑というものが廃止されてこなかったこと=逆にいえば印鑑の効用、もあったということでもあることも合わせてじっくりと検討してみたいと思います。

なぜならば、ことは印鑑を廃止すればよい、という簡単かつ単純なものではないからなのです。

もちろん、筆者としても、印鑑を押して製本する作業というのが億劫なのはわかります。

しかしながら、今回、紙の捺印済の契約書に代えて、このGMOが提供しようとしている電子契約方式だろうが、DocuSignやAdobeSignといった先行している電子契約方式であろうが、今までの、「同じ紙」に「契約当事者双方」が「リアルな印章」を押捺するという「行為」自体が、非常にセキュリティの高い、改竄がほぼ不可能な証明力を付した文書として裁判上通用するという非常に強固な力を持っている、という厳然たる事実が横たわっているのです。

過去の英雄、アレクサンダー大王の定めた法律のようなもので、このメソッドを超える「電子的な」証明力付与の方法を、ついに今の令和になっても人類は会得していないために、どうしてもリアルな紙に希少なハンコという取り出すのに超手間がかかるものを双方当事者が押捺するという、面倒このうえない「手続き」が続いているというわけです。

ですので、悪いのはハンコそのものではなく、そうしないと相手方の「信用」を得られないという契約社会そのものであるはずなのですが、何を取り決めたかというのは、やっぱり人間忘れてしまうので、文書化してそれをお互いその通りだと立証しておく手段として、契約行為におけるリアル紙双方捺印方式というものはずっと続いてきたというお話なのです。

ですので、今回GMOが提供する方式であろうが、DocuSignやAdobeSignといった先行している電子契約方式であろうが、導入する企業にとっては、どうしてもセキュリティが担保できない、裁判上立証する自信がない、という会社や組織や個人にとっては、どうしても踏み切れない方法なのです。

もちろん、今回のGMOの英断は素晴らしく、GMOが契約当事者になる場合は、GMOが提供する電子契約サービス Agreeを使うことで、完全オンライン上で、契約締結が完了します、と宣言しているわけで、GMOグループと大量に受発注や契約の対応がある会社や組織や個人は、この、「電子署名」と「電子サイン」を併用した契約締結が可能なあらゆるビジネスシーンでご利用いただけるクラウド型の電子契約サービスを利用すれば住むわけで、非常に進歩です。

この、GMOの電子契約がもし気に入らないということであれば、これまでの紙による契約を「求める」ことは契約自由の原則からできるわけであありますから、問題ないわけです。

しかしながら、問題は、別段GMOグループだけではない、他の会社同士の契約において、どのようなツールを使うべきかという話になります。

そうなると、第三者が展開している電子プラットフォーム上において契約行為が完了しますよ、といっている程度では、別段契約行為自体は申し入れと承諾という口頭でも立派に成立するものでありますから、どのプラットフォームを提供されても別段真新しい感動はないのです。

この電子プラットフォームの有用性は、唯一、契約当事者同士がその後に揉めたとき、その契約行為が裁判上有効だと立証できるかどうか、にかかっています。

すなわち、一方当事者の宣言に過ぎない単独行為ではない、双務契約については、「サインしてスキャンしたPDFに、相手方が印刷してサインして再スキャンして送る」という方法しか、お互いが相手方の契約行為を申請だと確実に裁判上立証する手段はなく、このメソッドに従えば、確かに相手方に出向く必要もなく、郵送の手間もなく、印鑑さえオフライン環境で取り出すことが容易な場所においておけばいいので、オンライン契約認証は完結するはずです。

ハンコを押しに出社する、というのが嫌だというのであれば、ハンコを社長か経理担当役員の自宅の金庫に保管するなどして対応すれば良いだけであり、あとは押印したらスキャンして、PDFにして電子的に送付すれば良いだけということになります。

しかしながら、これでは、「同じ紙」に、双方が捺印した証拠が残らない、という向きもいらっしゃいます。

そのような、どうしても黒電話が好きでたまらない、という昭和中期の皆様には、つける薬はございませんで、昭和以前からの方法である、同じ紙を郵送して持ち回って、そして各当事者の捺印環境において捺印してまわる、という、黒電話と同じくらいの歴史がある鉄板メソッドで対応すれば良いと思います。

しかしながら、おそらく、上記に記載した、それぞれがスキャンして刷りだして押印する、という方式であっても、おそらく契約行為があったことの立証はかなり容易でありかつ強固であると思います。

何が原本なのか、という議論は残りますが、このような契約行為が間違いなくこの当事者間で行われたことの立証になれば、それでいいわけですので。

そして、真正な署名かハンコか、という点については、実はあまり特別な論点はありません。

すでに、契約において署名ではなくハンコを使うのは、日本と台湾くらいになっておりますが、署名だろうがハンコの押捺だろうが、その行為をできる人が極限まで限られているという点においては、大した違いはないからです。

サイン(署名)も偽造のリスクがありますし、ハンコも不正持出し利用のリスクはもちろんあります。

しかし、その程度のものなのです。

もし、「ハンコを押したリアルな紙である原本が必ずないといけない」という運用を徹底するとすれば、お互いが自分の義務(相手方の承諾不要)を一方的に宣言し合う、単独行為を双方で同時に発表して通知する、という方式しかないような気がしますが、そんな、義務だけ宣言し合うといった単独行為のエール交換みたいなことが現実に成り立つとは思えないので、やはり、「リアルな同一の紙の郵送」もしくは「PDFにして電子的に持ち回り」の2者択一になるのではないかと思いました。

いろいろ考えますと、どうも問題はハンコや署名なのではなく、人間相互の不信こそ、問題の根源だということに行き着くと思います。

少なくとも、今後、私を相手方とする契約行為については、極力信頼関係で文書化することは極力避けていきたいなということだけは決定いたしましたので、皆様宜しくお願いします。

こちらからの考察は以上です。

(2020年4月18日 土曜日)