ふるさと納税の光と影(2021/03/08)
▼日本中を席巻したふるさと納税制度ですが、高知県奈半利(なはり)町という限界集落の町で、このふるさと納税制度を巡る汚職事件が発覚して1年が経過しました。町の公務員(職員)が返礼品業者から1億円もの賄賂を受け取り、国に虚偽の報告をしていたことも判明し、町はふるさと納税から除外されました。かつては、全国屈指の寄付を集めて注目された町は、今は静まり返っており、返戻金バブルに沸いていた人々も散り散りになっています。持続可能な社会とは程遠い光景です。
▼人口3000人余りの過疎の町は2017年度に全国9位の約39億円の寄付を集めました。返礼品納入業者には、町から注文が次々入り、忙しい時期には未明まで加工や梱包(こんぽう)を続けたこともあったといいます。しかし、2019年6月施行の改正地方税法で「寄付額の3割以下の地場産品」との返礼品ルールができると、納税者側の「お得感」が減って注文は激減しました。相対的に、他の自治体と同じくらいの返礼品しか提供できないので、それが減るのは仕方のないことだったのです。返礼品納入業者が新しい返礼品のアイデアを考えていたところ、2020年3月3日、町職員であった返礼品担当の柏木被告らが高知県警に逮捕されました。その後、町が返礼品価格を偽って国に報告していたことも発覚し、2020年7月には町は国から指定を取り消され、2年間ふるさと納税そのものを募集できなくなり、返礼品納品業者も廃業を余儀なくされていきました。
▼バブルに浮かれ、手痛いしっぺ返しを受けたのは町側も同様でした。町の一般会計当初予算は2011年度は23億7000万円程度でしたが、ふるさと納税の収入が激増し、2019年度は3倍近い67億8000万円に増えました。しかし、予算規模は増えても、売上を計上できたのは一部の返礼品業者だけであり、2015年度以降の5年間で集めた寄付金約114億円のうち約9割にあたる101億円が返礼品の調達及びふるさと納税者への返礼品提供に使われ、他の(町の真水の)事業に使われたのはわずかだったのです。しかしながら、町の職員や町議員の中で、特に疑問の声を上げる人はいなかったといいます。
▼子供の頃に育ててくれた自分の故郷(ふるさと)に納税するとかならいいのですが、今の制度だとただの通販制度になっているのがふるさと納税制度の大きな問題だと考えます。そもそも、故郷への恩義とかではなく、単に返礼品というモノで釣るだけですので、制度趣旨を満たしているとは考えにくいのです。結局、このふるさと納税制度がなかりせば、居住自治体に真水で普通に入っていたはずの税収が、返礼品業者とかふるさと納税サイト運営業者といった本来不要なところに流れてしまい、日本全体で見れば明らかに使える税収が減っているだけなのです。3割+自治体側の手間という中間搾取などと言われる原因がここにあります。こういう欠陥だらけで業者に利用され、業者側の売上になるだけであることが分かりきっていた制度の導入を強引に進め、このような趣旨に反対する官僚を左遷したのを「自分が飛ばした」と自慢気に語っていたのが現在の総理大臣(総務大臣在任時)ということになるのでしょうが、このような、行政改革とは程遠い余計な中2階制度を進めて行政の本来の姿を歪めてきたことを反省し、早急に見直しをしていただきたいと思います。弊社も離島や限界集落の地方公共団体で活動していますが、返戻品を餌に全国の納税者から金利3割以上のお金を調達するより、もっとましな活動資金やリソースの調達ができないものかと日々自分ごととして考えるようにしています。その意味では、中央政治家や中央官僚と同様に、このふるさと納税制度を支持した全国津々浦々の地方自治体にも責任はあると思っています。
▼いっそ返礼品など一切やめてしまって、もっと志を活かせるある形に変えたらどうでしょうか。理想論でしょうが、中間搾取とかリソースに限界ある地方公共団体側がゼロサムゲームで疲弊するよりよほどマシだと思えます。見返りを期待するのは寄付ではなくて、単なる経済利得行為です。経済を回さなければならないのはもちろんそうですが、経済社会が解決できない領域や分野を解決するために、見返りなしの税収を徴税する権限を、国や地方公共団体は与えられているわけですので、このような「全国の自治体の税収総額は返礼品額ぶんだけ減る」「各地方公共団体の作業手間やコストが膨大」「結果、真水の税収総額は間違いなく下落する」制度はさっくり制度ごと返品して、負の遺産を解消すべきだと考えます。寄付納付した個人へ返礼品が届いて、かなり得をしたと感じた時点で、実は、足元にある地方行政サービスに投下すべきであった貴重な投下資金を(利権という名の経済利得行為の雲の中へ)売ってしまうその発想に、参加した納税者の合理的であるけれども底しれないさもしさや欲望を感じるのでございます。
▼ふるさと納税で新規事業を企画した行政にも、地域産業を育成するとか雇用を守るとかいった立場の一貫性があるようには思えません。今日は1億総懺悔のような記事になりましたが、こうしたなかなか個別の立場では言いにくいことを示すのも国境離島の限界集落、日本の最先端の課題解決地域に立地する当社の存在意義だと思いまして、一筆奏上させていただきました。こちらからの本日の記事は以上です。