民法第1問

問題

農業協同組合法によって法人格を認められた団体であるA農業協同組合の代表理事Bは、アパレル業を営む旧友X(A組合の組合員でない。)から事業資金の融通を頼まれたため、A組合を代表して、Xに対して、500万円を貸し付けるとともに、X所有の甲土地について、抵当権の設定を受けた。その後、Xの事業が破綻し、Xが500万円の弁済を怠ったため、上記抵当権が実行されたところ、Yが甲土地を競落し、Y名義の所有権移転登記がなされた。ところが、Yが甲土地を競落してから約7年が経過したある日、Xは、突如として、Yに対して、甲土地の所有権移転登記の抹消登記手続を求めた。Xの請求は認められるか。なお、民事執行法の規定は考慮する必要がない。
【資料1】A組合定款 第1条 この組合は、地域の農業生産の振興を旨として、組合員の相互扶助の精神に基づき、共同して組合員の事業及び生活のために必要な事業を行い、もってその経済状態を改善し、かつ、社会的地位の向上を図ることを目的とする。第7条 この組合は、組合員のために次に掲げる事業を行う。二 組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付け
【資料2】農業協同組合法(昭和22年11月19日法律第132号)第1条 この法律は、農業者の協同組織の発達を促進することにより、農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図り、もつて国民経済の発展に寄与することを目的とする。第10条 組合は、次の事業の全部又は一部を行うことができる。二 組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付け 第99条 組合の役員がいかなる名義をもつてするを問わず、組合の事業の範囲外において、貸付けをし、若しくは手形の割引をし、又は投機取引のために組合の財産を処分したときは、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金(中略)に処する。

解答(2022年6月20日(月))

第1 Xの請求の根拠について
1 Xは甲土地の登記名義を有するYに対し、所有権に基づき甲土地の所有権移転登記の抹消手続きを請求することが考えられる。
2 本件では、XはA組合から500万円を借り入れ、これを被担保債権として自己の所有する甲土地に抵当権を設定し、Yはこれを7年後に競落している。
 そこで、Xが自らに所有権があることを基礎づけるための主張としては、A組合のXに対する貸付け(以下本件貸付という。)はA組合の目的の範囲(34条、定款1条)外の行為であって無効であり、付従性により抵当権の設定も無効となるから、その実行としてなされたYの競落も無効であるというものと考えられる。
第2 Xの主張の当否
1 そこで、本件貸付が、A組合の目的の範囲内にあるか問題となる。
 ⑴ この点法人たる組合は、社会的に有用な一定の目的のために権利義務の主体たる地位を認められているものであるため、権利を有し義務を負うとはいえ、その目的によって権利能力は制限されるものと解する。よって、本件貸付けが目的の範囲外といえる場合、その限りにおいてA組合の権利能力は制限される。
 ⑵ そして、いかなる行為が目的の範囲外にあるかということについては、目的の範囲には目的を遂行するのに間接的に必要な行為まで広く含み、また当該行為が目的の範囲内にあるか否かは行為の客観的な性質に即して抽象的に判断すべきであると解する。
 目的の範囲外の行為は、権利能力の範囲外の行為であり、絶対的に無効であるのが原則である。しかしながら、取引の安全を害する程度が大きく、当該行為が目的の範囲内にあるか否かは、特に非営利法人の場合については設立の根拠法との関係から、一定の制約は免れないとはいえ、柔軟に広く解釈する必要がある。
 ⑶ 確かに、A組合は貸付け自体は不可能ではないが、あくまで組合員の事業又は生活に必要な限度に限っている(A組合定款7条2号、農業協同組合法10条2号)。
 そして、法10条が農協の事業範囲を明示していること、法99条が農協役員の事業範囲外の行為について罰則を設けていること、法1条が農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図ることを目的としていることを考えれば、農協の事業に全く関係ないアパレル業を営む非組合員Xに対する本件貸付けは事業の範囲外の行為というべきである。
2 目的の範囲外の効力
 ⑴ 目的の範囲外の行為は絶対的に無効であるため、追認や表見代理の成立の余地はないのが原則である。ただし、このような目的制限による行為の無効を主張することが信義則(1条2項)に反する場合があると解する。
 ⑵ 本問では、①本件貸付けが無効であるにしても、Xは不当利得として500万円をA組合に返還する義務があり、債務を負うことに変わりはなく、②甲土地についての抵当権も経済的には上記不当利得返還請求権の担保たる意義を有すること、③抵当権の実行手続が終了し甲土地が第三者たるYの所有に帰していること、④Yが甲土地を競落してから約7年もの期間が経過していること等の事情に照らせば、Xが本件貸付けの無効を主張することは信義則に反し、許されないというべきである。
3 したがって、本件貸付けは無効であるが、Xは信義則上その無効を主張できず、Xの請求は認められない。
以上(1,345文字、用紙スペースは22字×22行×4枚=1,936文字)

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