民法第5問
問題
1 Aは、高級自動車販売業者のBを訪れたところ、高級車「AGR」(定価 5,000,000円)が店頭に並んでいるのを見て、これを気に入り、その場で「AGR」 の売買契約を締結した。
以下の各場合におけるAB間の法律関係について論じなさい。なお、各場合は独立しているものとする。
(1)「AGR」の価格は、キャンペーン価格「3,000,000円」と記載されていたが、 実際には、キャンペーン期間は過ぎてしまっており、Bが価格を定価に戻すのを失念していたのだった。
(2)Aは、「AGR」が世界で数台しか製造されていないモデルであり、希少価値が高いことから、同車を購入しようと考えた。もっとも、「AGR」は、世界ですでに数万台も製造されており、今後も製造は継続されることになっている。
2 Xは、Yの代理人と称するZとの間で、X所有の甲土地を代金5000万円で売却する契約を結んだが、契約当時、ZはYから甲土地の買い受けに関する代理権を与えられていなかった。この場合において、以下の事情があるとき、XはYに対して、売買代金の支払を請求することができるか。
(1)Yは、以前、Zに対して、甲土地に抵当権を設定するための代理権を与えており、Xと抵当権設定について交渉していたが、その後、この代理権はYによって取り消された。にもかかわらず、Zは、Xに対して「Yから、抵当権の設定ではなく、甲土地の買い受けについて交渉するように指示された。」と告げ、Yの代理人として、甲土地の売買契約を締結した。
(2)Yは、これまで、Zに対して代理権を与えたことはなかったが、Xに対して、「甲土地の抵当権設定について、Zを代理人として選定する予定であるので、Zと交渉を進めてほしい。」と述べていたところ、Zが、Yの代理人として、甲土地の売買契約を締結した。
解答 2022年7月19日(火)自作
第1 問1について
1 小問(1)について
AB間では、AGRをキャンペーン価格の代金300万円で売るという売買契約が締結されている。
もっとも、すでにキャンペーン期間は経過し終了しており、Bとしては、AGRを代金500万円で売るという効果意思であったと解する。
そこで、Bとしては、意思表示に対応する意思を欠く(95条1項)があったとして、本件売買契約の取消しを主張することが考えられる。
取消主張をするためには、意思表示が錯誤に基づくものであって、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであることが必要である(95条1項)。この点、キャンペーン価格と定価とでは、代金にして200万円もの差がある以上、Bがキャンペーン期間の終了を認識していれば、BはAGRを代金300万円で販売するという意思表示はしなかったと考えられる。したがって、意思表示が錯誤に基づくものであるといえる。さらに、Bの立場に置かれた一般人からしても、それだけの価格差がある以上、AGRを代金300万円で販売するという意思表示はしなかったと考えられる。よって、本件内容は法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるといえる。
もっとも、錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったときを除き、取消主張をすることができない(95条3項)。Bは、キャンペーン期間の経過終了を失念していたが、わずかな注意を払えば、それを認識し、価格を定価に変更することができたといえ、錯誤が表意者の重大な過失に基づくものであったといえる。また、AにはBに錯誤があることを知り、又は、重大な過失によって知らなかったという事情は認められない。
以上より、Bの本件売買契約に関する取消主張は認められない。
2 小問2について
Aは、AGRが世界で数台しか製造されていないモデルであり、希少価値が高いことから、同車を購入しようと考えた。
そこで、Aは、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する(95条1項)を理由とする取消主張をすることが考えられる。
確かに、事実AGRは、世界ですでに数万台も製造されており、今後も製造は継続されることになっているのだから、Aが法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反するといえる。
しかし、AがBに対して、そのような認識を明示又は黙示に表示した(95条2項)という事情は認められない。そのような黙示の表示があったとしても、相手方保護の観点から、相手方に了解されて法律行為の内容となっていることを要すると解するところ、本問では、そのような事情も認められない。
以上より、Aの取消主張は認められない。
第2 問2について
1 表見代理の成立について
小問(1)(2)いずれの事案についても、ZはYから甲土地の買い受けに関する代理権を与えられていないのだから、無権代理行為であり、効果帰属しないのが原則である(113条1項)。したがって、XがYに対して甲土地の売買契約に基づく売買代金の支払を請求するためには、Yから追認を得るか(116条)表見代理の成立を主張しなければならないところ、追認については、認められないことが明らかである。そこで、以下表見代理の成立について検討する。
2 小問(1)について
本問では、Yは、以前Zに対して、甲土地に抵当権を設定するための代理権を与えていたところ、代理権がすでに消滅しているだけでなく、その代理権の範囲を超えて、本件売買契約の締結を代理するに至ったことから問題となる。
この点、Xが代理権消滅の事実を知らず、かつ知らないことに過失なく、更にZに本件売買契約についての代理権があると信じ、そう信じることについて正当な理由がある、すなわち過失がないことが認められる場合には、表見代理が成立し、Yに売買契約の効果が帰属する(112条2項)。
以上より、かかる場合には、XはYに対して売買代金の支払を請求できる。
3 小問2について
本問では、Yは、Zに対して、代理権を授与したことがないにもかかわらず、Xに対して、Zがあたかも甲土地の抵当権設定について代理権を与えたかのような表示を行っており、更に、Zは、その表示の範囲すら超えて、本件売買契約の締結を代理するに至ったことから問題となる。
この点、表示された代理権の不存在を知らず、かつ知らないことに過失なく、更に乙に本件売買契約についての代理権があると信じ、そう信じることについて正当な理由がある、すなわち過失がないことが認められる場合には、表見代理が成立し、Yに売買契約の効果が帰属する(109条2項)。
以上より、かかる場合には、XはYに対して売買代金の支払を請求できる。
以上
◁刑事訴訟法第4問
▷商法第5問
問題と考え方と答案構成
解答 アガルート
第1 問1について
1 小問(1)について
(1)AB間では、「ACR」をキャンペーン価格の代金300万円で売るという売買契約(以下「本件売買契約」という。)が締結されている。
もっとも、すでにキャンペーン期間は過ぎてしまっていたのであり、Bとしては、「AGR」を代金500万円で売るという効果意思であったと思われる。
(2)そこで、Bとしては、「意思表示に対応する意思を欠く 」(95条1項1号)があったとして、本件売買契約1の取消しを主張するだろう。
(3)まず、取消主張をするためには、「意思表示」が「錯誤に基づくものであって、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである」(95条1項柱書)ことが必要である。
キャンペーン価格と定価とでは、代金にして200万円もの差がある以上、Bがキャンペーン期間の終了を認識していれば、Bは「AGR」を代金300万円で販売するという意思表示はしなかった。したがって、「意思表示」が「錯誤に基づくものであ」るといえる。
のみならず、Bの立場に置かれた一般人からしても、それだけの価格差がある以上、「AGR」を代金300万円で販売するという意思表示はしなかったと考えられる。
したがって、「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである」といえる。
(4)もっとも、「翻訳が表意者の重大な過失によるものであった場合」 には、「相手方が表意者に話があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき」を除き、取消主張をすることができない」 (95条3項1号)。
Bは、キャンペーン期間の経過を失念していたところ、わずかな注意を払えば、それを認識し、価格を定価に変更することができたといえるから、「許認が表意者の重大な過失によるものであった場合」に当たる。また、本問では、AがBに「話があることを知り、又は、重大な過失によって知らなかった」という事情は認められない。 したがって、Bの本件売買契約に関する取消主張は認められない。
2 小間2について
(1)Aは、「AGR」が世界で数台しか製造されていないモデルであり、希少価値が高いことから、同車を購入しようと考えている。
そこで、Aは、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する」(95条1項2号)を理由とする取消主張をすることが考えられる。 (2)確かに、「AGR」は、世界ですでに数万台も製造されており、今後も製造は継続されることになっているのだから、Aが「法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する」といえる。
しかし、AがBに対して、そのような認識を明示又は黙示に「表示」 した(同条2項)という事情は認められない。仮に、そのような「表示」があったとしても、同項の要件は、相手方保護の観点から、相手方に了解されて法律行為の内容となっていることまで要求すべきところ。本問では、そのような事情は認められない。
したがって、Aの取消主張は認められない。
第2 問2について
1 いずれの事案についても、ZはYから甲土地の買い受けに関する代理権を与えられていないのだから、無権代理行為であり、効果帰属しないのが原則である(113条1項)。
したがって、XがYに対して甲土地の売買契約(以下「本件売買契約2」という。)に基づく売買代金の支払を請求するためには、Yから追認を得るか(116条)表見代理の成立を主張しなければならないところ、前者については、本問で認められないことが明らかである。
そこで、以下表見代理の成立について検討する。
2 小問(1)について
本小問では、Yは、以前Zに対して、甲土地に抵当権を設定するための代理権を与えていたところ、当該代理権がすでに消滅しているだけでなく、その代理権の範囲を超えて、本件売買契約2の締結を代理するに至っている。
このような場合については、112条2項が規定しており、同項の要件を満たせば、表見代理が成立し、効果が認められる。
具体的には、Xが代理権消滅の事実を知らず、かつ知らないことに過失がないことに加え、Zに本件売買契約2についての代理権があると信じ、そう信じることについて「正当な理由」があること、すなわち過失がないことが認められる場合には、同項の要件を満たす。
したがって、そのような場合には、Xは、Yに対して、売買代金の支払を請求することができる。
3 小問2について
本小問では、Yは、乙に対して、代理権を授与したことがないにもかかわらず、Xに対して、Zが甲土地の抵当権設定について代理権を授与するかのような表示を行っており、加えて、Zは、その表示の範囲を超 えて、本件売買契約2の締結を代理するに至っている。
このような場合については、109条2項が規定しており、同項の要件を満たせば、表見代理が成立し、効果が認められる。
具体的には、表示された代理権の不存在を知らず、かつ知らないこと に過失がないことに加え、乙に本件売買契約2についての代理権があると信じ、そう信じることについて「正当な理由」があること、すなわち 過失がないことが認められる場合には、同項の要件を満たす。
したがって、そのような場合には、Xは、Yに対して、売買代金の支払を請求することができる。
以上