行政法第18問
2022年10月18日(火)
問題解説
問題
国土交通大臣Yは、道路運送法9条の3第2項1号に関して、「同一地域では同一のタクシー運賃しか認めない」という審査基準(以下「本件審査基準」という。)及び道路運送法9条の3第1項の申請に60日という標準処理期間を定め、公表していた。
平成××年11月1日、S市で営業しているタクシー会社Xは、同市の他のタクシー会社が初乗り運賃を500円としているのに対し、初乗り運賃を480円に値下げしたいと考え、道路運送法9条の3に基づき運賃変更の認可を申請した。Yは、申請後すぐに審査を開始したが、同年12月10日、「Xの申請は『同一地域では同一のタクシー 運賃しか認めない』という審査基準に適合せず、道路運送法9条の3第2項1号の要件を満たさない。」という理由を提示してXの申請を拒否した(以下「本件処分」という。)。これに対し、Xは本件処分の取消訴訟を提起した。
問1 本件処分は手続法上違法かどうかを検討せよ。
問2 本件審査基準に不合理な点があることを理由にして本件処分の取消しを求める場合、Xはどのような主張を行うべきか。
(参考条文) ○道路運送法 第9条の3 一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者(以下「一般乗用旅客自動車 運送事業者」という。)は、旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。)を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、次の基準によつて、これをしなければならない。 一 能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること。 二 (以下略)
(北海道大学法科大学院 平成23年度改題)
解答
第1 問1について
1 本件処分は、申請に対する処分(行政手続法(以下「行手法」という。)2条3号)に該当する。
申請に対して拒否処分を行う場合には、その理由を提示しなければならない(行手法8条1項)。
本件において、Yは、Xに対し、本件処分を行った理由について提示している。しかし、提示された理由は、「Xの申請は・・審査基準に適合せず、道路運送法9条の3第2項1号の要件を満たさない。」というものであり、理由提示の程度として不十分であり本件処分の違法事由とならないか、理由提示の程度が問題となる。
2 行手法8条1項の趣旨は、処分理由を提示することにより、行政庁の判断の慎重と合理性を担保し、恣意を抑制するとともに、処分を受ける者に行政不服申立て等の事後的な争いのための便宜を図ることにある。
そして、どの程度の理由の記載をなすべきかは、処分の性質と理由提示を命じた法の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである。
もっとも、上記のような理由提示の趣旨からすると、審査基準が設定・公表されている場合には、理由提示の程度としては、原則としていかなる事実関係に基づいていかなる法規・審査基準を適用して当該処分がなされたかを提示された理由自体から了知し得るものでなければならないと解する。
3 これを本問についてみると、Yによる理由提示の内容は結局、Xの申請内容が審査基準に適合せず道路運送法9条の3第2項1号(以下「本件規定」という。)の要件を満たさないというものである。 ここには、処分の根拠となった事実関係が示されていないから、理由提示の程度として不十分であるという評価もあり得る。
しかしながら、本件審査基準は、「同一地域では同一のタクシー運賃しか認めない」というものであるから、Xの申請内容を前提とすると、処分の根拠となった事実関係に対する本件審査基準及び本件規定の適用関係は明らかであるといえる。
4 よって、Yによる本件処分の理由撮示の程度は十分であり、手続的な違法はない。
第2 問2について
1 まず、運賃変更の認可に裁量が認められないことを前提として、本件審査基準は客観的な法の趣旨・目的に反し不合理であると主張することが考えられるが、これは難しいだろう。
本件規定は「適正な原価」・「適正な利潤」という抽象的・概括的な要件を設けており、それに関する判断には、専門的、技術的な知識経験及び公益上の判断が必要となるから、行政庁の処分に裁量が認められな いという主張は退けられる可能性が高い。
2(1) そこで、Xとしては、運賃変更の認可に裁量が認められることを前提として、本件審査基準の不合理性を主張するべきである。
(2) 確かに、タクシー事業者が多数存在する場合、個別に審査することは極めて困難であり、審査基準はできる限り具体的なものとしなければならない。
しかし、本件規定は、タクシー事業者間にタクシー運賃の差異があることを当然の前提としているといえる。また、本件審査基準によると、同一地域においては、各タクシー事業者のタクシー運賃を全て同一としなければならなくなるから、各タクシー事業者の経営内容に格差がある場合においても、同一地域においては、同一の運賃を定めなければならなくなる。
特に、本件規定は、単に上限を設けるだけであるから、同一地域・ 同一運賃の原則を定める本件審査基準は明らかに本件規定の趣旨・目的に反するものである。
したがって、このような法の趣旨・目的に著しく反する本件審査基準の設定は、裁量権の逸脱・濫用であって違法であるといわざるを得ない(行政事件訴訟法30条参照)。
(3) 本件審査基準に裁量権の逸脱・濫用が認められる場合、それに基づいてなされた処分にも裁量権の逸脱・濫用が認められることになるから、本件処分は違法であって取り消されるべきものである。
以上