民事訴訟法第6問
問題 2022年7月26日(火)
甲土地を所有するXは、隣接する乙土地を所有するYを被告として、境界確定訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起した。 Xは、甲土地と乙土地の境界は、Bの線上であると主張したが、Yは、甲土地の一部をYが時効取得したため、現在の境界線は、Aの線上であると主張した。
(1)Yの主張が認められた場合、Xに本件訴訟の当事者適格が認められるか。
(2)裁判所が境界はCの線上であるとの心証を抱いた場合、どのような判決を下すべきか。
甲土地(X)ABC乙土地(Y)
解答
第1 小間(1)
1 本問では、Xは、甲土地の土地の境界は、Bの線上であると主張しているところ、Aの線上である旨のYの主張が認められた場合、本件訴訟はYが所有する土地の内部の境界の確定を求める訴えに帰することになるから、Xには、本件係争地に関して土地境界確定訴訟を提起する当事者適格を欠くことになるのではないか問題となる。
2 この点、当事者適格は、誰に訴訟追行をさせることが紛争の解決という点で適切かつ有効かという観点から決すべきである。
3 そして、土地境界確定訴訟においては、要件事実が明確ではなく、請求は権利の存否の主張という形に限られない。よって、その裁判は法の適用作用というより、裁量の幅の広い行政上の処分行為であり、非訟形態の一種とみるのが適切である。このような境界確定訴訟においては、境界を確定するについて最も密接な利害を有する者に訴訟追行をさせることが、紛争の解決という点で適切かつ有効であるから、相隣接する土地の各所有者に当事者適格が認められると解する。もっとも、本件では、裁判所は、甲土地の一部をYが時効取得したため、現在の境界線は、Aの線上との心証を得ている。このように、当事者が境界の全部に接続する部分を含む係争地の一部を時効取得した場合、当事者適格が失われるか問題となる。しかし、一方当事者が境界の全部に接続する部分を時効取得したとしても、境界に争いがある隣接土地の所有者同士であるという関係に変わりはない。よって、隣接する土地の一部が他方の間接当事者によって時効取得されたにすぎない場合には、境界確定訴訟の当事者適格は失われないと解する。
4 したがって、本件では、Xに当事者適格が認められる。
第2 小間(2)
1 Xは、本件訴訟において境界はBの線上と主張しているところ、裁判所が心証に従い、境界はCの線上であるとの判決を下すと、Xにとって、自己の主張より有利な判決を認めることになる。これは、当事者が申し立てていない事項について、判決(246条)をしていることにならないか当事者主義の観点から問題となる。
2 境界確定訴訟の法的性質について非訟事件の一種と考えられる形式的形成訴訟と解されることからすれば、判決事項等について、当事者の自由を認めるべきではなく、処分権主義(246条)の適用は基本的に排除されるべきである。そこで、裁判所は当事者の主張に拘束されず、主張と異なる境界を定めることができると解する。
3 したがって、本件では、裁判所は、Xの主張に拘束されることなく、心証に従い、境界はCの線上であるとの判決を下すべきである。なお、XYのいずれも境界がCであると主張していないから、このような判決を下すと、弁論主義にも違反する可能性があるが、かかる境界確定の訴えの確定の要請からすれば、弁論主義の適用もないと解されるから、この点についても問題ないと解する。
以上
◁商法第6問
▷憲法第6問