商法第6問

問題 2022年7月25日(月)

定款に株式の譲渡制限の定めのある取締役会設置会社において、全株保有の一人株主がその持株の全部を取締役会の承認を得ずに譲渡し、譲受人から名義書換の請求があった場合、会社はこれを拒むことができるか。 なお、譲渡の承認に関する機関について、定款の特別の定めはない。
(旧司法試験 平成3年度第1問改題)

解答

第1 株式譲渡の有効性について
1 会社が譲受人からの名義書換請求を拒むためには、本間における株式譲渡が少なくとも会社との関係で効力を生じていないという状況が必要である(会社法133条及び134条)。本問の会社は、取締役会設置会社であり、定款に別段の定めもないから、株式譲渡には、取締役会の承認が必要である(会社法139条)。では、取締役会の承認がない場合、株式譲渡の効力をいかに解すべきか明文なく問題となる。
2 この点、株式譲渡制限制度の趣旨は会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、他の株主の利益を保護することにある。よって、会社に対する関係で譲渡を無効とし、会社にとって好ましくない者が株主となることを防止すれば、定款による譲渡制限の目的は達成される。また、譲受人からの譲渡承認請求(会社法137条、138条)は認めており、これは当事者間においては株式譲渡が有効であることを前提としている。よって、承認なき株式譲渡は会社との関係では無効だが、当事者間では有効であると解する。
3 もっとも、一人株主が全株式を譲渡した場合には、 他の株主の利益保護を目的とする余地はない。よって、この場合には、別異に考えることができ、会社の承認は不要であると解する。
4 以上より、株式譲渡は会社との関係でも有効となり、会社は、譲受人からの名義書換えの請求を拒むことができない。
以上

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