民法第7問

問題 2022年7月31日(日)

(1)AはBが未成年者であることを知らずに、Bに対し、Aの所有する絵画(以下「本件絵画」という。)を売却することを依頼し(以下「本件契約」という。)、そのための代理権を授与した。そこで、Bは、Cとの間で、Aを代理して、本件絵画を100万円で売却する旨の契約を締結し(以下「本件売買契約」という。)Aにその旨を伝えた。Cは、契約締結当時、Bが未成年者であることについて、知らず、また、知らないことに過失がなかった。その後、Bは、本件契約を、未成年者であることを理由に取り消した。
AC間の法律関係について、論じなさい。
(2)(1)と異なり、Aが未成年者であって、Bが未成年者でなかったとし、Aが、本件契約を、未成年者であることを理由に取り消したとする。この場合におけるAC間の法律関係について、論じなさい。

解答

第1 小問1について
1 CはAに対し、本件売買契約の効果がAに帰属する(99条1項)として、本件絵画の引渡しを請求することが考えられる。本件で代理人のBは未成年者であるが、代理人について行為能力は原則として要求されていない(102条本文)から、AがBに本作絵画の売却の代理権を授与している以上、本件売買契約の効果はAに帰属する。
2 一方、Aは、Bが未成年者であることを理由に本件契約を取り消している(5条1項本文、2項)から、Aには効果帰属しないと主張することが考えられる。この点について、代理権授与契約(行為)は、基礎となる事務処理契約と一体と解すべきである。本問では、基礎となる事務処理契約は本件契約であるから、これが取り消されれば、AB間の代理権授与契約も取り消されることになる。そして、取消しの効果は遡及的無効であるから(121条)、代理権授与契約が取り消された場合、遡及的に代理行為の効果も否定され、無権代理として効果帰属が否定されるのが原則である(113条)。もっとも、代理人から代理権授与契約を取り消した場合には本人を保護する必要はなく、一方で相手方を保護する必要性は高い。また、代理権は代理人に不利益を及ぼすものではないから、必ずしも上記原則を堅持する必要はない。そこで、代理人から代理権授与契約を取り消した場合には、その効果は将来的になるにとどまり、代理行為が遡って無権代理になるものではないと解する。本小問は、代理人から代理権授与契約を取り消した場合に当たるから、代理人Bの行った代理行為は依然としてAに効果帰属する。
3 以上より、Aの主張は認められず、Cの引渡し請求は認められる。
第2 小問2について
1 本小問でも、CはAに対して本件売買契約の効果がAに帰属するとして本件絵画の引渡しを請求すると考えられる。一方、Aとしては、本件代理権授与契約を取り消したとして、Aには効果帰属しないと主張することが考えられる。
2 本小問でも、本件代理権授与契約が取り消されれば遡及的に無権代理となるのが原則である。もっとも、代理行為が有効であると信頼した相手方の保護をどのように考えるべきか問題となる。本小問では、小問(1)と異なり、無条件に本人への効果を認めると、未成年者であるAが害されることになる。そこで、相手方保護との調整を図るべく、112条1項を類推適用すべきであると考える。確かに、112条1項は代理行為が行われた当時に代理権が既に消滅していた場合の規定であり、代理権が遡及的に消滅した場合の規定ではないが、消滅した代理権に対する相手方の信頼を保護するという点で類推の基礎があるからである。具体的には、第三者が基礎となる事務処理契約又は代理権授与契約の取消原因に関する事実について善意無過失である場合には、同項を類推適用することができると考える。本小問では、Cは、本件売買契約締結時、Aが未成年者であることについて、知らず、また、知らないことに過失がなかったのであるから、本件契約又は代理権授与契約の取消原因に関する事実について善意無過失であるといえる。したがって、112条1項を類推適用することができ、本件売買契約の効果はAに帰属する。
3 以上より、Aの主張は認められず、Cの引渡し請求は認められる。
以上

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