憲法第10問

2022年8月24日(水)

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問題

平成25年改正前民法第900条第4号ただし書は、戦後の民法改正時において、「家」制度を支えてきた家督相続は廃止されたものの、相続財産は嫡出の子孫に承継させたいとする気風や、法律婚を正当な婚姻とし、これを尊重し、保護する反面、法律婚以外の男女関係、あるいはその中で生まれた子に対する差別的な国民の意識を背景にして、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分に差を設けたものである。
しかし、我が国では、非嫡出子の割合が約2.2%程度(平成23年度)であり、欧米諸国に比べてその数字は低いものの、年々増加傾向にあるほか、いわゆる晩婚化、非婚化、少子化が進んでいること、未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増加していることなど、婚姻、家族の形態が著しく多様化しており、これに伴い、婚姻、家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいる。
また、欧米諸国では、民法第900条第4号ただし書と同様の規定を置いている国もあったが、平成13年頃までには、全ての国で撤廃されている。一方、我が国は、国際連合の自由権規約委員会や児童の権利委員会から、嫡出子と非嫡出子の相続分を平等化するようにとの勧告がなされている。
平成22年2月28日に死亡した被相続人Aには、妻Bとの間に生まれた嫡出子Cのほか、重婚的内縁関係にあったDとの間に生まれた非嫡出子Xがあった。遺産相続において、Xが非嫡出子であることを理由に、XとCとの相続分に差が設けられた。これに不満のXは、BとCを相手方として遺産分割の審判を申し立てたが、裁判所は民法第900条第4号ただし書前段(以下,「本件規定」という。)により、嫡出子の相続分に対し非嫡出子の相続分を2分の1として、遺産分割の審判を行った。
【資料】平成25年改正前民法 第900系同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。 一~三 (略)  四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1と(中略)する。
【設問1】
あなたが、Cと等しい相続分を主張したいというXの相談を受けた弁護士であった場合、訴訟において、どのような憲法上の主張をするか、述べなさい。
【設問2】憲法上の主張における対立点を明確にした上で、あなた自身の見解を述べなさい。

解答

第1 第1問設問1について
1(1)Xから相談を受けた弁護士であれば、本件規定は嫡出子と非嫡出子の相続分に合理的理由なく区別を設けるもの(以下「本件区別」という。)であって、14条1項に反し違憲無効であると主張する。
(2)14条1項の規定する「法の下」の「平等」とは、法適用のみならず法内容の平等をも意味し、立法者も拘束する。また、「平等」とは事柄の性質に応じた合理的な区別を許容するものではあるものの、本件区別は、合理的理由を欠いた不当な差別である。以下、その理由を述べる。
まず、非嫡出子たる身分は、出生以降継続的に占める地位であるから、「社会的身分」(14条1項後段)に当たる。
そして、14条1項後段列挙事由は歴史的経緯を踏まえてあえて明文化した特別な意味を有するものであるから、これに基づく差別は、原則 として「法の下」の「平等」に反するといえる。
よって、非嫡出子であることを理由として相続分の差別的取扱いを規定する本件規定は、違憲性の推定が働き、合憲といえるためには、①立法目的が必要不可欠であり、②目的達成手段が必要最小限であることが必要である。③まず、立法目的は法律婚制度の維持・尊重及び非嫡出子の保護の調整を図る点にあると考えられるが、いわゆる晩婚化、非婚化、少子化が進んでいること、未成年の子を持つ親の離婚件数及び平婚件数も増加し ており、法律婚に対する考え方が変化していることに鑑みれば、法律婚制度の維持・尊重が、本件区別を生じさせてまで達成されるべき必要不可欠な目的であるかは疑わしい。また、本件規定の目的が非嫡出子の保護にあるとする点は、非嫡出子を嫡出子に比べて劣るものとする観念が社会的に受容される余地を作る重要な一原因となっており、目的としての正当性すら認め強い。
さらに、その立法目的を達成するために嫡出性の有無で相続分に差を設けることは、必要最小限であるどころか、そもそも合理性がない。なぜなら、非嫡出子の相続分を区別しても法律外の婚姻が減少するわけではないことは、近年非嫡出子の割合が増加しているという立法事実から明らかであり、非嫡出子の出現の抑止にはなっていないからである。
2 よって、本件区別には合理的理由がなく、本件規定は14条1項に反し違憲である。
第2 第1問設問2について
1 憲法上の主張における対立点は、審査基準と本件区別の合理的理由の有無である。
2 まず、Xは、審査基準について、Xは非嫡出子たる身分が、「社会的身分」に該当することを前提に、14条1項後段列挙事由については、厳格な審査基準が妥当すると主張する。 しかし、14条1項後段列挙事由は例示的なものにとどまるから、特別な意味はないものと解すべきである。また、相続制度を定めるに当たっては、それぞれの国の伝統、社会事情、国民感情なども考慮されなければならず、家族というものをどのように考えるかということとも密接に関係している。これらの事情を総合的に考慮した上で、相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断に委ねられているというべきである。
よって,そのような裁量を考慮しても、なおそのような区別をするこ との立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区 別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、当 該区別は、合理的な理由のない差別として、同項に違反する。 3まず、Xは、法律婚制度の維持・尊重は必要不可欠な目的ではないと するが、法律婚制度そのものは、立法府の裁量の範囲内にあるものとし て、24条1項に反するものではなく、少なくとも正当な立法目的であ ることは明らかである。一方、非嫡出子の保護を図ったものであるとの 目的は不合理である旨主張するが、これはXの主張のとおりであると解 する。非嫡出子を嫡出子に比べて劣るものとする観念が社会的に受容 される余地を作る重要な一原因となっていることは否めないからであ
次に、Xは、本件規定が、法律制度の維持・尊重を達成するための 手段として合理性すら有しないと主張する。
この点に関するXの主張は失当であると解する。本件規定の目的は、 単に法律外婚姻の取締法規にとどまるようなものではなく、私人間のあ るいは社会の各分野の様々な利益を調整して相続制度の基本を定立するというものであるからである。 しかし、本件規定の憲法適合性について判断をするための考慮要素と
なるべき社会情勢や我が国を取り巻く国際的環境等の変化が著しい点は、 重視すべきであると考える。
Xが主張するように,我が国では、婚姻,家族の形態が著しく多様化 しており、これに伴い、野州,家族の在り方に対する国民の意識の多様 化が大きく進んでいる。
また、欧米諸国では、民法900条4号ただし書と同様の規定を置い ている国もあったが,平成13年頃までには、全ての国で撤廃されてい ること、我が国は、国際連合の自由権規約委員会や児童の権利委員会か ら、嫡出子と非嫡出子の相続分を平等化するようにとの勧告がなされて いることなどは、我が国を取り巻く国際的環境の変化を示している。
このような国内外における社会情勢等の変化に照らせば、我が国にお いて今後出性の有無による区別を維持することは、許されないという べきである。
以上から、本件規定は、遅くとも平成22年2月28日の時点では、 上記立法目的との間の合理的関連性を失っており、14条1項に反し違 憲無効である。
以上

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