商法第13問

2022年9月12日(月)

問題解説

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問題

ある取締役会設置会社が、平成23年度の株主総会において、次のような内容の定款変更を行おうと考えている。それぞれについて会社法上どのような問題があるか説明した上そのような定款変更が許されるかどうかについて論ぜよ。
1 株式の譲渡について株主総会の承認を必要とする。
2 1万株以上の株式の所有者は、自社の製品を定価の4割引きで購入することができる。
3 平成24年度以降に発行する株式に対して行う剰余金配当はそれまでに発行した株式に対して行う剰余金配当の2分の1とする。
(旧司法試験 平成12年度 第1問改題)

解答

第1 変更点1について
1 会社法は定款に定めることで譲渡承認機関を変更することができるものとしている(会社法(以下、法令名省略。)139条1項ただし書)。もっとも、かかる規定によれば、どのような定めでも置くことができるか否かは別問題である。例えば、強行法規違反がある場合には、そのような定めを置くことは許されない。
そこで、本間のような定款変更が許されるか、検討する必要がある。
2 本問の会社は取締役会設置会社なので、原則として取締役会が承認機関である(139条1項本文かっこ書)。
しかし、株主を誰にするかを株主総会において株主が自ら決定することには合理性がある。また、譲渡承認請求をした場合において、承認機関が一定期間内に承認の通知をしない場合には、承認の決定をしたものとみなされるので(145条)、株主総会を承認機関にしても、株主の投下資本の回収に影響はない。
したがって、株式の譲渡について、株主総会の承認を必要とする旨の定款変更も許される。
3 本問会社が定款においてもともと譲渡制限を定めている場合(107 条1項1号)、定款変更をするためには株主総会の特別決議(466条、309条2項11号、これらの条文は以下記載を省略する。)を経る必要がある。
これに対して、本問会社がもともと譲渡渡限を定めていない場合、定款変更を行うには、株主総会の特殊決議(309条3項1号)を経る必要がある。
第2 変更点2について
1 このような定めはいわゆる株主優待制度と呼ばれる。株主優待制度を定めることが、株主たる資格に基づく法律関係において、その有する株式数に応じて平等な取扱いを受けることをいう株主平等原則(109条1項)に反しないかが問題となる。
2 まず、かかる株主優待制度は、株主権の内容とは無関係の会社の営業上のサービスや宣伝の一環に過ぎず、株主平等原則とは無関係であるとも思える。
しかし、かかる営業上の給付は、一定数以上の株式を有する株主とし ての資格を有するがゆえに認められるものであり、株主としての資格に基づく法律関係に関するものといえる。 したがって、株主優待制度が株主平等原則と無関係であるとはいえない。
3 では、株主優待制度は株主平等原則に反するか。
(1) 株主平等原則は公平の理念に基づくものである以上、平等といえるか否かについても形式的にではなく実質的に判断すべきである。
(2) 株主優待制度には、個人株主の増大等の合理的必要性が認められる。そのため、株主優待制度は、①優待の合理的な必要があり、②程度が軽微であれば平等原則には反しないと解する。
本小問の定款変更は、1万株以上の大株主に対して、自社製品を定価 の4割引きで購入することができるとするものであり、①安定株主確保という合理的必要性があるものと思われる。
もっとも、②本小問の定款変更は、自社の全ての製品を、期間や回 数の制限もなく、しかも定価の4割引きという相当の割合の値引きをしており、②優待の程度が軽微とはいえない。
4 よって、本小問の定款変更は株主平等原則に反し、許されない。
第3 変更点3について
1 このような定款変更が許されるか否かついては、同一種類の株式について一定時期の前後で株主ごとに取扱いを変える場合と、剰余金配当について異なる定めをした種類株式を特に発行する場合とで結論が分かれるので、以下でそれぞれ検討する。
2 まず前者については、剰余金の配当は株式数に応じたものでなければならず、同種の株式において異なる財産を割り当てることはできないので、原則として許されない。
もっとも、非公開会社においては、株主ごとに異なる取扱いをする旨を定款で定めることができるので、株主総会の特殊決議があれば本問のような定款変更も許される(109条2項309条4項)。
3 次に後者については、会社法の下では、剰余金の配当について、他の種類の株式よりも劣後的な地位が与えられる株式(108条1項1 号)を発行することも可能である。
したがって、剰余金配当を他の株式の2分の1にする種類株式を発行する旨の定款変更も許される。 なお、本問は全ての「平成24年度以降に発行する株式」に対して行われる剰余金配当が2分の1となっている必要がある。そこで、それま で発行されていた内容の株式(旧株式)が今後発行されないようにしなければならないことから、旧株式の発行可能種類株式総数を既に発行されている株式の総数にまで引き下げ、今後日株式が発行されないようにする旨の定款変更も行う必要がある(114条1項参照)。
以上

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