民事訴訟法第13問

2022年9月13日(火)

問題解説

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問題

2020年4月12日、XはA所有のアパート(以下「本件アパート」という。)の一室を借り受けた(賃料月額15万円、賃貸期間6年)。その際、Xは、Aの求めに応じて敷金30万円を差し入れた。
その後,2026年4月12日に、従前と同一条件で契約が更新されたが、同年7月27日に、AがYに対して本件アパートを譲渡したため、Yが本件アパートについての賃貸借契約関係を承継した。
Xは、本件アパートの一室を賃借し続けていたが、2027年に入って間もなく、Yは、本件アパート付近にJRの駅が新設され、それに伴い地価が上昇していることを理由に、2027年1月10日付けの内容証明郵便で、賃料の増額を申し入れた。
Xは、Yの申入れを拒絶したものの、賃貸借契約は継続したい旨を述べた。そのため、Yは、賃料増額の調停を申し立てた。調停では、敷金の存在も争われ、Yは、敷金差入れの事実も返還約束も存在しないと主張した。
そこで、Xは、2027年3月10日、Yに対し、敷金の返還請求権の存在確認を求めて提訴した(以下「本件訴え」という。)。本件訴えは適法と認められるか。

解答

1 本件は敷金返還請求権確認の訴えである。そこで、確認の訴えとして訴えの利益が認められるか。
2 確認行為という性質上、確認の訴えの対象は無限に拡大し得るから、限界付けが特に重要となる。しかも、確認の訴えには強制的実現を伴わないから、そのような判決を得ておく実益は低い。給付判決によるべきときには、確認の訴えの利益は認められないことになる。このような意味で、確認の訴えの利益が認められる場合は相当限定されることにな る。すなわち、確認の利益が認められるのは、確認の訴えが紛争の抜本的な解決に資する場合に限られる。
具体的には、①対象選択の適否、②方法選択の適否、③即時確定の利益を基準に判断する。
(1)ア ①対象選択の適否とは、確認訴訟では何を確認することが許されるかという問題である。原則として、自己の現在における権利・法律関係の積極的確認が許される。 もっとも、紛争の一挙・抜本的解決につながる場合には、例外的にこれ以外を対象とすることも許される。例えば、過去の法律関係から現在の具体的な法律関係が複数派生している場合、紛争の抜本的解決のために過去の法律関係を確定することが必要かつ適切であるといえる。
将来発生する権利又は法律関係の確認は認められない。現在から その将来までの時間の経過の間に、権利や法律関係はいくらでも変動し得るからである。
イ 敷金返還請求権は、一見すると、将来発生する権利のようにもみえる。しかしながら、敷金返還請求権は、賃貸借終了後、建物明渡しがされた時において、それまでに生じた敷金の被担保債権一切を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき発生するものであるから(民法622条の2第1項1号)、賃貸借契約終了前においても条件付きの現在の権利として認められる。
ウ したがって、本件訴えの対象は、このような条件付きの権利と解されるから、現在の権利又は法律関係ということができ、確認の対象としての適格性を満たす。
(2)ア ②方法選択の適否とは、確認訴訟によることが有効かつ適切か否かの問題である。他の訴訟形態が適切である場合、確認訴訟の提起は許されない。
イ 前記のような敷金の性質からすると、賃貸借契約の継続中に,敷 金返還請求訴訟を提起したところで、具体的な権利の行期未到来 を理由に請求棄却となってしまう。
将来給付の訴えとして行うことも考えられるが,敷金返遊請求権 の前に性質からすれば、口頭弁論終結時までに建物の明渡しが予定 されない本件では、口頭弁論終結時点において将来発生する敷金返 還請求権の有無及び全額が明らかになるとはいえず、そもそも請求 の趣旨(133条2項2号)を特定できない。しかも、具体的な敗 金の額を現時点で予測し得ない以上は、条件付権利が現実に侵害されているといえないのであるから、「あらかじめその請求をする必要」(135条)が認められない。このように、本件では、給付訴話が功を奏しないため、紛争解決のために確認訴訟によることが有効かつ適切であるといえる。
(3)ア ③即時確定の利益とは、原告の権利・地位に不安・危険が生じており、かつ、その不安・危険が現実的なものである場合に認められる。
イ 本件でYは、敷金返還請求権の発生の前提である敷金の差入れ自体を争っている。これでは、Xは、敷金の被担保債権の状況を確認し、具体的な返還額を交渉しようにも、その前提から否定されてしまっているといえる。
したがって、具体的な返還額以前の基本的な地位に不安が生じているといえ、今まさに賃借人の不安は現実化しているといえる。
付言すれば、敷金の交付を否定するYとの間では、敷金返還請求権の存在が確認されることによって、再度の紛争が生じる可能性はなくなるといえるし、仮に放金返還請求権の額をめぐって再度訴訟になったとしても、争点は被担保債権の範囲、その額の点に絞られ、敷金交付の事実に関する判断は無駄にはならない。
ウ したがって、③即時確定の利益も認められる。
3 よって、本件では訴えの利益が認められるので、本件訴えは適法である。
以上

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