民事訴訟法第14問
2022年9月20日(火)
問題解説
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問題
甲は、乙を被告として、乙に対する300万円の請負代金の支払を求める訴えを提起し、乙は、右請負代金債権の成立を争うとともに、甲に対する100万円の売買代金債権を自働債権として甲の右請負代金債権と相殺する旨の訴訟上の相殺の抗弁を提出した。
(1)右訴訟において、裁判所が、甲の乙に対する請負代金債権の成立を認めるとともに、この相殺の抗弁を認容して、乙に対して200万円の支払を命ずる判決をし、これが確定した場合、この判決は、どのような効力を有するか。
(2)乙が右訴訟において相殺の抗弁を提出した後、判決がされるまでの間に、甲を被告として右売買代金の支払を求める別訴を提起した場合、裁判所は、この別訴をどのように取り扱うべきか。
(旧司法試験 平成5年度 第2問)
解答
第1 小問(1)について
1 まず、甲の乙に対する請負契約に基づく200万円の代金支払請求権の存在及び同債権の100万円の不存在(114条1項)並びに自働債権であるこの甲に対する売買代金債権100万円の不存在(114条2条)の判断について既判力が生じることは疑いない。
2 もっとも、訴求債権と反対債権がともに存在し、それが相殺によって消滅したという判断に既判力が生じるか否かについては、条文からは明らかではない。
この点に関して、原告は反対債権が当初から存在しなかったから改めて債権を訴求する(あるいは不当利得返還請求・損害賠償請求を行う)、一方、被告は原告の債権は相殺以外の別の理由で不存在だったので反対債権を行使する(あるいは不当利得返還請求・損害賠償請求を行う)という形で、当事者が紛争を蒸し返すおそれがあることを理由に肯定的に解する見解がある。
しかし、前者は主文における訴求債権の不存在、後者は理由中の判断における反対債権の不存在に生じる既判力で排斥できるから、上記のような紛争の蒸し返しのおそれはない。
したがって、訴求債権の不存在及び反対債権の不存在について既判力が生じるとしておけば足りると解する。
3 以上から、1で論じた部分のみに既判力が生じるものと考える。
第2 小問(2)について
1 甲の乙に対する300万円の請負代金請求訴訟において、乙が甲に対して100万円の売買代金債権をもって相殺する旨の抗弁を提出した後、当該訴訟の係属中に別訴で100万円の売買代金の支払請求を行っている。
相殺の抗弁は訴えではないため、この別訴請求は二重起訴(142条)そのものには当たらない。そのため、同条の直接適用はない。
2 もっとも、142条が二重起訴を禁止したのは、同一事件が別々に係属することにより、被告が二重の応をいられるという不都合があること、加えて、審判が矛盾、抵触するおそれがあり、訴訟経済にも反することによる。
そうだとすれば、相殺の抗弁も被告が二重の応を強いられる点では同様であり、また、それが判断されれば既判力が生じることから、審判が矛盾・抵触するおそれがあるため、142条の趣旨は全て当てはまる。そこで、相殺の抗弁が先行している場合にも、142条を類推適用して、相殺の抗弁と同一の債権を同一当事者に対する別訴で請求することは許されないと解する。
また、このように解したところで、別訴ではなく、反訴(146条)として提起することは認められるのだから、不都合はない。
したがって、142条が類推適用されると解すべきである。
3 以上から、裁判所は、この別訴を不適法なものとして却下すべきである。
以上