民法第18問
2022年10月14日(金)
問題解説
問題
1 甲土地の所有者Aが死亡し、Aの妻Bと一人息子Cが甲土地を共同相続した。ところが、Cは、各種書類を偽造して、甲土地につきC単独名義の相続登記をした上、Dとの間で、甲土地の売買契約を締結するとともに、Dに対して、所有権移転登記手続をした。
そこで、Bは、Dに対して、甲土地についての所有権移転登記の抹消登記手続を求めた。Bの請求は認められるか。
2 乙土地の所有者Eが死亡し、Eの妻Fと一人息子Gが乙土地を共同相続したが、Gは 相続を放棄した。ところが、Gの相続放棄後、Fが単独所有の登記を備える前に、Gの債権者Hが、乙土地についてのGの持分(相続分)を差し押さえ、その旨の登記を経由した。
そこで、Fは、Hに対して、差押登記の抹消登記手続を求めた。Fの請求は認められるか。Hの差押えがなされたのが、Gの相続放棄前であった場合はどうか。
3 丙土地の所有者が死亡し、Iの妻と一人息子Kが西土地を共同相続した。JとK は遺産分割協議を行ったが、協議が成立する前に、Kの債権者であるLが、丙土地につ いてのKの持分を差し押さえ、その旨の登記を経由した。その後、遺産分割協議が成立し、西土地はJの単独所有となった。
そこで、Jは、Lに対して、差押登記の抹消登記手続を求めた。Jの請求は認められるか。LがKの持分を差し押さえたのが、遺産分割協議成立後であった場合はどうか。
解答
第1 小問1
1 Bは、Dに対して、所有権に基づき、甲土地についての所有権移転登記の抹消登記手続を請求すると考えられる。
2(1) Bの死亡により、甲土地はB及びCの遺産共有状態となるところ(882条、896条本文、898条)、「共有」(898条1項) について249条以下の共有と別異に解すべき理由はないから、Cの持分(同条2項、900条1号)については、Dに対して有効に譲渡が行われている。また、登記も揃えられているので、Bがその部分について権利を取得し、これをDに対抗できるとする余地はない。
(2) では、Bの持分についてはどうか。具体的には、登記なくして自己の持分の相続による取得についてDに対抗することはできるか。
ア まず、「物権の得喪及び変更」(177条)という文言には特に限定がないから全ての物権変動について登記が必要である。
イ 次に、「第三者」(同条)とは、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者を指す。177条は物権変動を公示することにより、同一の不動産につき自由競争の枠内にある正当な権利・利益を有する第三者に不測の損害を与えないようにする旨の規定である。そうだとすれば、正当な権利・利益を有しない者は同条により保護する必要はないからである。 そうすると、登記をするかという問題は、Dが177条の「第三者」に当たるか否かという問題に帰着することになる。
ウ ここで、共同相続人には持分以上の権利はないから、持分権を超える額は単なる無権利者による譲渡にすぎない。そうだとすれば、受人は持分権を超える部分について権利を取得できないのが原則である。また、相続分は近い将来に遺産分割で変更されるものであって、これについて登記を要求するのは酷である。相手方は94条2項類推適用によって保護すれば足りる。
したがって、共同相続人からその持分を超える譲渡を受けた譲受人は、その部分について無権利者であって、登記の欠説を主張する正当な利益を有する「第三者」に当たらない。 エ 本小問でも、共同相続人からその持分を超える譲渡を受けた譲受人であるDは「第三者」に当たらないから、Bは登記なくして、自己の持分の相続による取得についてDに対抗することができる。
3 一方で、上記のように、Cの持分については、Dが、有効に所有権を取得しており、登記が実体関係に合致しているから、その部分について抹消手続きを求めることはできない。
以上より、Bの請求は、自己の持分についてのみの一部抹消のみの範囲で認められる。
第2 小間2
1 Fは、Hに対して、所有権に基づき登記の抹消登記手続を請求すると考えられる。
2 小問で、FとGは共同相続しているものの、Gは相続を放棄している。相続放棄には選及効が認められるから(939条)、Fは相続開始時から乙土地を単地所有していたことになる。そのため、Fは、Hの差押えは無効であると主張するだろう。 これに対して、Hは、権利主張には登記をすべきであると反論することが考えられる。では、この反論は認められるか。
939条が放棄の遡及効を定める一方、第三者保護規定を置いていないことからすると、立法者は放棄の効力を絶対的なものとする意思であ る。そうだとすれば、放棄者の権利を前提として権利取得行為をした者は全て無権利者となり、「第三者」に当たると解する余地はない。
実際上も、放棄前の第三者については相続放棄の期間が短く(915条1項)、かつ、法定単純承認の制度(921条)もあることか ら、そのような者が現れるとは考え難い。一方で、放棄後に利害関係を取得した第三者は家庭裁判所に放棄の有無を問い合わせれば足りる(938条参照)ので、保護の必要性は低い。
そのため、いずれの場合も登記を要すると解すべき必要性に乏しい。したがって、攻撃の前後を問わず、およそ登記を要することなく権利主張をすることが可能であると解する。 3 本小問でも、放棄の前後いずれにおいて日が差押えをしたとしても、Fは登記なくして所有権を対抗できるため、Fの請求は認められる。
第3 小問3
1 前段について
(1) Jは、Lに対して、所有権に基づき丙土地の差押登記の抹消登記手続を請求していると考えられる。
(2) 本小問では、西土地をの単独所有とする遺産分割協議が行われているところ、遺産分割協議には遡及効があるから(909条本文)、Lの差押えは無効となるのが原則である。 (3) これに対して、Lは「第三者」(同条ただし書)に該当し、保護されると主張することが考えられるが、その主張は認められるか。
同条の趣旨は、遺産分割の適及効によって著される第三者を保護する点にあるから、「第三者」とは、遡及効によって著される遺産分割前の第三者をいうものと解する。なお、善意・悪意は問わない。 分割によってどのような協議がまとまるか分からないからである。
もっとも、第三者が権利取得を対抗するためには、登記の具備が必要である。遺産分割によって単独所有権者となった者には何ら帰責性がない以上、権利保要件としての登記を要求すべきだからである。
本小問では、遺産分割前に差押えを行い、その旨の登記を経由しているLは、「第三者」に当たるから、この主張は正当である。
(4) 以上からJの請求は認められない。
2 後段について
(1) では、Lが遺産分割後にKの持分を差し押さえた場合はどうか。
(2) この場合、Lは遺産分割後に利害関係を取得した者であるから、「第三者」(909条ただし書)に当たらない。しかし、Jは、Kの法定相続分については、登記を備えなければ、 権利の承継をLに対抗することができない(899条の2第1項)。
(3) したがって、JがKの法定相続分について登記を備えない限り、Jの請求は認められない。