商法第18問

2022年10月15日(土)

問題解説

問題

P株式会社(以下「P社」という。)の定款には、全ての株式について、株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定めがある。
株主Aは、事前にP社取締役会の承認を得ることなく友人のBにAが保有する全株式を譲渡した(以下「本件株式譲渡」という。)ところ、Bは、P社に対し、本件株式譲渡を承認すべきこと、承認しないときは、P社が買い取るか他に株式を買い受けるべき者を指定すべきことを適法に請求した。
P社取締役会は、Bが株主となることを望まず、Bに対し、本件株式譲渡を承認しない旨を通知した(以下「本件通知」という。)。その上で、P社は、株主総会の特別決議(以下「本件決議」という。)に基づき、Pが保有する全株式を買い取る旨を決定し(以下「本件決定」という。)、Bに対し、その旨を通知するとともに、保有する株式を全てP社に売り渡すよう請求した(以下「本件売渡請求」という。)。しかし、P社における本件決議について、議決権総数の20%を有する大株主Cに対して株主総会の招集通知が発せられていなかった。
以上の場合に、Bは本件売渡請求を拒むとともに、P社に対して名義書換請求をすることができるか検討せよ。
なお、現時点では、本件通知から40日間を経過しており、また、本件決議の日から3か月は経過していないものとする。

解答

第1 売渡しを拒むことの可否
1 Bは、P社株主であるCに本件決議(会社法(以下、法令名省略。)140条1項、2項、309条2項1号)の招集通知 (299条)が漏れていることを理由として、本件決議の取消しの訴えを提起した上で(831条1項1号「招集の手続」の「法令」「違反」)、本件決定が遡及的無効となることを主張し、本件売渡請求を拒むとともに、P社に対して本件株式譲渡にかかる名義書換請求を行うことが考えられる。
もっとも、BはP社から、本件株式譲渡について承認を得ておらず、「株主」(同項柱書)といえるか。
定款による譲渡制限の趣旨が会社の閉鎖性維持にあることからすると、少なくとも、承認なき譲渡制限株式の譲渡は、会社との関係では無効であると解すべきである。 そうすると、Bは「株主」であることという要件を満たさないようにも思える。
しかし、仮に本件決議を取り消した場合、P社自身を買受人とする本件決定(140条1項、2項,309条2項1号)及びP社がBの保有する全株式を買い取る旨の通知(141条1項)は遡及的に無効となる(839条反対解釈)。この場合に、本件株式譲渡の承認を拒む旨の本件通知(139条2項)を行った日から40日間が経過していれば、P社は承認したものとみなされる(145条2号)。 本問では、本件通知からすでに40日間が経過しているから、Bは、本件決議の「取消しにより株主となる者」に含まれる(831条11項柱書後段)。
2 ただ、Bが「株主」であることの要件を満たすことはあり得ると考えても、本件決議の招集通知漏れがあったのがCに対してであるという間題がある。すなわち、831条1項各号の取消事由には、他人について生じた瑕疵も含まれるのか問題となる。
株主総会決議取消しの訴えの趣旨は個々の株主の利害を超えて、公正な決議を保持する点にある。そして、他の株主に対する招集通知漏れであろうと決議の公正を害するおそれがあることは変わりない。
したがって、他の株主に対する招集通知漏れを取消事由として主張することも許されると解する。
3 以上から、Bは株主総会決議取消しの訴えを提起することができ、さらに取消事由も認められることから、Bの訴えは認容されることになる。
なお、Cは20%の議決権を有する大株主であるから、瑕疵が「重大」ではないとして裁量棄却(831条2項)の対象となることもない。
したがって、少なくともBは本件売渡請求を拒むことができる。
第2 名義書換請求の可否
上記のように、本件通知からすでに40日間が郵送しているから、Bは承認を受けたものとみなされ、P社にも譲護の有効性を主張できるようになる。
よって、名義書換請求を行うこともできる(134条2号)。
以上

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