商法第19問

2022年10月22日(土)

問題解説

問題

(1) Y株式会社(以下「Y社」という。)は、株券発行会社であり、取締役会設置会社である。Y社の定款には、取締役会決議により中間配当をすることができる旨の定めがある。なお、Y社においては、基準日の定めはない。Xは、平成26年6月1日、Y社の株式100株をZから譲り受け、株券の引渡しを受けたが、名義書換えを失念していた。
Y社取締役会は、平成26年8月1日、株主名簿上の株主に中間配当をする旨の決議をし、乙に対し、同決議に基づき1株につき1000円を配当した。
XY社Z間の法律関係について論じなさい。
(2) (1)の事案において、仮に、取締役会決議の内容が、株主名簿上の株主に対して株式たる権利を付与して株式を発行すること(この手続きは適法になされたものとする。)及び発行価額を1株3万円とすることであったとして、Zが上記権利を行使して新株を取得した場合におけるXY社Z間の法律関係について論じなさい。
なお、Y社の株価は、新株発行直後に5万円、その後上昇して現在は10万円となっているものとする。
(3) (1)の事案において、仮に、取締役会決議の内容が、Xに対して株主総会における議決権行使を認めることであった場合、その決議は適法か。

解答

第1 小問(1)について
1 XY社間の法律関係
XはY社に対して中間配当でZに交付した額(100株×1000円)を、交付するように請求することが考えられる。
しかし、Xは名義書換未了であり、会社法(以下、法令名省略。)30条1項及び2項により会社に対して株式の譲受けを対抗できず、したがって、株主であることも対抗できないので、Xの請求は認められない。
2 XZ間の法律関係
(1) XはZに対して、不当利得返還請求(民法703条、704条)として上記額の返還を求めることが考えられる。
(2) XはZから株式を譲り受けており、当事者間では意思表示のみで株式の譲渡が可能である以上、株主たる地位はXに移転している。
したがって、Xには株式・新株予約権の割当てを受ける権利や剰余金の配当を受ける正当な権利がある。
そうだとすれば、Zが権利を行使している場合には、それが「法律上の原因」のない利得として、不当利得(民法703条、704条) となる。
(3) 本問では、中間配当として剰余金の配当がなされている(454条5項参照)。
この場合、Zは何らの経済的出捐をせず、利得していることとなるから、配当額そのものが不当利得である。
したがって、Zは配当額をXに交付すべきである。 よって、Xは乙に対して、1株ごとの配当額である1000円に譲り受けた株式の数である100株を乗じた10万円の返還を請求する
ことができる。
第2 小問(2)について
1 XY社間の法律関係
XはY社に対して新株の割当てを受ける権利を与えるように請求することが考えられるが、小間(1)と同様、名義書換えが未了である以上、この請求は認められない。
2 XZ間の法律関係
(1) 本問では、新株の割当てを受ける権利(202条)が与えられている。そこで、小問(1)と同様、XはZに対して、不当利得返還請求として、新株の引渡(株券の引渡)請求、新株発行直後の株価又は現在の株価と発行価格の差額の返還請求を求めることが考えられる。
(2) この点について、判例は、譲渡人が引受け及び払込みを行っていることなどを理由として、この場合における譲受人の不当利得返還請求を認めない。
しかし、上記のように、当事者間では、株主たる地位が譲受人に移転している以上、これは会社との関係と対譲渡人との関係を混同するものであるというべきである。
そもそも、 当事者間では新株の割当てを受ける権利は譲受人に帰属する。仮に、譲渡人に帰属するとした場合、譲渡人は、増資含みの高値による株式譲渡と株式のプレミアムを取得することとなり、二重の利得となるため、妥当でない。
そこで、譲受人は、譲渡人に対して不当利得返還請求をなし得ると解すべきである。
(3) 問題は、具体的な返理の内容として何を求め得るかであるが、株式(株券)それ自体は譲渡人自身の払込みによって得られたものであるから、「法律上の原因」があり、不当利得とならない。
そこで、原則として価額賠償として、現存利益の限度で不当利得を返還すべき(民法703条)であると解する。具体的には、新株発行直後の株価と引受価額の差額を上限として、株価が値下がりしている場合は、請求時の株価と引受価額との差額しか請求できない。
なお、譲受人が払込期日前に、払込金額相当の金銭を提供して、譲護人に対して株式の引受けを請求したというような特段の事情がある場合は、譲受人は譲渡人に対し株式(株券)の引渡しを求めることができると解すべきである(民法704条)。譲受人が株式の引受けの意思表示を行っていた以上、譲渡人が株式を引き受けることができる地位にないからである。
(4) 本問では、引受価額は3万円、新株発行直後の価額は5万円であるから、XはZに対して5万円から3万円を控除した2万円に、100を乗じた200万円の不当利得返還請求ができる。
なお、上記特段の事情は認められないから、株式(株券)の引渡請求は認められない。
第3 小問(3)について
1 本件で、Xは、名義書換えをしていないから、Y社に対して株式の譲受けを対抗することはできず、Y社はXに議決権を行使させる必要はない。
2 では、Y社がXに議決権を行使させることはできるか。
名義書換制度の趣旨は、株主名簿による株主の集団的・画一的取扱いを可能にする点にあり、会社保護のための規定である。そうだとすれ ば、会社がかかる利益を放棄するのは自由である。また、条文上も「対抗することができない」(130条1項)とされており、会社の方から権利行使を認めることを禁止しているとは解されない。
したがって、会社が自己の危険において、権利行使を認めることは可能であると解する。 ただし、会社は株主平等原則(109条1項)に配慮しなければならない。
3 したがって、Y社は株主平等原則に違反しない限りにおいて、Xに議決権の行使をさせることができるため、議決権行使を認める旨の取締役会決議は適法である。
以上

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