刑事訴訟法第19問

2022年10月27日(木)

問題解説

問題

司法警察員P及びQは、深夜繁華街を警ら中、足をふらつかせながら奇声を発している甲を認めた。P及びQは、甲に対して職務質問を開始したところ、甲が時折意味不明な言動をしたり、瞳孔が定まらなかったりしている上、両腕に静脈注射痕様のものがあることから、Pは、甲が覚せい剤を使用しているのではないかとの嫌疑を抱いた。そのため、P及びQは、甲を警察署まで任意同行した上で、尿の提出を求めたが、甲がこれに応じる気配は全くなかった。
そこで、Pは、Qに対して、甲の説得を継続するように指示する一方で、自分は裁判所に対して、強制採尿に必要な令状を請求した。Pは、裁判所から令状を取得すると、警察署に戻り、甲に対して、「さっき、話を聞いていたときのお前の言動はおかしかった。あれは覚せい剤を使用している者に特有のものだ。尿を調べたいから、提出してくれないか。」と再度申し向けた。甲は、これに抵抗を示しつつも、自らトイレへ行き、 渡された紙コップに尿を排尿して出てきたが、「やっぱり駄目だ。」などと言い、トイレ内の洗面所に尿を流してしまった。その後、P及びとが何度説得しても、甲は、頑なに尿の任意提出を拒んだ。そこで、Pは、甲を拘束し、パトカーに乗せた上で、最寄りの病院まで連行し、担当医にカテーテルを用いた強制採尿を実施させ、尿を採取した。
[設問]下線部の捜査の適法性について論じなさい。その際、強制採尿に必要な令状の種類について明らかにすること。 なお、職務質問及び警察署への任意同行は適法であることを前提としてよい。

解答

1 強制採尿は、人格の尊厳を著しく損なうものであるから、「強制の処分」(197条1項ただし書)としてもこれを行うことは許されな」いかに思える。
しかし、覚せい剤自己使用は密行性の高い重大犯罪であり、客観的証期の採取のためには強制採尿は不可欠の捜査手段である。また、身体に対する影響は医師により適切な方法でなされるならば格別な問題は生じないと考えられるし、精神的打撃についても、検証としての身体検査においても同程度のものがあり得る以上(218条1項後段、3項)そのことをもって直ちに法律上許されない捜査方法ということはできないというべきである。
(2)ア もっとも、被疑者に与える影響の重大性に鑑み、厳格な要件の下でのみ許されると解する。すなわち、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことができると考える。
イ 覚せい剤自己使用罪は、社会的害悪をもたらす可能性が高い重大犯罪である。また、甲は、時折意味不明な言動をしたり、瞳孔が定まらなかったりしている上、その両腕に静脈注射痕のものがあることから、同罪の嫌疑が強く認められる。
そして、甲が自己の体内に覚せい剤を取り込んだことを証明するに際し、甲の保及びそこから得られるであろう覚せい剤の成分は、極めて重要な証拠であり、取得の必要性も高い。
さらに、甲は、P及びQの度重なる尿の任意提出の求めに応じず、一度応じかけた際にも「やっぱり駄目だ。」などと言い、トイレ内の洗面所に尿を流してしまったことからすれば、もはや強制採尿以外の方法では尿の取得を実現できない状況になる。
したがって、Pによる強制採尿は、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合における、最終的手段であるといえる。
ウ 以上から、Pによる強制採尿は、実体要件を満たす。
2 次に、適切な法律上の手続として、強制採尿をする場合に、いかなる令状によるべきか。
強制採尿は、体内に存する尿を犯罪の証拠物として発見し、強制的に占有を取得するものである。また、尿は老廃物としていずれ体外に排泄される無価値物であり、その直前に防説に貯留されている異物にすぎないから、もはや身体の一部としての性格を博め「物」としての性質を強めているので、捜索差押許可状(218条1項前段、219条)によるべきと考える。
しかし、尿がいまだ体内にある場合には、生理的機能を害したり、精神的打撃を与える等の人権侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索差押えと異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する218条6項を準用して、医師をして医学上相当な方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠と考える。
3 では、上記2記載の令状に基づいて、 採保のために対象者を連行することは許されるか。
この点につき、法は「人」に対する強制処分と「物」に対する強制処分とを区別していることから、「物」に対する強制処分の令状によって 「人」を強制連行することは許されないという考えもある。
しかし、採尿自体を強制的に行い得るのに、その前段階の強制採尿場所への強制連行についてのみ相手方の同意を要するというのは、実質的理由に乏しい。
強制連行を認めないと強制採尿の目的が達成できないから、その限度では強制連行を認めるべきである。また、令状を発付する裁判官は、連行の当否を含めて審査して、令状を発付したものとみられる。
したがって、身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合においては、強制採尿のための捜索差押許可状の効力として、採保に適する最寄りの場所へ被疑者を連行でき、その際には必要最小限の有形力の行使も認められると解する。
本問でも、この限度であれば、甲の強制連行が可能である。
4 以上より、Pが取得した令状が上記2記載のものであり、連行方法が上記3記載の限度に止まっている場合には、下線部の捜査は適法である。
以上

解説音声

問題解答音読

手書き解答