行政法第23問

2022年11月22日(火)

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問題

Xは、Y県内において、鉄筋コンクリート造で3階建ての病院を経営しており将来的には施設の拡張を予定したところ、Y県は、X所有の土地を含む一体を都市計画法第8条第1項に基づき、工業地域に定めること等を内容とする都市計画用途地域の決定(以下「本件決定」という。)をした。
これによって、病院施設の拡張ができなくなったXは、本件決定の取消しを求める訴えを提起した。
本件決定は、抗告訴訟の対象たる処分に当たるか、論じなさい。
【資料】
○ 都市計画法 (昭和43年6月15日法律第100号) (抜粋)
(地域地区)
第8条 都市計画区域については、都市計画に、次に掲げる地域、地区又は街区を定 めることができる。
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地城、田園住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域又は工業専用地域 (以下「用途地域」と総称する)
二十六 (略)
2~23 (略)
○ 建築基準法 (昭和25年5月24日法律第201号) (抜粋)
(建築物の建築等に関する申請及び確認)
第6条 建築主は、第1号から第3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合(中略)においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。(以下略)
(略)
三 木造以外の建築物で2以上の階数を有し、又は延べ面積が200平方メートルを超えるもの
四 (略)
2~9 (略)
(用途地域等)
第48条 1~11 (略)
12 工業地域内においては,別表第2 (を)項に掲げる建築物は, 建築してはならな い。 ただし、特定行政庁が工業の利便上又は公益上必要と認めて許可した場合にお いては、この限りでない。
13~17 (略)
(容積率)
(略)
第52条 建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下「容積率」という。) は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める数値以下でなければならない。(以下略)
一~三(略)
四 工業地域内の建築物(第6号及び第7号に掲げる建築物を除く。)又は工業専用地域内の建築物
10分の10、10分の15、10分の20、10分の30又は10分の40のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの
五~七 (略)
2~15 (略)
(建蔽率)
第53条 建築物の建築面積(同一敷地内に2以上の建築物がある場合においては、その建築面積の合計)の敷地面積に対する割合(以下「建蔽率」という。)は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める数値を超えてはならない。
一~四 (略)
五 工業地域内の建築物
10分の5又は10分の6のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの
六 (略)
2~9
(略)
別表第2
(を)
用途地域等内の建築物の制限 (第27条, 第48条, 第68条の3関係) 工業地域内に建築してはならない建築物
~五 (略)
六 病院

(略)

解答

1 本件決定は、抗告訴訟の対象たる「処分」(行政事件訴訟法3条2項)に当たるか。
2 取消訴訟は行政行為の公定力を排除するための訴訟類型であるから、「処分」 とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち(①公権力性)、その行為によって、 直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているもの(②直接具体的法効果性)であるのが原則である。
しかし、今日における行政主体と国民との関わり合いは従来想定されていた単純なものにとどまらない。
そこで、上記基準を基本としつつも、立法者意思、紛争の成熟性、国民の実効的権利救済などの様々な観点を考慮に入れて、「処分」といえるかを判定すべきであると考える。
3(1) 本件決定は、都市計画法8条1項に基づいてなされる工業地域に定めること等を内容とする都市計画用途地域の決定でありこれはY県の優越的な地位に基づく一方的判断に基づくものであるから(①公権力性)は認められる。
(2) ②直接具体的法効果性は認められるか。
都市計画区域内において工業地域を指定する決定は、都市計画法8条1項1号に基づき都市計画決定の一つとしてされるものである。そして、この決定が告示されて効力を生ずると、 当該地域内においては、病院等の建築物が建築できなくなる(建築基準法48条12項。 別表第2)。
また、それ以外の建物であっても、容積率建ぺい率等につき従前と異なる基準が適用され(同法52条1項4号、53条1項5号等)これらの基準に適合しない建築物については、建築確認を受けることができず(同法6条)、ひいては、その建築等をすることができないこととなる。
そうだとすれば、本件決定が、当該地域内の土地所有者等に建築基準法上、 新たな制約を課し、その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できない。
しかし、かかる効果は、当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに同地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものということはできない。
したがって、②直接具体的法効果性は認められない。
(3) また、指定された土地上に現実に建築の制限を超える建物の建築をしようとして、それが妨げられている者は、建築の実現を阻止する行政庁の具体的処分を捉えて、 地域指定が違法であることを主張して、当該後続処分の取消しを求めることにより、権利救済の目的を達することができるため、本件決定の取消訴訟によって争えなくても、権利救済の見地からみて、不当ともいえない。
4 本件決定は、抗告訴訟の対象たる「処分」には当たらない。
以上

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