刑法第24問

2022年11月30日(水)

問題解説

問題

甲は、空き巣を生業としている者であるが、ある日、不法残留者である乙(41歳)丙(39歳)及び丁(16歳)が甲のところに訪れ、「祖国に帰るためのお金がないから、空き巣をやろうと思う。コツを教えてほしい。」などと頼まれた。甲は、乙らの境遇に同情し、協力してやろうと考えたため、乙らに対し、自己が作成した家宅の施錠を解錠するための道具であるピックを交付し、「留守宅を見つけたらこれを使って鍵を開けなさい。」と言った。
乙は、甲から渡されたピックを持って、留守宅であるA宅の前まで来たものの、自分にはピックは使いこなせないだろうと考え、A宅周辺をうろうろしていたところ、偶然にも、裏口が施錠されていないことに気が付き、裏口からA宅へ立ち入り、居間の戸棚から現金10万円を見つけ、これを持ち去った。
丙は、甲から渡されたピックを持って、留守宅であるB宅の前まで来たものの、万が一警察に捕まったら大変なことになると恐くなって、何もすることなく、その場を立ち 去った。
丁は、甲から渡されたピックを用いて、留守宅であるC宅の玄関の施錠を解錠してC宅へ立ち入りリビングにあるテーブル上に置かれていた腕時計を見つけ、これを持ち 去った。
甲乙丙及び丁の罪責について、論じなさい(特別法違反を除く。)。

解答

第1 乙の罪責
乙が、裏口からA宅へ立ち入った点については、「正当な理由がないのに人の住居···に侵入したものとして、住居侵入罪(130条前段)が成立する。また、乙が居間の戸棚から現金10万円を見つけ、これを持ち去った点については、「他人の財物を窃取した」ものとして、窃盗罪(235条)が成立する。
両罪は目的手段の関係にあるから、牽連犯(54条1項後段)となる。
第2 丙の罪責
丙は、留守宅であるB宅の前まで来たものの、万が一警察に捕まったら大変なことになると恐くなって、何もすることなく、その場を立ち去っており、住居侵入及び窃盗の実行の着手(43条本文)も認められないので、不可罰である。
第3 丁の罪責
丁は、留守宅であるC宅の玄関の施錠を解錠してC宅へ立ち入り、リビングにあるテーブル上に置かれていた腕時計を見つけ、これを持ち 去っているから、第1で述べたところと同様に、住居侵入罪及び窃盗罪が成立し、 両罪は牽連犯となる。
第4 甲の罪責
1 乙に自己が作成した家宅の施錠を解錠するための道具であるピックを交付した行為について
(1) 甲には、「正犯」たるこを「幇助した」として、住居侵入罪及び窃盗罪の幇助犯(62条1項)の成立可能性がある。もっとも、乙は甲から渡されたピックを使いこなせないだろうと思っており、これを使用しておらず、A宅に侵入したのは、偶然に裏口が開いていたからである。
このような場合でも、幇助犯は成立するか。
(2) 共犯の処罰根拠は共犯者を通じて、間接的に法益侵害の結果又はその危険を発生させる点に求められる。そうだとすれば、何らかの形で、共犯行為と結果との因果性が要求されると解される。
具体的には、共犯行為の性質を踏まえ、幇助行為については犯罪行為を物理的又は心理的に促進し、あるいは容易にすることで足りると解する。
本件では、乙は、甲から渡されたピックを持って、留守宅であるA宅の前まで来たものの、自分にはピックは使いこなせないだろうと考え、これを使用しておらず、物理的因果性は及んでいない。
また、乙はピックを使いこなせないと考えていたところ、偶然裏口が施錠されていないことに気付いたため、犯行に及んだもので、この犯行は全く新たな犯意に基づくものであるから、心理的因果性も及んでいない。
(3) したがって、甲は乙の行為について住居侵入罪及び窃盗罪の幇助の罪責は負わない。
2 丙に自己が作成した家宅の施錠を解錠するための道具であるピックを交付した行為について
(1) これについても、住居侵入罪及び窃盗罪の幇助犯の成否が問題となるも、正犯である丙はこれらの実行に着手していない。
(2) そこで、正犯に実行の着手がない場合でも幇助犯は成立するのか。上記のように、共犯の処罰根拠は共犯者(狭義の共犯の場合には正犯)を通じて、間接的に法益侵害の結果又はその危険を発生させる点に求められるところ、共犯は正犯者を媒介として、犯罪の実現に加担するのみであるので、共犯行為のみでは、結果発生に至る現実的危険性に乏しい。正犯によって法益侵害の危険が発生して初めて処罰すべきである。すなわち、正犯が実行行為に着手して初めて共犯も処潤できることになる。
(3) したがって、甲に幇助犯は成立しない。
3 丁に自己が作成した家宅の施錠を解錠するための道具であるピックを交付した行為について
丁が行った犯罪結果については、甲の行為の物理的因果性心理的因果性が及んでいると考えられるから、住居侵入罪及び窃盗罪の幇助犯が成立する。これらは正犯が牽連犯となることから牽連犯となる。
以上

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