民法第25問

2022年12月1日(木)

問題解説

問題

Aは、その所有の事務所用建物について、債権者甲のために抵当権を設定し、その登記をした後、抵当権の設定当時からその建物に備え付けられていた冷暖房用の機械を新式のものと取り替えた。Aは、その後、その機械を取り外して持ち出し乙に売却した。この場合における甲・乙間の法律関係を説明せよ。
(旧司法試験 昭和53年度 第1問改題)

解答

第1 甲の乙に対する請求
甲は、抵当権に基づいて、①乙に対して新式の機械 (以下「本件機という。)の返還を求める、②Aの乙に対する本件機械についての売買代金債権に物上代位権を行使し、売買代金の支払を求めるという二つの請求をすることが考えられる。
第2 ①の請求について
1 抵当権に基づく返還請求が認められるためには、 前提として、本件機械に抵当権の効力が及んでいる必要がある。本件機械は独立して取引の対象となっており、A所有の事務所用建物(以下「本件建物」という。)の経済的効用を高めているので本件建物の従物(87条1項)に当たる。
物は、形式的には、「付加して一体となっている物」(370条)に当たらないから、 抵当権の効力を及ぼすことができないとも思える。しかし、370条の趣旨は、抵当権が目的物の交換価値を把握する権利であることから、目的物と経済的価値的一体性を有する物にもその効力を及ぼそうとしたものである。
よって、「付加して一体となっている物」とは、目的物と経済的・価値的一体性を有する物を意味すると解する。従物もその意味において、「付加して一体となっている物」 に当たる。
なお、本件機械は、抵当権設定後に設置されているが、370条は付加された時期を問題としていないから、この点は抵当権の効力が及ぶとすることの障害とはならない。
したがって、 本作機械にも抵当権の効力は及ぶことになる。
2 そして、本件機械が持ち出されることで、抵当目的物の担保価値が下落するから、抵当権に対する妨害状態がある。
もっとも、本件機械は、すでに本件建物から取り外され持ち出されている。にもかかわらず、返還請求をすることができるか。
まず目的不動産から分離されたことによって抵当権の効力が失われるのではないかという問題があるが、否定すべきである。抵当目的物の交換価値を維持する必要があるし、一旦効力が及んだ場合に失われるとする理由はないからである。
とはいえ、抵当権は登記を対抗要件とする権利であるから、分離物が抵当不動産上に存在し登記による公示力が及ぶ限りで、抵当権の効力を第三者に対抗できると解すべきである。そうすると、一旦分離物が抵当不動産から搬出されれば、抵当権の効力を第三者に対抗することはできなくなると解される。
本問では、本作機械は、既に本件建物から取り外して持ち出された分離物である以上、甲は、乙が背信的悪意者に当たるという事情がない限り、乙に対して抵当権の効力を対抗することはできない。
3 以上から、甲は乙に対し、抵当権に基づく本件機械の返還請求はできない。
第3 ②の請求について
1 本問で、Aの乙に対する本件機械の売却代金は、抵当目的物の交換価値が具体化したものであるから、「売却によって債務者が受けるべき金銭(372条、304条1項本文)」に当たる。よって、甲は、抵当権に基づき、本件機械の売却代金に対して物上代位することができる。
2 この点について、抵当権の追及を理由として売買代金債権への物上代位を認めない見解があるが、条文上物上代位の対象となることは明らかであるし、本問のように甲が乙に対して抵当権を対抗できない事案では、 追及効によって代替することもできないから、この見解には与し難い。
3 したがって、甲は、抵当権に基づいて、Aの乙に対する本件機械についての売買代金債権に物上代位権を行使し、払渡し前にこれを差し押さえた上で、売買代金の支払を求めることができる。
以上

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