刑事訴訟法第26問

2022年12月14日(水)

問題解説

問題

以下の小問における検察官の起訴の適法性について, 論じなさい。
(1) Xは、A宅に侵入した上で、A及びAの妻であるBを殺害した事実で逮捕・勾留されたところ、検察官は、A及びBに対する殺人の罪でXを起訴した。
(2) Y、Cが経営する小売店において、煙草1箱(440円相当)を窃取した。Yには前科がなく、Cに対する被害賠償も済んでいたが、検察官は、Yを窃盗罪で起訴した。

解答

第1 小問(1)について
1 本小問において、A及びBに対する殺人罪は、A宅への住居侵入罪を「かすがい」として、全体として科刑上一罪の関係にある(刑法54条 1項後段)。
検察官は、住居侵入罪は起訴せずに、殺人罪二罪の併合罪として起訴しているが、かかる起訴は許されるか。
2 刑事手続では検察官処分権主義(247条)が妥当し、裁判所は検察官が設定した訴因に拘束される。また、検察官は罪の一部について起訴猶予(248条)にすることができるとされている。 このことに対応し、検察官は事案の軽重、立証の難易等を考慮して、訴因を事実の一部に限定した一部起訴を行うことも可能であるというべきである。
もっとも、248 条が訴追裁量権の行使につき種々の考慮事項を列挙していること、及び検察官は公益の代表者として公訴権を行使すべきも のとされていること(検察庁法4条)を考えると、これにも合理的限界 があり、起訴が裁量権の逸脱濫用となる場合には違法となり得ると解すべきである(338条4号、刑事訴訟規則1条2項)。
3 本小問では、検察官がいわゆるかすがい外しによって刑を重くしよ うとする意図を有している場合は、濫用的起訴として許されないと解する。
一方で、そのような意図を有していない場合には、起訴は適法である。
第2 小問(2)について
1 本小問で、YはCから煙草1箱を窃取しており、これは実体的には窃盗罪(刑法235条)を構成するものの、その価値は440円にとどまり、Yには前科がなく、 Cに対する被害賠償も済んでいたことを考慮すると、起訴猶予が相当であると考えられる。
2 しかし、起訴不起訴の判断について、検察官には広範な裁量が認めら れる以上、原則として、あえて起訴猶予相当の事案で起訴がされた場合も公訴棄却はされない。
とはいえ、上記のように、裁量権の濫用は許されないから、その意味で、公訴棄却があり得なくはない。具体的には、公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限り、 公訴提起が違法となり、公訴棄却の対象となると解する。
3 本小問でも、公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場 合であるという事情が認められない限り、 公訴提起は適法である。
以上

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