民法第27問

2022年12月15日(木)

問題解説

問題

以下の記載のように事実が生起している。Aは、機械部品の工場を経営するかたわら、自己所有の不動産の賃貸業をしている法人である。2020年4月、Aは、B銀行から3億円の融資を受け、その際に自己所有の甲ビルにBのために抵当権を設定し、それを登記した。2022年4月、Aは取引先Cとの間で機械部品の継続的売買を開始した。その際には、特に基本契約書は作らず、なんら特約も付していない。2024年4月、Aはその代表者の知人Dから1億円の融資を受けるに際し、代表者の兄Qを物上保証人として、Qの有する乙不動産に抵当権を設定させ、さらに向こう10年間に得られるであろう甲ビルの賃貸料債権を担保としてDに譲渡する契約を結んだ。しかし、この乙不動産の抵当権設定とその登記は、Aの代表者がQから預かっている権利証と実印及び印鑑証明書を用いて、Qの代理人と称して勝手に行ったものであった。2025年4月、AとDは、前年締結した債権譲渡担保契約に基づき、甲ビルの賃借人Rに対する今後9年間に発生する賃料債権を5000万円の限度で譲渡したことを「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(動産債権譲渡特例法)によって登記した。ただし、Rとの関係ではこれを通知せず、DはそのままAに賃料の回収を委任した。2027年4月、Aは、債権者Eに対する4000万円の債務の代物弁済として、A が今後5年間に取引先Cに対して発生させるであろう機械部品の売掛代金債権を、4000万円の限度で譲渡することとし、Eとの間でその旨の債権譲渡契約を結んだが、こ の段階では、債務者Cには通知せず、承諾も取らなかった。2029年8月、AはB銀行をはじめとする各債権者への返済が滞るようになった。2029年12月、AはEに対する上記債権譲渡をCに内容証明郵便で通知(民法上の通知)したが、この段階でAは上記Rに対する賃貸料収入を除いて、資力がほとんどない状態だった。以上の事実関係のもとで、いずれもAに対して残債権を有するB、D、Eは、誰に対してどのような法的手段をとって残債権の回収を図ることができるかを述べなさい(Aに対する請求は除く)。なお、商法破産法の問題には触れる必要がない。
【参照条文】 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律
第4条 法人が債権(金銭の支払を目的とするものであって、民法第3編第1章第4節の規定により譲渡されるものに限る。以下同じ。)を譲渡した場合において当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、同法第467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなす。 この場合においては、 当該登記の日付をもっ て確定日付とする。
2 前項に規定する登記(以下「債権譲渡登記」という。)がされた場合において、当該債権の譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて、譲渡人若しくは譲受人が当該債権の債務者に第11条第2項に規定する登記事項証明書を交付して通知をし、又は当該債務者が承諾をしたときは、当該債務者についても、前項と同様とする。
(以下略)
(慶應義塾大学法科大学院 平成16年度 改題)

解答

第1 Bについて
1 まず、Bは甲ビルの抵当権を実行することができる。
2 次に、AのRに対する賃料債権(以下「本件賃料債権」という。)に対して、物上代位権を行使して(372条 304条1項本文)残債権の回収を図ることが考えられる。
(1) 2029年8月、AはBへの返済を怠り、債務不履行に陥っているから、物上代位権の行使は認められ得る(371条)。
(2) もっとも、本件賃料債権はDに譲渡担保に供されており(以下「本件債権譲渡担保契約」という。)Dは、2025年4月に5000 万円の限度で、第三者対抗要件を具備している(動産・債権法4条1項)。そこで、債権譲渡 (担保契約) が行われ、第三者対抗 要件が具備された場合には、「払渡し又は引渡し」(304条1項ただし書) に含まれ、物上代位ができないのではないか。
法が物上代位に際し、差押えを要求した趣旨は、 二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護する点にある。抵当権の存在は登記によって公示されている以上、第三者との優劣関係は登記により決すれば足りる。 そうだとすれば、 「払渡し又は引渡し」には債権譲渡は含まれず抵当権者は物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件を備えた後も、自ら目的債権を差し押さえて物上代位の行使ができると解すべきである。
(3) 本問でも、Bは本件貸料債権の全額に対して物上代位を行い債権の回収を図ることができる。
3 さらに、BはAのEに対する債権譲渡の対抗要件具備行為である通知(467条2項)を取り消して(424条1項本文)AのCに対する売掛債権(以下「本件売掛代金債権」という。)を差し押さえることが考えられるが、対抗要件具備行為は「債権者を害する行為」に当たるか。
そもそも、債権の譲渡行為と、それらについての対抗要件具備行為とは別個の行為である。そして、詐害行為取消権の対象となるのは、債務者の財産の減少を目的とする行為そのものであって、対抗要件具備行為は、第三者等に対して財産権移転の効果を対抗し得る効果を生じさせる にすぎず、債務者の財産の減少を目的とする行為そのものではない。
したがって、 対抗要件具備行為は、 「債権者を害する行為」として、詐害行為取消権の対象とならないと解すべきである。よって、Bは本件売掛代金債権にかかる対抗要件具備行為を取り消すことはできない。本件売掛代金債権のうち、Eに対して代物弁済に供された4000万円を控除した部分から回収を図ることができるのみである。
第2 Dについて
1 まずDはQの乙不動産に抵当権を設定していたので、同不動産の抵当権を実行して債権の回収を図ることが考えられる。もっとも、本件抵当権設定契約はAの代表者がQの代理人と称して勝手に行ったものであ るから、無権代理となり、原則として無効である(113条1項)。もっとも、Aの代表者は抵当権設定契約の際、Qから預かっていた権利証と実印及び印鑑証明書を用いているからQが「他人に代理権を与えた旨の表示をした」ものと認められ、表見代理(109条1項)が成立する可能性がある。
この場合、Dが善意・無過失であれば、表見代理が成立し、不動産から債権の回収を図ることができる。
2 次に、Aから譲り受けた本件賃料債権により回収を図ることも考えられるが、Rに対して登記事項証明書を交付して通知していないからRに対して債権譲渡を対抗することはできない(動産・債権譲渡 特例法4条2項)。また、上記の通り、AD間の譲渡担保契約は物上代位に劣する。
(2) よって、Rに通知をすることを条件に、Bが物上代位しなかった残りの債権から、Dは債権を回収し得るのみである。
なお、その場合であっても、本件債権譲渡担保契約は将来発生する債権の譲渡を含むから、下記のように、前提として有効性が確認されなければならない。本件債権譲渡担保契約の対象となった債権は、「甲ビルの賃借人Rに対する今後9年間に発生する賃料債権」である から特定性には問題がないが、長きに失するとして、公序良俗に反すると評価される余地がある。
3 そのほかに、Dは、本件売掛代金債権から債権回収を図ることも考えられるが、Bと同様に本件売掛代金債権のうち、Eに対して代物弁済に供された4000万円を控除した部分から回収を図ることができるのみである。
第3 Eについて
1 EはAから譲り受けた債権から、自己のAに対する債権の回収を図ることが考えられる。ただ、AE間の債権譲渡契約は集合債権譲渡契約である。そこで、将来発生する債権の譲渡を含む集合譲渡契約が有効か問題となる。
2 将来債権を対象とする債権譲渡契約も、466条の6第1項から有効となり得る。
もっとも、債権譲渡契約が有効になされるためには目的となる債権が特定されている必要がある。また、公序良俗に反しないことも必要である(90条)。
本間では、今後5年間発生するCに対する機械部品の売掛債権を対象としているため、目的債権が特定されているといえる。
したがって、公序良俗に反する事情が認められない限り、AE間の契約は有効である。
また、上記のように対抗要件具備行為は詐害行為取消権の行使によっ て取り消されないから、第三者対抗要件を具備している。
よって、かかる債権から債権の回収を図ることができる。
3 さらに、EはAのRに対する本件資料債権を差し押さえることが考えられるが、上記のとおりBがかかる債権に物上代位をすることが想定さ れ、またDが第三者対抗要件を具備していることから、本件賃料債権から回収を図ることは難しい。
以上

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