民法第29問

2023年1月5日(木)

問題解説

問題

Bは家屋を所有する目的でA所有の甲土地を賃借し、Cから建築資金の融資を受け、甲土地上に建物を建築した。その上で、Bは自己名義で乙建物を保存登記してCからの貸金債権の担保のために、乙建物に抵当権を設定した。さらに、その後、Bは地主 Aに乙建物を譲渡して移転登記を了した。他方で、Bから賃金の弁済を受けられなかったCは、抵当権を実行して、Dが乙建物の買受人となった。
以上の場合の、DとAの関係について説明しなさい。
(北海道大学法科大学院 平成20年度 第1問)

解答

1 Aは甲土地の所有者であるので、 甲土地を占有するDに対して所有権に基づいて、乙建物を収去し、甲土地を明け渡すよう請求をすることが 考えられる。
2 これに対して、Dとしてはまず、抵当権実行時、甲土地と建物がAという同一人に帰属していることを理由として、法定地上権の成立を主張(388条前段)してこれを拒むことが考えられる。
しかし、乙建物への抵当権設定時には、別人所有だったのであるから、「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その建物につき抵当権が設定」されるという要件を満たさない。
また、実質的に考えても、この場合、抵当権設定当時に建物所有者は何らかの土地利用権(本件では、賃借権を有していたはずであり、かかる権利は抵当権に優先し存続する以上、新たに法定地上権を成立させる必要がない。この点、かかる土地利用権は土地・建物が同一人に帰属した時点で、混同によって消滅するように思われるが(179条1項本文類推適用) 抵当権の目的となっていることから、例外的に消滅しないと解すべきである(同項ただし書類推適用)。
したがって、法定地上権は成立しないものと解すべきである。
よって、Dの上記反論には理由がない。
3 次に、Dは甲土地の賃借権を有するとの反論をすることが考えられる。
上記のように、甲土地と乙建物がAという同一人に帰属した時点においても、土地賃借権は消滅しない。
もっとも、建物に設定された抵当権の効力が甲土地賃借権に及ぶか明文なく問題となる。
この点について、抵当権の効力について定める370条が付加一体物について、これが及ぶことを認めている。同条の趣旨は、抵当権者に目的物の全経済的価値を統一的に把握させる点にある。そして、賃借権のような従たる権利も、それが目的物たる建物の存立に不可欠なものである以上、経済的一体性をなし目的物の担保価値を高めているといえる。そこで、370条の類推適用により、建物に設定された抵当権の効力が土地賃借権にも及ぶと解すべきである。
本問でも、乙建物に設定された抵当権の効力が甲土地賃借権及ぶ。
4(1) このように乙建物に設定された抵当権の効力が甲土地の賃借権に及んでいると解した場合、競落により乙建物を取得したDは、甲土地賃借権も有効に取得する。そして、Dが乙建物の登記を経由していれば、対抗要件も具備していることになる(借地借家法10条1項)。
(2) しかし、この賃借権の移転を賃貸人たるAが承諾しない場合、無断譲渡(612条)ということになるから、Aが土地賃貸借契約の解除を主張すれば、結局Dは賃借権をAに対抗できないことになる。
(3) ただしAが自己に不利となるおそれがないにもかかわらず賃借権譲渡の承諾をしない場合には、裁判所はDの申立てによりAの承諾に代わる許可を与えることができる(借地借家法20条1項)。よって、Dは同許可を受ければAに賃借権を対抗できる。その場合には、Dの上記反論には理由があるから、Aの上記請求は認められない。
以上

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答案