8日目(2023/12/29)

刑事第1問、第2問

第1問(接見指定)
 Aは、障害の容疑で現行犯逮捕され、警察署に引致された。その1時間後、弁護人となろうとする弁護士Bが警察署を訪れ、Aとの接見を申し出たところ、司法警察職員甲が取り調べ中であることを理由にそれを拒否し、接見の日時を翌日に指定した。甲が行った措置の適法性について、論じなさい。
(解答)
1 甲は、取り調べ中であることを理由に接見指定をしているところ、このような接見指定はAの接見交通権(刑事訴訟法39条1項)を侵害し、違法ではないか。
(1) まず、「捜査のため必要があるとき」(同条3項本文)といえるか。
 ア この点について、接見交通権は憲法34条前段の弁護人依頼権の保障に由来する重要な権利である。そこで、「捜査のため必要があるとき」とは、現に被疑者を取り調べ中であるとか、実況見分・検証等に立ち合わせる必要があるなど捜査の中断による支障が顕著な場合をいうと解する。
 イ これを本件についてみる。被疑者であるAは、現に取り調べを受けており、接見を認めると取り調べが中断されてしまい、捜査の中断による支障が顕著な場合であったといえる。
 ウ したがって、「捜査のたえ必要があるとき」といえる。
(2) そうだとしても、今回の接見申出は弁護士Bの初回の接見申出である。これを拒否し、翌日に接見指定することは、「被疑者が防御の準備をする権利を不当に侵害する」(刑事訴訟法39条3項ただし書)といえないか。
 ア この点について、逮捕直後の初回接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ今後、捜査機関の取り調べを受ける際、助言を得る最初の機会であり、憲法上の保障の出発点となるから、被疑者の防御の準備のために特に重要である。
 そこで、逮捕直後の初回接見にあたっては、捜査機関は弁護人となろうとするものと協議して、即時または近接した時点での接見が可能かどうかを検討し、可能な時は特段の事情がない限り、時期を指定した上で即時または近接した時間での接見を認めるようにすべきである。
 それにもかかわらず、被疑者の取り調べを理由として上記時点での接見を拒否するような指定をし、被疑者と弁護人になろうとする者の初回接見の機会を遅らせることは、「被疑者が防御の準備をする権利を不当に侵害する」といえ、39条3項但書に反し違法である。
 イ これを本件についてみる。弁護士Bが申し出たAとの接見は、Aの逮捕直後の初回のものである。それにもかかわらず、甲は即時または近接した時間での接見を認めても捜査に支障がないかについて検討しないまま、取り調べ中であることを理由にAの申し出を拒否し、翌日に接見指定を行った。
 ウ したがって、甲の措置は「被疑者が防御の準備をする権利を不当に侵害する」にあたる。
2 よって、甲が行った措置は違法である。
以上

Aは、窃盗の容疑で現行犯逮捕され、警察署に引致された。Aの弁護人であるBは、Aが送致されている地方検察庁に赴き、Aとの接見を検察官甲に申し出た。これに対して、甲は、庁舎内には接見のための設備がなく、接見を許すと逃亡や罪証隠滅のおそれがあることを理由に、Bの申し出を拒否した。Bは、「立会人がいても構わないのでAに会わせてほしい。」と申し入れたが、甲は何らの回答もしなかった。甲が行った措置の適法性について、論じなさい。
(解答)
1 甲は、庁舎内には接見のための設備がなく、接見を許すと逃亡や罪証隠滅のおそれがあることを理由にBの接見の申出を拒否している。この甲の措置は適法か。
(1) この点について、接見交通権は、身体を拘束されている被疑者と弁護人等が立会人なくして接見できる権利である。その実施においては被疑者の逃亡及び罪証隠滅を防止の観点を考慮する必要がある。そこで、検察庁の庁舎内において、接見を認めても、被疑者の逃亡及び罪証隠滅を防止できる部屋等がない場合には、弁護人からの接見の申出を拒否することは違法とならないと解する。
(2) これを本件についてみる。甲は、Bの接見の申出を拒否している。これは、庁舎内に接見用の設備がないために、接見を許すと逃亡や罪証隠滅の恐れがあることを理由とする。
(3) したがって、甲が行った措置は適法である。
2 そうだとしても、甲は、その後のBの「立会人がいても構わないのでAに会わせてほしい。」との申出に何らの回答もしていない。この甲の措置は滴法か。
(1) この点について、39条は接見交通権と捜査の必要性との調整を目的とした規定である。そこで、弁護人が即時の接見を求め、その必要性がある場合で、弁護人が、秘密が十分に保障されていないような態様の短時間の接見(面会接見)であっても差し支えないとの意向を示したときは、検察官は面会接見ができるように配慮すべきであり、かかる配慮を怠った場合には違法となると解する。
(2) これを本件についてみる。Bは、Aとの即時の接見を求める必要性についてなんら説明をしていない。そうだとすれば、甲には、面会接見ができるよう配慮する必要性は、必ずしも生じていなかった。
(3) したがって、上記甲の措置は適法である。
3 よって、本件における甲の措置は適法である。
以上