答練行政法第1回
第1 設問1
1 本件訴訟①の提起は、狭義の訴えの利益(行政訴訟法9条1項かっこ書き)を有し適法といえるか。
(1)行政処分の取消訴訟は、処分の法的効果により個人の権利・利益が侵害されている場合に、取消判決の効力によってその法的効果を遡及的に消滅させ、個人の権利・利益を回復させることをその目的とする主観訴訟である。そこで、狭義の訴えの利益の有無は、処分が取消判決によって除去すべき法的効果を有しているか否か、処分を取り消すことによって回復すべき権利・利益が原告に存在するか否かといった点を考慮しつつ判断すべきである。
(2)ア 本問において、本件原処分の効力は、令和4年6月2日の経過により失効している(道路交通法(以下「法」とする。)第103条第10項、道路交通法施行令第33条の5)。また、踏切停止・安全確認義務違反が前歴となり、前歴のない者に比して法律上不利益に扱われるおそれも、処分期間の満了後1年間無事故・無違反で経過し前歴が抹消されたことにより消滅している。そのため、運転免許停止処分の効力の残存や前歴の効力の残存を理由として回復すべき権利・利益があるということはできない。
イ 他方で、Aの運転記録証明書には、本件原処分を受けた旨の記録が残っている。このことから、転職先等に本件原処分の存した事実を覚知されることで、Aの名誉・信用等を損なう可能性があるとして、これらの回復の可能性を理由に、狭義の訴えの利益が認められるとも思える。しかし、仮に、名誉・信用等を損なう可能性自体が認められるとしても、それは本件原処分がもたらす事実上の効果に過ぎず、これをもって除去すべき法的効果や回復すべき権利・利益があるとはいえない。また、名誉・信用や感情等の回復については、別途、国家賠償請求訴訟を提起することで足りる。
(3)したがって、本件訴訟①に狭義の訴えの利益は認められない。
2 よって、本件訴訟①は不適法である。
第2 設問2
1 まず、本件更新処分が、抗告訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法3条2項)に当たるか。
(1)「処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体の行う行為(①公権力性)のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの(②個別具体的法効果性)をいう。
本問をみると、まず、免許証の更新は、公安委員会が法101条6項に基づき行うものである。したがって、公権力の主体が法を根拠としてその優越的地位に基づき行うものといえるから、公権力性が認められる(①)。
また、免許証の更新(法101条6項)は、実質的には、免許に付された有効期間を延長し、その効力の時間的限界を将来に向かって拡大し、運転の一般的禁止を解かせて適法に自動車の運転をする地位を継続して保有させる効果を生じさせるものである。したがって、個別具体的な法効果性も認められる(②)。
(2)よって、本件更新処分は、それを受けたBの法律上の地位たる権利義務に直接的な影響を与えるものとして、「処分」に当たる。
2 次に、狭義の訴えの利益は認められるか。
(1)この点については、上述の基準により判断する。
確かに、法によれば、免許証の有効期間は、一般運転者と優良運転者とで5年間と変わらないため(法92条の2第1項参照)、一般運転者として扱われても、免許証の有効期間の面では優良運転者と変わりはない。また、本件更新処分によって、優良運転者の記載のない免許証を交付されたBは、名誉、信用などの人格的利益が毀損される可能性があるものの、前述の通り、人格的利益の毀損可能性は、事実上の効果に過ぎない。
しかし、法は、優良運転者であることを免許証に記載して公にするとともに(法93条1項5号)、優良運転者に対する優遇措置を拡充し、他の公安委員会を通じた更新申請書の提出(法101条の2の2第1項)や、区分に応じた講習を行うことを明確にするなど(法101条の3、法108条の2第1項11号)、優良運転者と一般運転者の取扱いを制度上区別している。これは、優良運転者の実績を賞揚し、優良な運転へと免許証保有者を誘導して交通事故の防止を図る目的と考えられる。
このように法は、客観的に優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して更新処分を行うということを、単なる事実上の措置にとどめず、優良運転者を法律上の地位として保障するという立法政策を、特に採用したものと考えられる。
そうすると、Bは、客観的に優良運転者の要件を満たす者であれば、優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有するといえる。そのため、本件更新処分は、取り消すことによって除去すべき法的効果を有しており、取り消すことによって回復すべきBの権利・利益が存在するといえる。
(2)したがって、Bには狭義の訴えの利益が認められる。
3 よって、本件訴訟②は適法である。
以上