(2020/02/12)同調圧力は社会性を高めるよい効用もあるけれども個人の才能を伸ばす障害にもなり得るという率直な話です

メーキャップ

おはようございます。

2020年2月の同調圧力に関する配信記事です。

日系アメリカ人(現在の国籍はアメリカですが、生まれた時の国籍は日本人で、おそらくご先祖様たちも未確認ながら日本人であった可能性が非常に高いと推測されます)のカズ・ヒロ(日本名:辻一弘)氏が、アメリカ映画祭において、名誉ある2度目の「オスカー」に輝きました。

誠におめでとうございます。

2020年2月9日の米アカデミー賞で、日本出身のカズ・ヒロ(かつての日本名は「辻一弘」とのこと)氏は、「メーキャップ・ヘアスタイリング賞」を受賞しました。

実はカズ・ヒロ氏にとって、この賞は2018年の「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」での同様の賞に続いて2度目の栄冠となりましたが、授賞式後の会見で日本について問われ「(同調)文化が嫌になってしまった」とのコメントをされました。

カズ・ヒロ氏は2019年3月には米国籍を取得し、日本国籍を放棄したということです。

米映画「スキャンダル」で名誉ある2度目となったカズ・ヒロ氏は、授賞式のスピーチで、同映画に主演したシャーリーズ・セロンさんの貢献をたたえ、「あなたの勇気と情熱のおかげで、私たちはメーキャップの世界に新たな基準をつくることができた」と最大限の謝意を語りました。

しかしながら、その後の記者会見において、「日本の経験が受賞に生きたか」と質問されると、英語で「こう言うのは申し訳ないのだが、私は日本を去って、米国人になった」と返答しました。

「(日本の)文化が嫌になってしまったし、(日本で)夢をかなえるのが難しいからだ。それで(今は)ここに住んでいる。ごめんなさい」と続けたのです。

そして、カズ・ヒロさんは日本の「too submissive」な文化が嫌になったと語っています。

これは、社会的文化的な「同調圧力」が強過ぎるというような意味です。

このインタビューを(原文で)見ていると、

「もう自分は(自分の能力が最も比較優位に発揮できる)アメリカ国籍を取得したアメリカ人であり、日本日本と言われても、それは過去のことでこれからの自分には関係ない話である」

というように、非常に冷静に、サバサバした吹っ切れた顔で日本については語っているようです。

「特異な才能」のある人の振る舞いを遠ざける可能性がある、社会のそこらかしこに潜む同調圧力、そして「too submissive」な文化という表現が筆者の中にはとても響いたのです。

筆者も、こうした同調圧力が高い日本の文化や風俗にどっぷり浸かって生きてきましたので、その良い面、効用はわかっています。

言わなくても、心で察するなどといいます。

空気を読み、先回りして忖度してきたから、余計な摩擦やコンフリクトも少なく、プロジェクトや方向性が明確な限り、組織としての能力は最大近くまで発揮されます。

明治維新から太平洋戦争の前夜まで、また敗戦から高度経済成長に至る国家運営などを見るに、この同調圧力の良い面が発揮された好例でしょう。

ですが、より個人レベルに引き換えてみた場合、どうしても今の日本では息苦しさを感じ得ない、と感じて国外に流出してしまう特異な才能もあるということを知っておくのは大切だと思うのです。

もちろん、いち日本国民として、自国を悪く言われるのはいい気はしないものです。

しかしながら、かつての同じ会社の同僚が、真剣に考えて、この会社では取り組むことができなかったこと、に挑戦するために単身海外なりの他社に活躍の場を求めて渡り、そしてかの地や別の会社で努力して成功した場合を考えてみるに、成功しなければ、見むきもされなかった出身国とその国民たちに対しては、何を今更というような、少し冷めた鬱積する感情があったのではないかと思います。

要は、ありていに申し上げますと、米アカデミー賞といった権威ある賞を受賞していなければ、絶対に、日本のマスコミは特に全くこの方を注目せず、取材対象にもしていなかったと思うわけです。

世界的な賞を受賞した、経済的に大きな成功を収めた、ノーベル賞などな巨大な研究成果を上げた、といった目立った成功を得た、いわゆる記事にする側にとって都合の良いときだけ、日本人であることの由縁やよすが、みたいなものをことさらに紐つけて質問するのはいかがなものかと思ったわけです。

この方は、グローバルで活躍する方であり、その特異な能力を国際的な賞の受賞によって讃えられた、そのことのみを大いに評価すれば良いと考えています。

もともと日本人であっても、米国籍を取得し同国で研究を進め、ノーベル賞受賞まで至った研究者の方のコメントにも、同様の「色」を感じました。

もちろん、この方ほど日本の社会文化的な「同調圧力」という面を直接的に語る人はなかなかいないと思いますが、こうした特に学問・芸術といった尖った才能が要求される分野ではかなりの数の人材が海外に「流出」していることは疑いようのない事実だと思います。

豊富な天然資源などの他の優位性がそれほどあるわけではない日本列島とその周囲の国土において、人材を大切にしない(生まれてくる子供がますます少なくなっているということに対してほぼ何もしていないという不作為政策も含めて)というのは国の衰退に直結することだと、筆者含めて強く認識すべきだと思いました。

もちろん、米国が全てにおいて完璧な国であるということをいいたいのではなく、おそらく、日本人がかの国に行った時には普通に差別を受けることもあると思います。

しかし、インドや中華系、アフリカ系や南米スペインポルトガル系の人々が、それでも自由の国アメリカに移民を続けているという現実は、かの国の社会構造にはもちろん多くの問題はあるけれども、少なくとも、域外の人間を流入させ、かつ中の国民の自然増も保っている、人口増加に対する考え方や政策に寄るところが多く、少々差別されても各個人の元々の国々における「生きにくさ」を我慢し続けるよりましだと思われるという面があるのだということを、忘れてはいけないと思いました。

あの、現在は千円札の表を肖像で飾っている野口英世でも、漫画「栄光なき天才達」や「Dr. Noguchi」などで描かれていたとおり、実績を上げ世界的に有名な医学者になって帝国大学から博士号を受けて帰国しても、それでも日本の医学界はかっての海外での上司だった北里柴三郎(こちらも今後1000円札のお札になります、つまり、弟子の後を師匠上司が継ぐという形)以外は冷たく、漫画で悪役として描かれた青山胤通などが内心は「何で帝大も出てない奴にこの青山が会いに行かなければいけないんだ?」と見下していました。

偉人の人生は、少し見方を変えれば間違いなく奇人変人のそれでもあり、子供向け伝記漫画などでは、絶対描かれないエピソードが満載なのです。

そういう様々な事例や実例を知るに、今回のカズ・ヒロ氏のように、できるだけ心静かに、距離を置くことで自らの才能を守ろうと思う人もいるのは無理ないだろうし、そういう生き方だって全然おかしくないと思うのです。

カズ・ヒロ氏、誠におめでとうございます。

それでは、アメリカ本土にはいまだ足を踏み入れたことのございません、筆者からの感想は以上です。

(2020年2月12日 水曜日)

(2019/11/18)西南学院大学商学部において「会計学」というテーマで社会人講師として参加型講義をしてきました