朝日新聞の断末魔が聞こえる
朝日新聞が「肩たたき」で200人削減へ/上限5千万円の手厚い退職勧奨一時金/全社員の6割超が対象
号外速報(7月07日 07:20)
2022年7月号 LIFE [号外速報]
by 永井悠太朗(ジャーナリスト)
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「退職勧奨」に踏み切る朝日新聞の中村史郎社長(HPより)
朝日新聞社は6月30日、9月から11月にかけて45歳以上の社員を対象に「200人以上」の希望退職者を募る方針を労働組合に通告した。
昨年(応募者111人)に続く希望退職者の募集で、これにより現行中期経営計画に基づく「2023年度末3800人態勢」の実現を目指す。
同社の21年度決算(単体)は創業以来の大赤字となった前年度から、2年ぶりの最終黒字に転じた。しかし、年間40万部ペースの部数減少が続く中、売上高は1881億円と、14年度(2886億円)から7年間で約1千億円も落ち込むなど縮小サイクルが止まらない。赤字を避けるには人件費を中心とする経費削減に頼らざるを得ないのが実情だ。
対象者全員に面談、退職勧奨「候補者リスト」も
東京・築地の朝日新聞東京本社
「朝日新聞労働組合だより」(6月30日号、7月5日号)によると、会社側は7月1日に開いた組合側との中央経営労働協議会幹事会で、希望退職制度の概要や運用の細目を説明。対象者は勤続10年以上の45歳以上で次長職などを含む約2500人(執行役員、役員待遇などは含まず)、全社員の6割強に上ることを明らかにした。
これまでの希望退職では対象外だった50歳未満の次長職も含んでいる。また、過去の希望退職とは異なり、対象者全員に所属長またはそれに準じる役職者による面談を実施する。
席上、岡村邦則・人材戦略・働き方改革担当は、会社が退職を勧める「退職勧奨」(いわゆる肩たたき)を行うのかという質問に、「退職勧奨だと受け止められれば、それは致し方ない」と、今回の希望退職者募集が事実上、肩たたきに当たり得るとの認識を示した。
ただ、「退職強要はしない」と明言した。その上で、①会社が求めるキャリアの期待や役割と、本人の希望や意思が大きくずれているような場合には、面談が複数回になりこともある、②初回の面談で退職を断った場合でも、複数回の面談が必要になる場合もあり得る――と述べた。
さらに、会社側がターゲットとしている「候補者」のリストがあるのかとの質問に、「そういうリストというか、ある程度の方々については把握はしている」とその存在を暗に認めた。
手厚い一時金、これが「ノアの方舟」最終便?
落ち目の朝日新聞販売所
今回退職の募集に応じた人には通常の退職手当に加えて、5千万円を上限とする特別一時金が支給される。
対象期間は、退職日の翌月から最長10年間、または定年(満65歳)月までの、いずれか短い期間。特別一時金の計算方式は複雑だが、「退職翌月から満60歳の誕生日の属する月までの期間」と「満60歳の誕生日の属する月の翌月から定年月までの期間」で計算方法が異なる。
前者の場合①退職日現在で満54歳以下の人は21年の年収の35%、②退職日現在で満55歳以上の人は21年の年収の40%を12で割って月額を計算し、満60歳の誕生日の属する月までの月数を乗じる。後者の場合は、月額10万円(退職日現在で満59歳以上満65歳未満の人は17万円)に定年月までの月数を乗じる。前者と後者の額を合算したものが一時金の額となる。
労組の増田勇介委員長は「これまで行ってこなかった退職勧奨に踏み込んだ内容だと受け止めている」としながらも、「一時金は手厚く、新たな道にチャレンジできる制度自体は否定しない」と一定の評価を示した。
岡村氏は「これだけの好条件で対象者全員に希望退職を示せることも今後ないだろう」と制度の利用を促した。社内では「これが最後の『ノアの方舟』ということか」との見方も出ている。
販売部数の落ち込みに人員削減が追い付かない
朝日新聞関係者によると、09年度には約5千人、15年には約4500人、20年には約4300人だった社員数は、現在4100~4200人程度。21年初めに渡辺雅隆社長(当時)が「30年に3千人規模」としてきた要員計画の前倒しを表明。まず23年度末までに採用抑制や希望退職により3800人規模まで縮小する考えを示していた。
「3千人態勢」は本来、部数が「500万部」まで落ちることを想定した計画だったというが、既に20年8月に500万部を割り込み、今年5月には423万部まで落ち込んでいる(いずれも日本ABC協会調べ、朝刊販売部数)。部数減のペースに人員削減が追い付かない状況だと言えよう。
朝日新聞の場合、編集部門(記者と編集者)の数は全社員の半数程度と言われる。09年度には2500人程度だったのが、現在は2千人程度まで減っていることになる。さらに人員削減が進めば23年度末には1900人ほどになってしまう。
メディアの取材力は大雑把に言えば記者の数と質を掛け合わせたものとみることができるが、同社では14年の慰安婦誤報と東京電力福島第一原発事故に絡む吉田調書の記事取り消し問題を契機に、日本新聞協会賞を受賞したような有能な記者が見切りをつけて流出するケースが相次いでいる。
取材力の落ちたメディアに明るい未来は見えてくるのだろうか……。
著者プロフィール
永井悠太朗
ジャーナリスト