行政法第4問

行政法第4問 問題

202△年、政府は、「高等学校及び大学学部に在学中の子に対する教育支援に関する法律」(以下、「高等教育支援法」という。)を制定し、その中で、母子家庭における高等教育支援策として、高校在学中の3年間及び大学の学部在学中の4年間にわたり、子供1人当たり毎月2万円の「高等教育支援金」を支給する制度を導入した。高等教育支援法第3条には、「高等教育支援金」の支給対象者の要件につき、以下の規定が置かれている。
○高等教育支援法 第3条 都道府県知事は、高等学校に在学中又は大学学部に在学中で次の各号のいずれかに該当する子の母に対し、当該子1人当たり毎月2万円の高等教育支援金を支 給する。ただし、当該支援金の支給の期間は、高等学校については3年間を上限とし、大学学部については4年間を上限とする。1号 父母が婚姻を解消した子 2号父が死亡した子 3号 父が重大な障害として政令で定める程度の障害の状態にある子 4号 父の生死が明らかでない子 5号 その他前各号に準ずる状態にある子で政令で定めるもの
内閣は、高等教育支援法の施行のため、政令により、「高等学校及び大学学部に在学中の子に対する教育支援に関する法律施行令」(以下、「高等教育支援法施行令」という。)を制定した。その2条には、高等教育支援法3条5号による委任を受けて、以下の規定が置かれている。
○高等教育支援法施行令 第2条 高等教育支援法第3条第5号に規定する政令で定める子は、次の各号のいずれかに該当する子とする。 1号 父が引き続き1年以上遺棄している子 2号 父が法令により引き続き1年以上拘禁されている子 3号 母が婚姻(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)によらないで懐胎した子(父から認知された子を除く。)
高校生であるZの母であるXは、Zが訴外Aとの間に生まれた婚外子であることから、Zが高校1年生の時から、高等教育支援法施行令2条3号の規定により高等教育支援金の支給を受けてきた。ところが、Zが高校3年生になった直後に、AがZを自分のとして認知(民法779条参照)したため、県知事Yは、高等教育支援法施行令2条3号括弧書の規定(「父から認知された子を除く。)に基づき、Xに対する同支援金の支給を打ち切る旨の処分(以下、「本件処分」という。)を行った。
問1
本件処分に際してXの権利保護を図るため、県知事Yにはいかなる事前手続をとるべき義務があるかにつき、法律上の根拠規定を明示して論じなさい。なお、高等教育支援法及び高等教育支援法施行令には、事前手続に関する規定は皆無であること、及び本件処分時においても行政に関する現行法令(2012年9月現在の法令)は廃止されていないことを前提に、論じなさい。
問2
本件処分は適法か違法かにつき、その理由とともに論じなさい。
(北海道大学法科大学院平成24年度)

行政法第4問解答 2022年7月16日(土)

第1 問1について
1 県知事Yの本件処分は、高等教育支援法施行令(以下「施行令」という。)2条3号かっこ書の規定という法令に基づきXを名あて人として、直接に支援金の支給を打ち切り、支援金を受ける権利を制限するという不利益処分に当たる(行政手続法2条4項)。
2 また、県知事Yによる本件処分は、Xの上記支援金の支給を打ち切る点で、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分(行手法13条1項)に当たるので、県知事Yとしては本件処分に先立ち、聴聞手続を実施すべき義務を負うのが原則である。しかし、本件処分は、処分の相手方が多数人に上ること等を考慮し、金銭の受給権を有するXに対して、金銭の給付を制限する不利益処分をしようとする場合に当たるので、聴聞手続を実施する必要はない(行政手続法13条2項)。よって、県知事Yは本件処分に際して聴間手続を実施する義務、及び弁明の機会の付与を与える義務を負っていない。
第2 問2について
1 県知事Yは、高等教育支援法3条5号による委任を受けた施行令2条3号かっこ書きである、父から認知された子を除くという部分の規定に基づき本件処分を行い、Xのような父から認知された子の母親を支給対象から除外している。この点、本件処分の根拠となる本件かっこ書きの規定が、法3条5号による委任の範囲を逸脱し、無効とならないか問題となる。
2 まず、憲法が、委任命令の存在を予定している(憲法73条6号)こと、行政による専門技術的な判断が要求される立法もあり得ることから、委任立法そのものは認められると解する。しかし、そもそも法律による行政の原理によれば、委任立法の範囲は無制限ではなく自ずから限界があると解する(憲法41条)。この点、法の規定による委任の範囲は、その文言はもとより、法の趣旨や目的、さらには、法による委任を受けた規定が一定の類型の子を支給対象として掲げた趣旨や支給対象とされた者との均衡等を考慮して解釈すべきと解する。
3 これを本問についてみるに、法3条の目的は、父と生計を同じくしていない子が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、高等教育支援金を支給して、子の福祉の増進を図ることにあるものと考えられる。そうすると、母が婚姻によらずに懐胎、出産した婚外子は、世帯の生計維持者としての父がいない子であり、父による現実の扶養を期待することができない類型の子に当たり、施行令2条3号の本件かっこ書きを除いた本文において婚外子を法3条1号ないし4号に準ずる子としていることは、法の委任の趣旨に合致している。
一方で、施行令2条3号では、父から認知された婚外子を支給対象から除外することとしている。確かに、婚外子が父から認知されることによって、確かに法律上の父存は在する状態になる。
しかし、通常、父から認知されただけで、父による現実の扶養を期待することができるとはいえない。また、法3条1号ないし4号が法律上の父の存否のみによって支給対象となる子の類型化をする趣旨でないことは明らかであるし、認知によって当然に母との婚姻関係が形成されるなどして世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもない。
したがって、婚外子が認知により法律上の父がいる状態になったとしても、依然として法3条1号ないし4号に準ずる状態が続いているというべきである。
そうすると、施行令2条3号が本件かっこ書きにおいて、父から認知された婚外子を除外することは、法の趣旨、目的に照らし両者の間の均衡を欠き、法の委任の趣旨に反する。
したがって、本件かっこ書きは、法3条5号の委任の範囲を逸脱し、無効となる。
4 かかる解釈を採ったとしても、施行令2条3号の規定は、婚外子を高等教育支援金の支給対象子として取り上げた上、認知された子をそこから除外することの明確な立法的判断を示していると解することができるので、いまだ何らの立法的判断がされていない部分につき裁判所が新たに立法を行うことと同視されるものとはいえない。
5 以上、本件かっこ書きである、父から認知された子を除くという規定は無効であり、それに基づく本件処分も違法となる。
以上

解説音声
問題解答音声

◁憲法第4問

▷刑法第4問

解答 アガルート

第1 問1について
1 県知事Yの本件処分は、高等教育支援法施行令(以下「施行令」という。)2条3号かっこ書の規定という法令に基づきXを名あて人として、直接に支援金の支給を打ち切り、支援金を受ける権利を制限するという不利益処分に当たる(行政手続法(以下「行手法」という。)2条4項柱書)。
2 また、県知事Yによる本件処分は、Xの上記支援金の支給を打ち切る点で、「名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分」(行手法13条1項1号ロ)に当たるので、県知事Yとしては本件処分に先立ち、聴聞手続を実施すべき義務を負うのが原則である。しかし、本件処分は、金銭の受給権を有するXに対して「金銭の給付を制限する不利益処分をしようとする」場合に当たるので、聴聞手続を実施する必要はない(行政手続法13条2項4号)。これは、処分の相手方が多数人に上ること等を考慮したものである。よって、県知事Yは本件処分に際して聴間手続を実施すべき義務は負っていない(なお、弁明の機会の付与も不要である。)。
第2 問2について
1 県知事Yは、高等教育支援法(以下「法」という。)3条5号による委任を受けた施行令2条3号かっこ書に基づき本件処分を行っているが、施行令2条3号かっこ書は、Xのような「父から認知された子」の母親を支給対象から除外している。では、本件処分の根拠となる施行令2条3号かっこ書の部分(以下「本件かっこ書」という。)が、法3条5号による委任の範囲を逸脱」し、無効とならないか。
2 まず、そもそも法律による行政の原理によれば、委任立法そのものが許されないとも思われる(憲法41条)が、憲法が、委任命令の存在を予定している(憲法73条6号)こと、行政による専門技術的な判断が要求される立法もあり得ることから、委任立法そのものは認められると解する。
もっとも、委任命令を無制限に認めることは、憲法41条の趣旨に反し、許されない。そこで、法の規定による委任の範囲は、その文言はもとより、法の趣旨や目的、さらには、法による委任を受けた規定が一定の類型の子を支給対象として掲げた趣旨や支給対象とされた者との均衡等を考慮して解釈すべきと解する。
3 これを本問についてみると、法3条の目的は、父と生計を同じくしていない子が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、高等教育支援金を支給して、子の福祉の増進を図ることにあるものと考えられる。そうすると、母が婚姻によらずに懐胎、出産した婚外子は、世帯の生計維持者としての父がいない子であり、父による現実の扶 後を期待することができない類型の子に当たり、施行令2条3号の本件かっこ書を除いた本文において婚外子を法3条1号ないし4号に準ずる子としていることは、法の委任の趣旨に合致している。
一方で、施行令2条3号の本件かっこ書は、父から認知された婚外子を支給対象から除外することとしている。確かに、婚外子が父から認知にされることによって、法律上の父が存在する状態になる。
しかし、通常、父から認知されれば、父による現実の扶養を期待することができるとはいえない。また、法3条1号ないし4号が法律上の父の存否のみによって支給対象となる子の類型化をする趣旨でないことは明らかであるし、認知によって当然に母との婚姻関係が形成されるなどして世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもない。
したがって、婚外子が認知により法律上の父がいる状態になったとしても、依然として法3条1号ないし4号に準ずる状態が続いているとい うべきである。
そうすると、施行令2条3号が本件かっこ書において、父から認知された婚外子を除外することは、法の趣旨、目的に照らし両者の間の均衡を欠き、法の委任の趣旨に反する。
したがって、本件かっこ書は、法3条5号の委任の範囲を逸脱し、無効となる。
4 以上のような解釈を採ったとしても、施行令2条3号の規定は、婚外子を高等教育支援金の支給対象子として取り上げた上、認知された子をそこから除外することの明確な立法的判断を示していると解することができるので、いまだ何らの立法的判断がされていない部分につき裁判所が新たに立法を行うことと同視されるものとはいえない。
5 本件かっこ書が無効である以上、それに基づく本件処分も違法となる。
以上