行政法第6問

問題 2022年7月28日(木)

倉庫業等を営む法人であるXは、昭和54年に建築された倉庫(以下「本件倉庫」という。)をその建築以来現在まで所有している。
本件倉庫は平成28年度に至るまで、一般用の倉庫として評価され、Y市のA区長は、固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の賦課決定を行った。Xは、平成10年度から平成28年度まで、その価額に係る賦課決定に従って固定資産税等を納付してきた。
固定資産評価基準は、家屋の評価に関し、各家屋について評点数を付設し、当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものとし、非木造家屋の評点数は、原則として、再建築費評点数に経過年数に応ずる減点補正率(経年減点補正率)を乗じることによって求めるものとしているところ、非木造家屋経年減点補正率基準表は、「工場、倉庫、発電所、変電所、停車場及び車庫用建物」については、①一般用のもの(2及び3以外のもの)、②塩素、塩酸、硫酸、硝酸その他の著しい腐食を有する液体又は気体の影響を直接全面的に受けるもの、冷凍倉庫用のもの及び放射性同位元素の放射線を直接受けるもの(冷凍倉庫等)、③塩、チリ硝石その他の著しい潮解性を有する固体を常時蔵置するためのもの及び著しい蒸気の影響を直接全面的に受けるものの3種類の用途別に区分しており、一般用の倉庫は、冷凍倉庫等よりも高く評価されることになる。
平成28年4月、A区長は、平成28年5月26日付けで、本件倉庫は、冷凍倉庫等に当たるとして、平成24年度から28年度までの本件固定資産税等を減額更正し、平成24~27年度分の約400万円をXに還付した。しかし、平成10年度から平成23年度分までの固定資産税等については還付などがなされなかった。
そこで、Xは、平成10年度から平成23年度分までの固定資産税等の過納金相当額約1300万円の支払を求めて、国家賠償請求訴訟を提起した。
なお、地方税法によれば、固定資産税の納税者は、登録価格について不服がある場合には、原則として価格の公示の日から納税通知書の交付を受けた日後60日(※)までの間において、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(第432条第1項本文)、同委員会の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができる(第434条第1項)が、登録価格についての不服は、同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる(同条第2項)とされている。
Xの請求は認められるか。ただし、この間、Xは、本件倉庫の登録価格に関し、Y市固定資産評価審査委員会に対する審査の申出を行ったことはなかったものとする。
※現行法では、「3か月」となっている

解答

第1 Xの請求について
1 本件で、Xは、Y市A区長が行った賦課決定の取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)によりその効力を否定することなく、国家賠償請求訴訟を提起している。この点、この訴えは行政処分の公定力に抵触し、賦課決定が違法なものであることを主張することができないのではないか問題となる。
2 公定力とは、行政行為が違法である場合であっても、無効である場合を除いて、取消権限のある者によって取り消されるまで、何人もその行為の効力を否定できないという効力をいい、その根拠は取消訴訟の排他的管轄に求められる。実質的には、行政関係を安定させ、国民の信頼保護を図るためのものである。
3 したがって、無効となるには至らない瑕疵があるにすぎない場合、Xの訴えは公定力に反し、認められないのではないか問題となる。とりわけ、金銭の納付を命ずるような処分について、取消訴訟を提起することなく、国家賠償請求を認めるとするならば、実質的に行政処分の効力を否定するのと同じ様相を呈する。
4 しかし、国家賠償請求訴訟は行政行為の違法性を理由にあくまで金銭による賠償を事後的に求めるものにすぎず、行政行為の効果を争うものではない。よって、国家賠償請求の違法性と、行政行為の法的効果とは無関係である。これは、金銭給付を命ずる処分についても同様である。また、現在ある行政処分が公務員の職務上の義務に違背してなされ、かつ、これを行った公務員の故意又は過失が認められるにもかかわらず、課税に係る金銭の徴収や給付に係る処分についてのみ出訴期間の制約などによってもたらされる法律関係安定の利益を優先させて国家賠償責任を一律否定するのは、被害者救済の観点からも、公正正義を旨とする行政側の要請からも妥当ではない。さらに、課税処分が無効であれば、納税者としては公法上の当事者訴訟として不当利得返還請求をすれば足り、この場合には、公務員の主観的要件等も不要となるから、国家賠償請求訴訟固有の存在意義が損なわれてしまう。したがって、無効とまではいえない行政処分に対する国家賠個請求訴訟の提起は、行政行為の公定力と抵触しないと解すべきである。
5 以上より、Xの訴えは行政行為によって私人が損害を受け、当該私人は直ちに国家賠償請求訴訟を提起できる場合にあたり、公定力に違反しないから、国家賠償法1条1項の他の要件を満たせば、同訴えは認められる。
以上

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