商法第11問

2022年8月29日(月)

問題解説

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問題

A株式会社(以下「A社」という。)は、若者向けの衣服を製造・販売している取締役会設置会社である。
A社の創業者であるBは、A社の代表取締役かつ発行済株式総数の100%を有する株主であったが、体調を崩して入院したため、A社の従業員であるC(Bの長男)及び D(Bの次男)に事実上経営を任せていた。なお、現在代表取締役にはFが就任している。CとDは、A社の経営をめぐって対立することが多く、Dは次第にA社の経営から遠ざけられるようになった。
平成27年12月に入ってBの容態が急変し、ついに同年12月31日に死亡した。Bの相続人は、C及びDのほか、Bの三男であるEがいるが、Bの遺産相続をめぐって対立が生じ、遺産分割の協議が調わなかった。このため、Bが保有していたA社株式の株主名簿上の名義もそのままの状態であった。
ところが、C及びEは、Fに働き掛け、Dに無断で、平成28年1月10日にA社の臨時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を開催し、Fの同意を得た上で、C及びEが議決権を行使して、C及びEを取締役に選任する旨の株主総会決議をした(以下「本件株主総会決議」という。)。その後、C及びEが取締役に選任された旨の登記がなされた。
(設問1)Dは、本件株主総会決議取消しの訴えを提起する適格を有するかについて、論じなさい。
(設問2)Dの訴えが適法である場合、Dの訴えは認められるか。

解答

第1 設問1について
Dは、本件株主総会決議取消しの訴えを提起する適格を有するA社の「株主等」(会社法(以下、法令名省略。) 831条1項柱書本文)に 当たるか。
Dは、C及びEと共に、A社の株主であったBの相続人であったところ、Bの死亡後、Bの遺産分割をめぐって対立が生じ、遺産分割の協議も調わなかったため、Bが保有していたA社株式の株主名簿上の名義もB名義のままであった。このような状況の下で、DがA社との関係で「株主等」に当たるのかが問題となる。
2 株式が共同相続された場合、株式は自益権のみならず、議決権などの共益権を含むから、可分債権(民法427条)とみることはできない。したがって、株式は共同相続人の共有となると解する(民法896条、898条、264条)。
そうだとすると、106条本文に定めるところに従い、当該株式につき権利行使者を定め、会社に通知しなければ、株主権を行使できない。 このことは、株主総会決議の瑕疵を争う訴えを提起する場合も同様であるから、上記権利行使者の指定及び通知を欠くときは、「株主等」に当たらないのが原則である。
もっとも、106条は、会社の事務処理上の便宜のための規定であるから、会社側に訴訟上の防御権を濫用し著しく信義則に反すると認められる特段の事情のある場合にはこの限りではない。具体的には、①共同相続された株式が会社の発行済株式の全部に相当し、②共同相続人のうちの特定の者を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとしてその旨の登記がされているような場合には、上記特段の事情が認められ、例外的に、権利行使者の指定・通知を欠いても、共同相続人は「株主等」に当たるものと解する。
3 本件では、Bの死亡後、Bが保有していた株式は、共同相続人であるC、D、Eの準共有となる。そして、Bの遺産分割をめぐって対立が生じ、遺産分割の協議も調わなかったため、Bが保有していた株式の名義も、B名義のままであり、また、C及びEが議決権を行使していること からすると、Dを権利行使者とする旨の指定・通知はなかったと思われる。
したがって、原則としてDは「株主等」に当たらない。しかし、Bは、A社の発行済株式総数の100%を有する株主であったというのだから、Bの死亡により共同相続された株式は、A社の発行済株式の全部に相当する(①充足)。また、Bの共同相続人であるC、D、Eのうち、C及びEを取締役に選任する旨の株主総会決議がされ、その旨の登記がなされている(②充足) したがって、上記特段の事情が認められる。よって、Dは、「株主等」に当たり、本件株主総会決議取消しの訴えを提起する適格を有する。
第2 設問2
1 本件株主総会決議において、A社は、C、D、Eの共有状態にある株式について、C及びEを権利行使者とする旨の指定の通知がないから、このままでは権利行使できないのが原則である(106条本文)。にもかかわらず、Fが、C及びEが議決権を行使することを認めているから、「決議の方法が法令・・・・・に違反」(831条1項1号)するものとして、Dの訴えは認められるとも思える。
2 しかし、共有者による権利行使者の指定の通知がない場合であっても、106条ただし書によれば、会社側から権利行使を認めることができるとされている。そうすると、FがC及びEに議決権行使を認めている本問では、Dの訴えは認められないのではないか。
3 106条本文は、共有に属する株式の権利の行使方法について、民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(同法264条ただし書)を設けたものである。その上で、106条ただし書は、その文言に照らすと、株式会社が当該同意をした場合には、共有に属する株式についての権利の行使方法に関する特別の定めである同条本文の適用が排除されることを定めたものである。
そうすると、共有に属する株式について106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書の同意をしても、当該権利の行使は、 適法となるものではないと解すべきである。
そして、共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなどの特段の事情のない限り、株式の管理行為として、民法252条1項前段により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられる。
4 本問では、C及びEがBが有していた株式の持分の過半数を有するところ、上記のような特段の事情は認められないから、Fの同意を得た上で、C及びEが権利行使をし、A社がこれを認めた場合には106条ただし書が適用される。したがって、「決議の方法が法令・・・・・・に違反」するとはいえない。よって、Dの訴えは認められない。
以上

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