民事訴訟法第11問

2022年8月30日(火)

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問題

XとYは、亡父から相続した甲土地を共有していた(持分はそれぞれ2分の1)が、 Yは、Xに無断で甲土地を第三者に賃貸し、甲土地の賃料収益の全部を収受していた。そこで、Xは、甲土地の賃貸による収益のうちその持分割合を超える部分は不当利得に当たると主張して、Yに対して、Xの持分割合に相当する賃料持分額の支払を求める訴訟を提起した。これに対してYは、Xの提起した訴訟のうち、口頭弁論の終結日の翌日以降の分について求める部分は不適法であると反論した。
甲土地は、X及びYの共有であるとの心証を抱いた裁判所は、口頭弁論の終結日の翌日以降の分について、どのような判決をすべきか、論じなさい。なお、甲土地は、最大50台程度を収容することのできる月極駐車場として利用されているところ、月極駐車場は、一般に常時全部埋まる可能性が高くなく、また、その性質上、短期間で更新のないまま期間が終了したり、期間途中でも解約となることも珍しくない。さらに、より低額の賃料で利用できる駐車場が近隣に現れた場合には賃借人は随時そちらに移る等の事態も予想される。

解答

1 Xが提起した訴訟のうち、口頭弁論の終結日の翌日以降の分について求める部分は将来給付の訴え(135条)に当たる。
2(1)将来の給付を求める訴えは、「あらかじめその請求をする必要がある場合」に限り、提起することができる(135条)。しかし、「あらかじめその請求をする必要がある場合」の内容が不明確であり、間題となる。
(2)将来の給付の訴えの対象は、権利義務の発生はあり得るが、判決の基準時までに履行すべき状態にないものである。そこで、訴えの利益ありといえるには、最低限将来給付を求める基礎となる資格(請求適格)が認められる必要がある。加えて、あらかじめ給付判決を得ておく必要がない場合、事前請求の必要性は原則として認められない。履行期に給付が期待できる限りで、話をする必要はないからである。
3(1)では、本問のような将来発生すべき債権に基づく将来の給付請求の場合について、請求適格が認められるか。135条は将来具体的な給付義務が成立したときに改めて訴訟により同請求権成立の全ての要件の存在を立証することを必要としないと考えられるようなものについて、例外的に将来の給付の訴えによる請求を可能ならしめたにすぎないものと解される。
(2)そこで、①その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、②債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動が予め明確に予測し得る事由に限られ、③しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても、当事者間の衡平を害することがなく、格別不当とはいえない場合に請求適格が認められると解する。
(3)まず、①については、XとYは、亡父から相続した甲土地を共有していた(持分はそれぞれ2分の1)が、Yは、Xに無断で、甲土地を第三者に賃貸しているため、不当利得返還請求権発生の基礎となる法律上の関係が存在し、その継続が予測される。また、賃貸の形態は、最大50台程度を収容することのできる月極駐車場として利用されているところ、継続的法律関係たる賃貸借契約の性質からいって、将来も継続的に同様の収益が得られるであろうことを一応予測し得るということができる。もっとも、月極駐車場は、一般に常時全部埋まる可能性は高くなく、また、その賃貸借契約の性質上、短期間で更新のないまま期間が終了するとか、期間途中で解約されることも珍しくない。さらに、より低額の賃料で利用できる駐車場が近隣に現れた場合には賃借人は随時そちらに移ることが十分に予想される。したがって、②請求権の存否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動が明確に予測し得るとはいえない。また、上記と同様の理由により、③も満たされない。
(4)よって、請求適格は認められず、「あらかじめその請求をする必要がある場合」に当たらない。
4 以上から、裁判所は訴え却下判決をすべきである。
以上

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