行政法第11問

2022年9月1日(木)

問題解説

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問題

A県は、県内B市にあるC線D駅周辺の土地について、旧都市計画法(大正8年法第36号)のもと、A県都市計画において同駅前広場に指定し、昭和22年に同駅前広場設定事業(以下「本件事業」という。)施行年度の決定(以下「本件決定」という。) を行った。Xは指定された土地の一部(以下「本件土地」という。)に所有権を有する者である。
本件決定は昭和24年5月に廃止されたところ、Xは本件土地上に建物(以下「本件建物」という。)を建築しようと思い、同年12月頃あらかじめB市役所に建築を許可して貰えるかどうかを問い合わせたところ、同市役所の建築課長は、当時本件土地に対する本件決定は廃止されていたが、再びその施行年度の決定があるかどうかは不明であったので、許可する意向を漏らした。そこで、Xは、同年12月1月に建築許可の申請をしたが、B市長は本件土地は駅前広場に指定されているので、慎重を期してA県建設局にその指示を仰いだところ、A県は、本件事業はその費用が水害対策費に流用され予算がなくなったため、一時延期的にその施行が廃止されたが、予算が取れ次第事業を施行することになるから、その施行に支障を来たすことのないよう建築許可は一応見合せられたい旨指示してきたので、B市長はXに対し右指示の趣旨を伝えて建築申請を不許可とした。ところがXはB市長に対し、本件事業施行の場合は、いかなる条件でも異議をいわず新築した建物を撤去するので建築を許可してほしい旨想請し、その旨の請書及び念書を提出したので、B市長はA県建設局とも協議し、Xより、あらかじめの本件事業により、A県知事が移転を命じた場合は3か月以内にその物件を完全に広場境域外に撤去すること、この撤去により生ずる総ての損失についてはA県知事に対しその補償を一切要求しないこと等を定めた条項(以下「本件条項」とい う。)を附記することの承諾を得た上、昭和25年3月23日付でXに対し本件条項を附記した建築許可(以下「本件建築許可」という。)をなした。Xは本件建築許可に基づき本件土地上に本件建物を建築したが、昭和29年になって本件事業が施行されることになったため、本件条項の効力について争いたいと考えている。
Xは、本件条項の効力を争うため、行政事件訴訟法(現行法によるものとする。)上 どのような訴訟を提起することが考えられるか。また、その中でどのような主張をすることが考えられ、その主張は認められるか。
旧都市計画法(大正8年4月5日法律第36号)(抜粋) 第1条本法に於て都市計画と称するは交通、衛生、保安防空、経済等に関し永久に公共の安寧を維持し又は福利を増進する為の重要施設の計画にして市若は主務大臣の指定する町村の区域内に於て又は其の区域外に亘り施行すべきものを謂ふ。第11条の2 都市計画として内閣の認可を受けたる公園、緑地若は広場の境域内又は第12条の土地区画整理事業を施行すべきことに付都市計画として内閣の認可を受けたる区域内に於ける建築物に関する制限にして都市計画に必要なるものは政令を以て之を定む。第16条 道路、広場、河川、港湾、公園、緑地其の他政令を以て指定する施設に関する都市計画事業にして内閣の認可を受けたるものに必要なる土地は之を収用又は使用することを得。2 前項土地付近の土地にして都市計画事業としての建築敷地造成に必要なるものは政令の定むる所に依り之を収用又は使用することを得。
旧都市計画法施行令(大正8年勅令第482号,改正昭和36年8月政令第294 号)(抜粋) 第11条の2 都市計画法第11条の2の公園、緑地又は広場の境域内に於て建築物を新築、改築又は増築せんとする者は都道府県知事の許可を受くべし。ただし命令を以て許可を要せずと規定したるときはこの限に在らず。第12条 都道府県知事は前4条の許可に都市計画上必要なる条件を附することを得。
※なお、現行・都市計画法では,計画区域内の道路・公園・広場その他都市計画において定められた都市計画施設 (40, 111)の区域内における建築は、原則として知事の許可を要し(53)、この場合、知事は法定基準に合致する建築申請には許可を与えなければならないが(54)、他方、当該区域内の土地で知事の指定した区域内において行われる建築については不許可とすることもできる(55)。この不許可のために土地利用に著しい支障を来たす土地所有者は、そのことを理由として、当該土地の買い取りを申し出ることができる。その時には、知事は、原則として時価でこれを買い取るものとされている(56)。

解答

第1 設問前段について
1 Xは、建築許可の効力は肯定しつつ、本件条項の効力を争う手段を採 るべきこととなる。そこで、Xとしては、本件条項の取消訴訟(行政事件訴訟法(以下、法令名省略)3条2円)ないし無効確認訴訟(3条4項)を提起し争うべきである。
2(1) もっとも、本件条項は、行政行為である本件建築許可に法律で規定された事項以外の内容を付加するもので附款に当たる。そこで、附款が独立して抗告訴訟の対象となるかが問題となる。
(2) この点について、附款が行政行為と可分な場合、附款のみを対象として取消訴訟を提起することができる。附款も処分性を有する限り、それ自体「処分」(3条2項)とみることができるからである。
(3) 本件条項は、行政行為たる建築許可に撤去義務という作為義務を課す講学上の負担である。負担は、本体である許可の効果自体を制限するものではなく、負担に違反しても当然に許可の効力が失われるわけではなく、許可と可分であるといえる。これは本問のように、Xが要請し、許可を得ることと引換えに負担が付された場合であっても、同様に解することができる。そして、「処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。本件条項は、行政庁たるA県知事が、旧都市計画法(以下「法」という。)11条の2により委任を受けた旧都市計画法施行令(以下 「施行令」という。)12条に基づき、許可の対象者たるXに対して、一切の補償を要求することなく広場境域内の建物を撤去する義務を生じさせるものであり、「処分」に当たる。
(4) したがって、Xは、本件条項を対象として取消訴訟ないし無効確認訴訟を提起し得る。
3 もっとも、本件建築許可がなされた昭和25年3月23日から1年以上経過しており、特に「正当な理由」も認められないため、取消訴訟を提起することはできない(14条2項、1項参照)。したがって、Xとしては、A県を相手方として(38条1項11条 1項1号)、本件条項の無効確認訴訟を提起して争うべきである。
第2 設問後段について
1 Xとしては、本件条項が、①本件事業により、A県知事が移転を命じた場合は3か月以内にその物件を完全に広場境域外に撤去すること、②この撤去により生ずる総ての損失についてはA県知事に対しその補償を一切要求しないこと等を定めたことには、憲法上保障される財産権(憲法29条1項)を不当に侵害するものであるから、重大明白な瑕疵があり、違法であると主張することが考えられる。
2(1) 附款も、比例原則のもと、公益目的達成のために必要な限度で付され、
(2) この点につき、都市計画とは、「交通、衛生、保安、防空、経済等に関し永久に公共の安寧を維持し又は福利を増進する為の重要施設の計画にして市若は主務大臣の指定する町村の区域内に於て又は其の区域外に亘り施行すべきもの」(法1条)であり、公共の福祉のために必要なものである。
そこで、本件条項による制限が私見に対する制限であったとしても、それが都市計画の施行上必要なものである限りは公共の福祉のためのやむを得ない制限として違憲・違法とはいえないというべきである。
3 本件事業は、予算の関係上一時施行が延期されたが、予算の成立とともに施行されることになっていた。そして、その施行の際には、本件土地は本件事業にかかる土地の一部に該当し、法16条によって収用又は使用され得ることが明らかであり、そのような土地の上に新たに建築物 を設置しても、本件事業の実施に伴い除却を要することにならざるをえない。
したがって、本件条項は、都市計画事業である本件事業の実施上必要なものであったといえる。
また、上記のような事情の下、Xは、本来的には建築許可を受けることはできなかったのであるから、たとえ本件条項がXにとって不利益なものであるにせよ、建築許可を受け、土地利用の利益に浴している以上、少なくともそのような許可を受けられなかった者に比べて、有利な 取扱いを受けていることは否定し得ない。そうだとすれば、本件条項は、そもそも、Xの財産権を制限するものではないと評価することも可能である。
仮に、本件条項がXの財産権を制限したものであったとしても、本件建築許可について、Xは、本件事業施行の場合にはいかなる条件でも異議をいわず新築した建物を撤去するので建築を許可してほしい旨要請し、その旨の請書及び念書を差し入れている。そうすると、Xは本件事 業施行の場合には無償で建物を撤去することを承諾した上で本件建物を建築したといえる。にもかかわらず、本件建築許可を受け、本件建物を建築してしまってから、本件条項の無効を主張するのは、信義則違反であるということもできる。
4 したがって、本件条項は公共の福祉のためやむを得ない制限であったといえ、適法である。以上から、Xの主張は認められない。
以上

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