民事訴訟法第12問

2022年9月6日(火)

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問題

Aが死亡し、その共同相続人はXY及びZである。
1 Xは、Y及びZを被告として甲土地がAの遺産に属することの確認を求める訴えを提起した。この訴訟において、YはXの主張を争ったが、ZはXの主張を争わなかった。裁判所は、乙に対する関係で口頭弁論を分離して終結し、判決することができるか。
2 Xは、甲土地の単独所有を主張するYを被告として、共同相続に基づき、甲土地の共有持分権を有することの確認を求める訴えを提起した。この訴訟においてX勝訴の判決が確定した場合、この判決は、どのような効力を有するか。
(旧司法試験 平成8年度第2問)

解答

第1 小間1について
1 本問において、裁判所は、Zに対する関係で口頭弁論を分離して終結し、判決するとしているが、これは、Zが争わないことから、Xの請求を認容する本案判決を意味すると思われる。
裁判所がこのような本案判決するためには、前提として、Xの提起した遺産確認の訴えが適法であることが必要である。
2 確認の訴えは、その対象が無限定であり、判決に既判力しか認められず紛争解決の実効性がある場合は限られているから、確認の利益は、紛争の抜本的解決のために確認判決をすることが有効・適切である場合に限り認められる。具体的には、①確認対象として選択した訴訟物が紛争解決にとって適切か(対象選択の適否)、②確認訴訟という手段によることが紛争解決において有効適切か(方法選択の適否)、③即時に当該法律関係等につき確定する必要があるか(即時確定の利益の存否)の3つの観点から判断すべきである。
3(1) 特定の財産が遺産に属したことの確認を求める場合には、過去の法律関係の確認を求めるものであって、①確認対象の適切性が認められないとも思われる。しかし、一定の財産が遺産に属することの確認を求める道産確認の訴えは、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えである。したがって、Xの提起した遺産確認の訴えは、現在の法律関係の確認を求めるものとして、紛争の抜本的解決に適しているものであって、①確認対象の適切性を有する。次に、遺産の属性が問題となっている事案では、共同相続に基づく自己の法定相続分に応じた共有持分の確認を求めれば足りるから、②方法選択の適切性が認められないとも思われる。
しかし、それでは小間2で論じるように、遺産品性を既判力(114条1条)をもって確定することができないから、紛争の抜本的解決という点で適さない。
したがって、遺産確認の訴えによることが行争解決において有効適切であり、②方法選択の適切性も認められる。
(3) よって、③即時確定の利益が認められれば、確認の利益が認められるところ、本間では、Xらには遺産品属性に関する紛争が顕在化しているから、時に当該法律関係等につき確定する必要があり、これも認められる。
以上から、Xの訴えは適法である。
4 次に、裁判所がXの主張を争わないZに対する関係で口頭弁論を分離して終結し、判決することができるためには、当該訴えが、XY間とXZ間で矛盾判決の危険がないこと、すなわち、決の合一確定が要請されない通常共同訴訟(38条)であることが必要である。 そこで、当該訴えが合一確定が要請される固有必要的共同訴訟(40条)か、そうではない通常共同訴訟か、両者の区別基準が問題となる。
(1) 民事訴訟は私的紛争の解決を目的とし、新訴の追行は実体法上の権利処分と同様の結果を導く。そうだとすれば、固有必要的共同訴訟か否かは、原則として訴訟物たる権利関係の実体法的性格との関係で客観的に決定すべきである。
もっとも、これにより固有必要的共同訴訟とされた場合、原告側の 足並みが揃わないときや被告側の全員に訴えを提起することが困難なときには、原告側の権利保護の途が閉ざされかねない。
そこで、固有必要的共同訴訟の範囲は、実体法的観点を基準としつつも証法的観点から調整して決すべきである。
(2) これを本間に当てはめると、実体法的観点において、遺産は共同相続人の共有物であって、資産確認の訴えは、共有物全体に関する訴訟であるから、管理処分権は共同相続人全員に帰属する。
また、遺産分割の審判は共同相続人全員が関与して行われなければならず、一部の者を除外して行われた審判は無効である。したがって、遺産分割の前提として特定財産の遺産帰属性についてあらかじめ 確定しておくのであれば、それは共同相続人全員の間で合一に確定し ておくことが望ましい。
したがって、固有必要的共同訴訟となる。
5 以上から,遺産確認の訴えは固有必要的共同訴訟である以上、裁判所は口頭弁論を分離して終結し、判決をなすことができない。
第2 小間2について
1 まず、共同相続に基づく甲土地の共有持分権の確認は、①現在の法律関係の積極的な確認であるため確認対象として適切である。また、遺産帰属性を問題とするのではなく、共同相続に基づく共有持分権の確認だけを求めるのであれば、②方法選択の適切性に欠けるとこともない。さらに、紛争が顕在化しているのであれば、③日時確定の利益も認められる。したがって、確認の利益は認められる。また、実体法上各共有者はその持分権につき個別に管理処分権を有することから、共有持分権確認訴訟は固有必要的共同訴訟ではない。
よって、共同相続人Xが単独でなすYに対する甲土地の共有持分権確認の訴えは適法である。
2(1) 次に、この訴訟においてX勝訴の判決が確定した場合、この判決の効力は、当事者とならなかったZに対しては及ばない(115条1項1号)
(2) また、本問では、判決主文におけるXが甲土地の共有持分権を有するという判断についてのみ既判力が生じ、理由の判断である甲土地の遺産帰属性については、既判力は及ばない(114条1項)。
3 以上より、当該訴訟におけるXの確定判決の効力は、XY間において、口頭弁論終結時において、Xに甲土地の共有持分権があるという点についてのみ、既判力が生ずる。
以上

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