刑事訴訟法第13問

2022年9月17日(土)

問題解説

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問題

警察官P及びQは、甲に対する覚せい剤所持事件において、甲の自宅を捜索場所、差し押さえるべき物を「覚せい剤、注射器、計量器、その他本件に関係ありとされる一切の資料及び物件」とする捜索差押許可状を得た。そこでP及びQは、上記捜索差押許可状を用いて、甲を立会人とする甲宅の捜索を開始したところ、執行中に、甲宛ての宅配物が配達され、甲がこれを受領した。そこで、Pは、甲に対し、宅配物の中を見せるよう求めたが、甲がこれを拒んだため、甲から宅配物を取り上げて、中を捜索したところ、注射器を発見したため、これを差し押さえた。一方、Qは、甲の寝室を捜索していたところ、高価な腕時計十数点が出てきた。そこで、Qは、これらを床に並べて、写真撮影をした。その後、甲は、上記P及びQの行為は違法であると主張し、注射器の返還及びQが写真撮影をしたことによって得られたネガの廃棄又は返還を求めるとして、準抗告を申し立てた。 甲の準抗告は認められるかについて、論じなさい。

解答

第1 準抗告の法的根拠
甲は、上記P及びQの行為は違法であると主張して、抗告を申し立てているが、Pらは警察官であるから、その法的根拠は430条2項である。以下、それぞれP及びQの行為が違法であるか、違法であるとして、準抗告の対象になるか検討する。
第2 注射器について
1 本件では、捜索場所を甲宅とする捜索差押許可状の執行中に、甲宅に届いた宅産物を捜索し、注射器を差し押さえている。
搜索の対象物には捜索差押許可状の効力が及んでいなければならないが、捜索差押え執行中に捜索場所に宅配された宅配物にも同許可状の効力が及ぶか、条文上明らかでなく問題となる。
2 219条1項が捜索差押許可状に「搜索すべき場所」を記載するとしている趣旨は、憲法35条1項の保障する住居の不可侵を保障することにあるところ、捜索実施中に他の場所から捜索すべき場所に持ち込まれ、被処分者が所持・管理するに至った物について捜索を行ったとしても、新たな住居権・管理権の侵害を生じるものではなく、新たな令状を必要とする理由はない。
また、令状呈示の趣旨は、手続の明確性と公正を担保するとともに、 裁判に対する不服の機会を与えることにあるので、令状の呈示という行為自体に、呈示の時点に捜索場所に存在する物に許可状の効力を限定するという機能はない。更に、捜査機関は、令状の有効期間内であればいつ捜索に着手してもよいはずなのに、捜索開始時期がたまたま前後したというだけで、捜索場所にある物を捜索できたりできなくなったりするのは不合理である。
したがって、捜索差押許可状の執行中に捜索場所に配された物にも当該許可状の効力が及ぶと解する。
3 以上に従い、本件の宅配物にも合状の効力が及ぶから、その捜索及びそれに引き続く差押えも適法である。
そのため、注射器の差押えについての判抗告は認められないから、甲は注射器の返還を求めることはできない。
第3 写真のネガについて
1 本間において、Qは、腕時計十数点を床に並べて、写真撮影をしている。
(1) 室内等を対象として写真撮影を行う行為は、高度の要保護性が認められる相手方のプライバシー等(憲法13条)に関する利益を侵害するものであって、重要な権利利益に対する侵害が認められる。またそのような写真撮影は、相手方に反対意思の形成機会を与えず、被処分者の権利を完全に侵害するものであるから、意思を制圧するものと同視できる。
したがって、室内等を対象として写真撮影を行う行為は、「強制の 処分」(197条1項ただし書)に当たる。
(2) そして、これは、五官の作用で対象物の性質・形状を感知するものであるから、その法的性格は「検証」であり、検証令状(218条1項)が必要である。
本問でも、検証令状なく、写真撮影を行うことができないのが原則である。
2 ただし、捜索差押え手続の適法性担保のためのその執行状況の記録、証拠物の証拠価値を保存するための差押物の位置関係の記録等、捜索差押えに付随して写真撮影が必要である場合がある。このような写真撮影は、「必要な処分」(222条1項、111条1項)とみることができるから、捜索差押えに必要かつ相当な範囲で許容されていると解される。
もっとも、本件では、腕時計の写真撮影は上記場合には当たらない。
以上から、無令状検証として違法である。
3 しかしながら、抗告の対象とはならないと解すべきである。写真撮影の法的性格は検証であり、「押収…に関する処分」(430条2項)に当たらないからである。
この点について、対象物をくまなく撮影することは実質的にみて差押えに当たり、「押収……に関する処分」として準抗告の対象になるとする考え方もある。しかし、このような解釈は検証と差押えの差異を無にするものであるし、そもそも文書内容を逐一撮影したような場合と異なり、本問では腕時計の外形を撮影しているのみであるから、実質的にみ て差押えに当たると評価することもできないと解すべきである。
したがって、写真撮影に対する準抗告は認められないから、甲は写真のネガの廃棄又は返還を求めることはできない。
以上

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