行政法第14問

2022年9月22日(木)

問題解説

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問題

Yは、A県知事から廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)上の許可を受けて産業廃棄物処分業を行っている。Yは、平成元年1月ころ、A県X市所在の土地(以下「本件土地」という。)に産業廃棄物処理施設(以下「処理施設」という。)である産業廃棄物の最終処分場(以下「本件処分場」という。)の設置許可申請をし、A県知事から、設置の許可を受けた。なお、本件処分場において、法第2条第5項の特別管理産業廃棄物が取り扱われる予定はなかった。
その後、Yは、平成7年7月ころ、X市との間で、本件処分場についての以下の内容の公害防止協定(以下「本件協定」という。)を締結した。
本件協定は、処理施設の概要として、本件処分場の設置場所を本件土地と定め、施設の規模(面積、容量)等を定めるとともに、その使用期限を「平成23年12月31日まで。ただし、それ以前に……埋立て容量…に達した場合にはその期日までとする。」と定め、また、Yは上記期限を超えて産業廃棄物の処分を行ってはならない旨を定めていた(以下、本件処分場の使用期限の定めを「期限条項」という。)。
X市は、平成24年1月、Yに対し、本件協定の期限条項に定めた本件処分場の使用期限が経過したとして、同協定に基づく義務の履行として、本件土地を本件処分場として使用することの差止めを求めて訴えを提起した。
設問 X市の本件訴えは認められるか。本件協定の法的性質について論じた上で、期限条項の法的拘束力の有無について、Y側の反論を想定しつつ論じなさい。なお、問題の事情には、【資料】として掲げた各規定が適用されるものとする。
【資料】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年12月25日法律第137号)(抜粋) (目的) 第1条 この法律は,廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄物の適正な分別,保管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする。(定義) 第2条この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん 尿,廃油,廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって,固形 状又は液状のもの(括弧内略)をいう。 2・3 (略) 4 この法律において「産業廃棄物」とは,次に掲げる廃棄物をいう。 一 事業活動に伴つて生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物 二輸入された廃棄物(括弧内略) 5 この法律において「特別管理産業廃棄物」とは,産業廃棄物のうち、爆発性,毒性感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するものとして政令で定めるものをいう。
(変更の許可等) 第7条の2 1.2 (略) 3 一般廃棄物収集運搬業者又は一般廃棄物処分業者は、その一般廃棄物の収集若し くは運搬若しくは処分の事業の全部若しくは一部を廃止したとき、又は住所その他環境省令で定める事項を変更したときは、環境省令で定めるところにより、その旨を市町村長に届け出なければならない。 5 (略) (一般廃棄物処理施設の許可) 第8条 一般廃棄物処理施設(弧内略)を設置しようとする者(括弧内略)は,当該一般廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。 2~6 (略) (変更の許可等) 第9条 1.2 (略) 3 第8条第1項の許可を受けた者は、(中略)当該許可に係る一般廃棄物処理施設(括弧内略)を廃止したとき,若しくは一般廃棄物処理施設を休止し、若しくは休止した当該一般廃棄物処理施設を再開したときは、遅滞なく、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。4~7 (略) (産業廃棄物処理業) 第14条 1~5 (略) 6 産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、事業者(自らその産業廃棄物を処分する場合に限る。)、専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの処分を業として行う者その他環境省令で定める者については、この限りでない。 7~9 (略) 10 都道府県知事は、第6項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるとき でなければ、同項の許可をしてはならない。
11~17(略) (変更の許可等) 第14条の2 1.2 (略) 3 第7条の2第3項(中略)の規定は、産業廃棄物収集運搬業者及び産業廃棄物処分業者について準用する。この場合において、同条第3項中「一般廃棄物の」とあ るのは「産業廃棄物の」と,「市町村長」とあるのは「都道府県知事」と(中略) 読み替えるものとする。 4.5 (略) (事業の停止) 第14条の3都道府県知事は,産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者が次の各号のいずれかに該当するときは、期間を定めてその事業の全部又は一部の停止を命ずることができる。
(許可の取消し) 第14条の3の2都道府県知事は、産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者が次の各号のいずれかに該当するときは、その許可を取り消さなければならない。
2 都道府県知事は,産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者が前条第2号 又は第3号のいずれかに該当するときは、その許可を取り消すことができる。 3・4 (略) (産業廃棄物処理施設) 第15条 産業廃棄物処理施設((中略)産業廃棄物の最終処分場その他の産業廃棄 物の処理施設(中略)をいう。以下同じ。))を設置しようとする者は、当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。 2~6 (略) (許可の基準等) 第15条の2 都道府県知事は、前条第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適 合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
一~四 (略) 2~5 (略) (変更の許可等) 第15条の2の6 12 (略) 3 第9条第3項(中略)の規定は、産業廃棄物処理施設の設置者について準用する。この場合において、同条第3項中(中略)「当該許可に係る一般廃棄物処理施 設」とあるのは「当該産業廃棄物処理施設」と、「一般廃棄物の」とあるのは「産業廃棄物の」と,「一般廃棄物処理施設を」とあるのは「産業廃棄物処理施設を」 と(中略)読み替えるものとする。 (改善命令等) 第15条の2の7都道府県知事は、次の各号のいずれかに該当するときは、産業廃棄物処理施設(括弧内略)の設置者に対し、期限を定めて当該産業廃棄物処理施設につき必要な改善を命じ、又は期間を定めて当該産業廃棄物処理施設の使用の停止を命ずることができる。

解答

第1 本件協定の法的性質について
1 本件協定は、公害防止協定であるところ、X市は本件協定の期限条項に基づき本件処分場の使用の差止めを求めている。
では、このような本件協定の法的性質、特にその法的拘束力をいかに解すべきか。
2 この点について、法律や条例に基づいて一律に実施されるべきであり、これを超える規制を公害防止協定によって事業者に対して加えることは、法律による行政の原理に違反するとして、一種の紳士協定にすぎないとする見解がある。Yとしてはこのように主張するであろう。
しかし、公害の防止等を目的とする法令が定める規制措置は、一般的には、環境の保全や住民の生命・健康の維持という観点からの必要最小限の規制であると考えられ、事業者が、地方公共団体との間の個別の合意により、法令が定める規制を超える義務を負うことを一律に排斥する趣旨を含むものではないと考えられる。そうすると、このような趣旨の 合意に法的拘束力を認めても、直ちに法律による行政の原則に反することにはならない。
したがって、公害防止協定は法的拘束力を有し得る契約であると解するのが相当である。
3 そして、公害防止協定は、行政目的の手段であり、住民の住環境の保全という公共の利益の保護を目的としている点で、私的な財産上の利益の保護・調整を目的とする民事法の妥当範囲を超えるものであると解されるから、行政契約であると解するのが妥当である。
第2 本件協定の期限条項の法的拘束力の有無
1 ある条項が契約としての法的拘束力を有するか否かは、通常の契約解釈と同様に、当事者が法的拘束力を持たせる意思で当該条項を定めたか否か、契約内容の一般的有効要件を満たすか否かを、個別具体的な公害防止協定中の個々の条項ごとに、種々の事情を総合的に勘案して判断すべきである。
特に、法の趣旨・目的に反する契約はその効力を有しない点に留意すべきである(民法90条ないし91条)
2(1) この点について、Yとしては、期限条項は法の趣旨に違反し、公序良俗に反すると主張することが考えられる。具体的には、知事の専権である産業廃棄物処理施設の設置許可(法15条1項)の効力が存続している間に、期限条項によってその効力を制限することは、知事の専権を害し、法の趣旨・目的に反するものであると主張すると思われる。
(2) この主張について検討するに、法は、廃棄物の排出の抑制、適正な再生、処分等を行い、生活環境を清潔にすることによって、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とし(法1条)、その目的を達成するために廃棄物の処理に関する規制等を定めるものである。そして、法は、産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないと定めるとともに(法14条60)、知事は、所定の要件に適合していると認めるときでなければ同許可をしてはならず(同条10項)、また、同許可を受けた者(以下「処分業者」という。) が同法に違反する行為をしたときなどには、同許可を取り消し、又は期間を定めてその事業の全部若しくは一部の停止を命ずることができると定めている(法14条の3の2、14条の3)。さらに、法は、 産業廃物処理施設を設置しようとする者は、当該施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないと定めるとともに(法15条1項)、知事は、所定の要件に適合していると認めるときでなければ同許可をしてはならず(法15条の2)、また、同許可に係る処理施設の構造又はその維持管理が同法の規定する技術上の基準に適合していないと認めるときは、同許可を取り消し、又はその設置者に対し、期限を定めて当該施設につき必要な改造を命じ、若しくは期間を定めて当該施設の使用の停止を命ずることができると定めている(法15条の3、15条の2の7)。
(3) これらの規定は、知事が、産業廃棄物処分業者としての適格性や産業廃棄物処理施設の要件適合性を判断し、これらが法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものであり、上記の知事の許可は、処分業者に対し、許可が効力を有する限り事業や処理施設の使用を禁続すべき義務を課すものではない。
そして、法には、処分業者にそのような義務を課す条文は存せず、かえって、処分業者による事業の全部又は一部の廃止、処理施設の廃止については、知事に対する届出で足りる旨規定されているのであるから(法14条の2第3項において準用する法7条の2第3項、法15条の2の6第3項において準用する法9条3項)、処分業者が、公害防止協定において、協定の相手方に対し、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは、処分業者自身の自由な判断で行えることであり、その結果、許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても、法に何ら抵触するものではない。
(4) したがって、期限条項は法の趣旨に反せず、Yの主張は認められない。
3 以上から、期限条項には法的拘束力が認められ、X市の本件訴えは認められる。
以上

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