刑事訴訟法第14問

2022年9月24日(土)

問題解説

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問題

1 平成29年7月初旬、G県H警察署生活安全課の下には、複数の情報提供者から、最近、管内にあるマンション「Kハイツ」201号室を拠点に、覚せい剤の密売が行われている旨の確度の高い情報が寄せられた。そこで、同年7月10日から同年8月5日の間、「Kハイツ」周辺において、H警察署の司法警察員が張り込みをしたとこ ろ、上記201号室には、甲及びその内妻である乙が居住していること、深夜になると、年齢、性別の異なる複数の人間が出入りしていることが判明した。
2 H警察署の司法警察員Pは、甲に覚せい剤営利目的所持及び譲渡の疑いがあるものと考え、被疑者を「甲」、被疑事件名を「覚醒剤取締法違反」、捜索場所を「Kハイツ201号室甲方」、差し押さえるべき物を「覚せい剤粉末、本件覚せい剤取引計画を示すメモ用紙、注射器、ビニール袋その他本件と関連すると思料される一切の文書及び物件」とする捜索差押許可状の発付を裁判官から受けた(以下「本件捜索差押許可状」という。)。
同月20日、司法警察員Pらは、甲宅の捜索を行うことにしたが、来意を告げれば甲らが証拠隠滅行為等に及ぶおそれがあることから、捜査に当たる司法警察員の内Q及びRの2名がガスの点検員の服装に扮して甲宅を訪れることとした。
3 同日、Pらは、本件捜索差押許可状を所持して、「Kハイツ」201号室に赴いたところ、その玄関扉は施錠されていた。そのため、司法警察員Q、Rが201号室の玄関扉の前に立ち、チャイムを鳴らし、「ガスの点検に来ました。」と声をかけた。 これに対し甲は、ガスの点検員が来たものと信じ、玄関扉の錠を外して開けた。そのため、Pらは、「警察だ、ガサ状出てるぞ。」と言いながら、甲に対して本件捜索差押許可状を示し、玄関に入った。玄関まで出てきていた甲は、リビングの中まで戻り、リビングの中心にあったテーブルまで走り寄ると、テーブルの上に置かれていたトートバッグ(以下「本件バッグ」という。)を抱え込んだ。
Pは、甲に対し、「バッグの中のものを、テーブルの上に置け。」と申し向けた。 これに対し、甲は、「嫌だ。」と答えたので、Pは、甲に近づき、本件バッグを甲から取り上げた上で、本件バッグの中から小分けにされた覚せい剤及び甲の手書きのメモを取り出し、これを差し押さえた。

(設問)
下線部(太字)のPらの行為の適法性について論じなさい。

解答

1(1) Pらは、捜索差押許可状の呈示に先立って、ガスの点検を装って甲に扉を開けさせ甲方に踏み込んでいる(以下、この措置のことを「本件措置」という。)。このように、令状提示前に、欺罔的な手段を用いて入室することが、「必要な処分」(222条1項)として許されるのか。
(2) 「執行について」とは、執行それ自体に限らず、その前提となる執行のため不可欠な行為をも含む趣旨であるから、令状の呈示や具体的な捜索差押活動の前に行うことも可能である。もっとも、必要ならばどのような処分をもなし得るというわけではなく、捜索差押えの執行の目的を達成するため必要であり、かつ社会的にも相当と認められるものでなければならない。
そこで、「必要な処分」とは、捜索差押えの執行の目的を達するために必要かつ相当な範囲の付随処分のことをいうと解する。そして、「必要な処分」として許されるか否かは、捜査比例の原則から、制約される法と処分の必要性を比較して決すべきである。
(3) 本件のような覚せい剤事犯においては、水に流すなどの方法で短時間での罪証隠滅が極めて容易であるため、来意を告げれば、証拠隠滅行為に及ぶおそれがある。そこで、捜索差押えの執行の実効性を確保するため、本件措置のような手段による必要性がある。
一方で、本件措置が、被処分者たる甲のプライバシー等を侵害することは疑いない。もっとも、甲方という捜索場所の性質からして、基本的に甲及びその内妻である乙以外の者のプライバシーの侵害が想定されておらず、また、例えば、鍵を破壊するなどの行為と比較しても (111条1項参照)、行為態様としては相当なもので、権利侵害の程度は軽微である。
したがって、本件措置は捜索差押えの執行の目的を達するために相当な範囲に止まっているといえる。
よって、本作措置は「必要な処分」として許容される。
2(1) 次に、Pが発付を受けた本件捜索差押許可状の捜索場所は「Kハイツ201号室甲方」であり、「場所」である。では、「場所」に対す る捜索差押許可状によって、甲の携帯品たる本件バッグという「物」の捜索をすることが認められるか。
(2) 確かに、法は「場所」と「物」を捜索対象として区別している(219条1項)。
しかし、差押対象物が存在すると思われる「物」に対して1つ1つ令状をとることは煩雑にすぎ、捜査機関に不可能を強いるものである。また、法が捜索すべき場所を特定した趣旨はその場所に対するプライバシー等の権利利益を保護する点にあるところ、当該「場所」内 で管理されている「物」に関するプライバシー等の権利利益は「場所」に対するそれに包摂されているとみることができる。
以上から、当該「場所」の住居権者が管理している「物」には捜索差押許可状の効力が及ぶと解する。この理は、当該「物」をその場に居合わせた人が携帯している場合であっても変わるところがない。携帯されているかは偶然の事情にすぎないからである。
(3) 本件バッグは、甲方のリビングのテーブルに置かれていた物であるから、住居権者である甲ないし乙が管理している物であると推認される。
(4) したがって、本件バッグには本件捜索差押許可状の効力が及んでいるから、本件バッグの捜索は適法である。
また、覚せい剤及び甲の手書きのメモは、令状記載物件であり、被疑事実との関連性も認められるから、差押えも適法である(222条1項、99条1項)。
以上

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