民法第15問

2022年9月25日(日)

問題解説

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問題

1 Aはその所有する一筆の土地を甲土地と乙土地に分筆した上、甲土地をBに対して売却したが、分筆によって甲土地は公道に一切接しないこととなった。そこで、AB間で、乙土地の一部(以下「本件土地」という。)について、甲土地を要役地とする無償かつ無期限の通行地役権が設定された。もっとも、通行地役権設定登記はなされなかった。
以降、Bは、本件土地について、コンクリート舗装するなどして、甲土地のための通路として継続的に使用していた。ところが、その後、Aが、Cに対して乙土地を売却し、所有権移転登記も済ませたところ、Cは、Bが本件土地を通行することは認めないと主張し始めた。そこで、Bは、Cに対して、通行地役権を有することの確認を求めた。Bの請求は認められるか。なお、Cは、乙土地から約100メートルの距離に自宅があったものの、乙土地を購入した当時、本件土地に通行地役権が設定されていること、及びBが本件土地を通路として使用していることは知らなかった。
2 材木加工業を営むDは、2020年4月1日から、工場の隣にあるE所有の丙土地について、平穏・公然と材木置場として利用するようになり、現在も利用している。
2041年4月1日、Dのライバル業者であるFは、Dの事業を妨害する目的で、Eから丙土地を買い受け、所有権移転登記を経た。かかる事実を知ったDは、Fに対し て、丙土地について所有権確認及び所有権移転登記手続を求めた。
Dの請求は認められるか。なお、Fは、丙土地を購入した当時、Dが丙土地をいつから材木置場として利用し始めたのかを正確には把握していなかったが、少なくとも10年以上利用していることは知っていた。

解答

第1 小問1
1 Bの請求が認められるためには、有効に通行地役権が設定されており、かつ、それをCに対して対抗できる必要がある。
まず、本件で、BはAと通行地役権設定契約を締結しており、その有効性に問題があるといった事情は見当たらない。
一方、CはAから乙土地を譲り受けているから、BC間は乙土地の利用について対抗関係(177条)にある。
本件で、通行地役権設定を記はなされていないから、Cが「第三者」 に当たる場合、BはCに通行地役権を対抗できない。そこで、「第三者」の前について検討する必要がある。 2(1) 177条は物権変動を公示することにより、同一の不動産につき自由競争の枠内にある正当な権利・利益を有する第三者に不測の損害を与えないようにする趣旨の規定である。そうだとすれば、正当な権利・利益を有しない者は同条により保護する必要はない。
したがって、177条にいう「第三者」とは、登記の欠談を主張する正当な利益を有する当事者及びその包括承継人以外の者に限定して解すべきである。
(2) では、本件でCは登記の欠鉄を主張する正当な利益を有する「第三者」といえるか。 通路等を開設している場合には、通行地役権が設定されていることが明白であり、買受人は要役地の所有者に照会するなどして、地役権の有無、内容を容易に調査することができる。
そのため、このような場合には、土地の譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らないで承役地を譲り受けた場合であっても、 何らかの通行権の負担のあるものとしてこれを譲り受けたものというべきであって、譲受人が地役権者に対して地役権設定登記の欠缺を主張することは、通常は信義に反するものというべきである。
そこで、通行地役権の承役地がされた場合において、①譲渡の時に、継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、②買受人がそのことを認識していたか、又は認識することが可能であったときは、通行地役が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、譲受人は地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する「第三者」に当たらないものと解する。
3 本件でも、Cが①②の要件を満たす場合は、特段の事情がない限り、Cは「第三者」ではなく、Bは登記なくして通行地役権をCに主張することができる。
そこで、本件についてみると、①公道に一切接していないこと、コンクリート舗装されていたこと等の甲土地の位置、形状、構造等に照らせ ば、譲渡の時に、本件土地が甲土地の所有者Bによって継続的に通路として使用されていることは客観的に明らかといえる。また、②土地はCの自宅から約100メートルという至近距離にあったのだから、Bが本件土地を通路として継続的に使用していることは容易に判明したと いえ、認識することが可能であったといえる。さらに、本件では、特段の事情も見当たらない。
4 よって、Cは「第三者に当たらず、Bは登記なくして通行地役権をCに対抗できるため、Bの請求は認められる。
第2 小問2
1 Dの請求はDが所有権を取得していることを理由とするものであるから、これが認められるためには、Dが所有権を取得していなければならない。Dの所有権取得原因としては、 取得時効 (162条1項)が 考えられる。
Dは2020年4月1日から2040年4月1日まで「20年間所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有」しているか ら、時効取得の要件は満たされる。
2 もっとも、Dは丙土地について所有権移転登記手続を経ていない。
では、時効取得による所有権取得を、時効期間経過後(2041年4月1日)に譲り受けたFに対抗するには、登記が必要か。
まず、177条は、公示を徹底する観点から、全ての物権変動に妥当すると解すべきである。
そして、時効完成後に譲渡が行われた場合、占有者と譲受人は譲渡人 を起点とした二重譲酸類似の関係に立つ。また、占有者は時効完成後は登記を揃えることができるし、一方で譲受人は、可及的速やかに登記を具備すべきであるから、登記を具備していない場合は、それによる不利を甘受すべきである。 したがって、占有者と請受人は対抗関係に立ち、本件でも、DF間は、対抗関係になる。そのため、DがFに所有権取得を対抗するためには、登記が必要となるのが原則である。
なお、この場合、起算点を任意に選択することはできない。上記のような利益を行って規範を定立した意味が失われるからである。
3(1) しかし、Fは長年Dが占有していることを知り、かつDの事業を妨害する目的で譲渡を受けているから、いわゆる背信的悪意者であっ て、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」に当たらないのではないか。Fが「第三者」に当たらないとすれば、Dは所有権取得を対抗するのに登記を要しないこととなる。
(2) 背信的悪意者の要件は、「悪意性及び背信性」の2つであるが、FはDが時効取得の要件を満たすことは知らなかったのだから、悪意性の要件を満たさないとも思える。
しかし、時効取得の要件を正確に把握することは極めて困難であ る。そこで、例外的に、多年にわたって占有していることを知っている場合には1悪意性の要件を満たすとしてよい。 本件でも、Fは丙土地を多年にわたってDが占有していることを知っていたのだから、①の要件は満たす。
(3) そして、Fは、Dの事業を妨害する目的で譲渡を受けており、登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる。
したがって、②の要件も満たされる。
4 以上から、Fは第三者に該当せず、Dは登記なくしてFに丙の所有権取得を対抗できるから、Dの請求は認められる。
以上

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