憲法第15問

2022年9月28日(水)

問題解説

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問題

宗教団体Aは、新興宗教団体であり、平成××年、法人格を取得した。その後、Aの代表B及びその指示を受けたAの多数の幹部は、大量殺人を目的として毒ガスであるサリンを大量に生成することを計画した上、多数の信者を動員し、Aの物的施設を利用し、Aの資金を投入して、計画的、組織的にサリンを生成したことが明らかになった。
そこで、検察官は宗教法人法第81条第1項第1号、同項第2号前段に該当するとして、同条に基づき、管轄地方裁判所であるC地裁にAの解散請求を行った。
宗教法人法は、もっぱら宗教団体の財産の所有・維持運用や業務・事業の運営といった世俗的事項を規律するのみで、精神的・宗教的側面には一切介入しないとされる。
また、宗教法人の解散命令が確定すると、当該宗教法人は解散し、法人格が失われる。その後、清算手続が行われ、当該宗教法人に帰属する財産で信者が宗教上の行為の用に供していたものであっても処分の対象となる。 C地裁が解散命令を下す場合の憲法上の問題点について論ぜよ。
【資料】宗教法人法(昭和26年4月3日法律第126号)(抜粋) (解散命令) 第81条 裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。 一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこ
と。 二 第2条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は1年以上にわたつてその目的のための行為をしないこと。三~五 (略) 2~7 (略)

解答

第1 法令違意について
1 まず、宗教法人法(以下「法」という。)81条1項1号及び同項2号前段が定める解散命令制度そのものの合憲性について検討する。
2 解散命令は宗教団体それ自体の解散を命ずるものではなく、宗教団体としての存在に法的効果を及ぼすものではない。そうだとすれば、信者が当該団体を法人格を有しない団体として存続させ、あるいは新たに結成することが法的に禁じられるわけではないので、信教の自由(20条1項)として保障される宗教的結社の自由を制約するとはいえない。
一方で、宗教法人の解散命令が確定すると、当該宗教法人は解散し、法人格が失われるだけでなく、清算手続が行われ、当該宗教法人に帰属する財産で信者が宗教上の行為の用に供していたものであっても処分の対象となる。そうすると、Aの信者が、これらの財産を用いて行っていた宗教上の儀式や布教宣伝等の宗教上の行為を継続するのに何らかの支障を生ずることがあり得る。その意味で、信教の自由として保障される(積極的)宗教的行為の自由を実質的に制約するものであるといえる。
なお、解散命令の名宛人は宗教法人Aであるが、Aはその信者の信教の自由を代表するものと解されるから、Aはこれを主張することができる。
3 もっとも、内心における信仰の自由の保障は絶対的であるが、信仰が、内心の領域にとどまらず、宗教的行為という外的行為の領域に及ぶときは、その行為が「公共の福祉」により、制約を受けることは、憲法の容認するところである(12条、13条)。
では、解散命令制度は、信教の自由に対する「公共の福祉」による制約として許されるのか。
信教の自由は、戦前において神道が国家的宗教とされ、軍国主義の精神的支柱となった裏で他の宗教は冷遇された歴史的経緯をふまえ、特に明文で保障された重要な権利である。また、信教の自由は精神的自由権の核心をなすものである。
したがって、その規制は、そのような信教の自由の重要性に鑑み、最小限のものでなければならない。
具体的には、当該法的規制によって達成しようとする目的の必要性・ 合理性と当該法的規制によって宗教上の行為に生ずる支障の程度との比較衡量、より制限的でない他の選び得る手段の有無、規制手続の適正の確保等を慎重に吟味しなければならない。
4 宗教法人の解散命令の制度は、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切あるいは不必要となるところから、司法手続によって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わしめることが可能となるようにしたものである。これは、専ら世俗的目的によるものであって、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容かいする意図によるものではなく、その制度の目的も合理的である。
また、上記のように、解散命令の結果その財産が清算されることによって信者の宗教上の行為に支障が生じることはあり得るが、それは物理的な支障であって、人間の内面の問題である信仰に対し、直接の効果を及ぼすものでも法的効果を及ぼすものでもない。その意味で、その支障は、間接的で事実上のものであるにすぎない。
さらに、解散命令は、裁判所の司法審査によって発せられたものであるから、その手続の適正も担保されている。
以上の事実からすれば、解散命令制度そのものが、20条1項が定める信教の自由の保障に反し、違憲であるとはいえない。
第2 適用違憲について
1 解散命令自体が合憲であるとしても、Aに対して解散命令を下すことがAの信者の信教の自由を侵害しないかは、上記観点から慎重に吟味しなければならない。
2 まず、Aの代表B及びその指示を受けたAの多数の幹部は、大量殺人を目的として毒ガスであるサリンを大量に生成することを計画した上、多数の信者を動員し、Aの物的施設を利用し、Aの資金を投入して、計画的、組織的にサリンを生成したことが明らかになっている。そうだとすれば、Aが「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」、「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」は認められるといえるから、法81条1項1号及び同項2号前段に該当するといえる。
また、上記のように、解散命令によって宗教団体であるAやその信者らが行う宗教上の行為への支障は、間接的で事実上のものにとどまる。
したがって、Aに対する解散命令は、Aやその信者らの精神的・宗教的側面に及ぼす影響を考慮しても、必要でやむを得ない法的規制である。
さらに、上記のように、解散命令には手術の適正も担保されている。
3 以上のような事実からすれば、Aに対する解散命令は、Aの信者の信教の自由を侵害するものではない。したがって、C地裁は、Aに対して解散命令を下すことができる。
以上

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