行政法第15問
2022年9月29日(木)
問題解説
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問題
Y市では、良好なまちづくりの観点から、一定規模以上の中高層建築物を建築する際市と事前協議をし、一定の緑地を残すことなどを内容とする建築指導要綱(以下、「要綱」という。)を定めていた。この要綱は、行政指導を成文化して定めたものだが、第8条には,「この要綱に従わない事業主に対しては、市は上下水道等の協力を行わないことがある。」と規定されている。
不動産業者XはY市内の土地を購入し、10階建マンションの建築を計画した。近隣住民はこれに反対しY市に反対の陳情を行っていた。Xは、Y市の担当者から要綱に従うよう求められたが、当初からこれを拒否し建築工事を強行した。その後、Xが水道を引くために給水の申込みを行ったところ、当地域の水道事業者でもあるY市は、Xが要綱に従わないことを理由に、これを拒絶した。Y市のこのような給水拒否は適法であるかを論ぜよ。
※Y市には、国の行政手続法と同じ内容のY市行政手続条例があると仮定して答えよ。
【参照条文】○水道法(抜粋)
(この法律の目的) 第1条 この法律は、水道の布設及び管理を適正かつ合理的ならしめるとともに、水道を計画的に整備し、及び水道事業を保護育成することによって、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする。
(給水義務) 第15条 水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。2.3 (略)
(上智大学法科大学院 平成19年度公法第2問改題)
解答
第1 要綱を根拠とする給水拒否の適法性
1 本問において、当該地域の水道事業者であるY市はXが要細に従わないことを理由として給水拒否を行っているが、まず初に法規性があることを根態としていることが考えられる。
もっとも、要綱は、行政組織内部において定められる行政指導に関する基準であって、外部に対して法的効果や拘束力を持つものではないから、法規ではない。
2 本問においても、細を根拠とする給水拒否は認められない。
第2「正当の理由」があることを根裏とする給水拒否の適法性
そうすると、Y市の給水拒否を正当化するには、「正当の理由」(水道法15条1項)が認められなければならない。
2 「正当の理由」とは、基本的に水道法固有の法の目的(同法1条)から判断されるべきであるから、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒まざるを得ない理由を指すと解すべきである。
その意味で、要綱違反そのものが「正当の理由」に当たることはない。
ただし、給水が中込者の公序良俗違反行為を助長し、又は申込みが権利濫用と評価できるような場合には、建築主が受ける不利益と公益上の必要性とを比較衡量して給水契約を拒否すべきであるから、例外的に「正当の理由」が認められると解すべきである。
3 本問では、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒まざるを得ない理由は認められない。
したがって、原則として「正当の理由」は認められない。一方で、Xは当初から要綱に従う意思がないことを表明しているか ら、具体的な事情によっては、給水が申込者の公序良俗違反行為を助長し、又は申込みが権利濫用と評価される可能性がある。
このような場合は、「正当の理由」が認められ、給水契約の拒否は適法になる。
以上