商法第21問
2022年11月5日(土)
問題解説
問題
株主総会について,次の各問に答えなさい。
1 会社の最高意思決定機関であるはずの株主総会の決議事項が、取締役会設置会社においては,法令・定款で定めた事項に限られる理由を説明しなさい。
2 甲株式会社では、定款で議決権を行使する代理人の資格を株主に限る旨を規定している。甲会社の株主であるこ株式会社は、乙会社の総務課長Xを甲会社の株主総会に出席させ,議決権を行使させた。ただし、Xは甲会社の株主ではない。
(1) 株主が代理人によって議決権を行使できるとされているのはなぜかについて説明しなさい。
(2) 甲会社の本件株主総会決議の効力について検討しなさい。
(慶應義塾大学法科大学院平成21年度)
解答
第1問 1について
1 最高意思決定機関としての株主総会
(1) 株式会社においては、株主が実質的な所有者であるから、会社の組織運営、管理等株式会社に関する一切の事項は、本来、実質的所有者によって構成される株主総会によって決定できるはずである。会社法(以下、法令名省略。)295条1項も、この原則を明示している。
(2) しかし、多数かつ不特定の社員によって構成される株式会社においては、株主には必ずしも経営能力や関心があるとは限らず、頻繁に株主総会を開催して決定するのは煩雑であるばかりでなく、経営の機動性を損ない、結局株主の利益を図れない事態となる。
(3) そこで、法は取締役会を設置することができるものとし(326条2項)、取締役会設置会社においては、業務執行に関する広範な権限を取締役会が有するものとした(295条2項、362条2項)。
2 取締役会設置会社における株主総会の権限
(1) 取締役会設置会社においては、株主総会は、会社法で定められた事項及び定款で定めた事項に限って決議をすることができる(295条2項)
(2) この規定の根拠は、経営を合理化すべきであり、かつ、それを株主が望んでいる点に求められる。
すなわち、株式会社における実質的所有者は株主であるが、株主は必ずしも経営判断能力に長けているわけではない。そこで、法は、経営を合理化すべく株式会社においては、会社の所有と経営を分離し、(331条2項本文)、経営はその専門家たる取締役に任せることとしている(326条1項)。また、そうすることが、株主の合理的意思にも合致すると考えられる。
そして、株式会社の中でも、取締役会設置会社はある程度規模の大きい会社が想定され、特に経営を合理化する必要性が高い。また、あえて取締役会という会議体を設置するということは、経営の合理化に対する株主の関心が高いことを意味していると考えられる。
そこで、法はかかる株主の合理的意思を取り込んで295条2項を定めたといえる。
第2 設問2について
1 小問1について
(1) 株式会社の実質的所有者である株主にとって、会社経営に参画する唯一の機会が株主総会である。また、設問1で述べたように、取締役会設置会社においては、株主総会の決議事項が縮小され、定款に別段の定めがない限り法定の重要事項に限定されていることから、総会参加権を十分保障する必要がある。
特に、ある株主が複数の会社の株主となっている場合、株主総会の期日が重なったり、あるいは遠隔地に居住しているため、現実に株主総会へと出席することが困難な場合もある。
このような事情を踏まえると、議決権の行使機会の確保の要請が強いといえる。
(2) 他方で、議決権は一身専属権ではなく、代理になじむものであるからこれを認めても問題はない。
(3) このような理由から、議決権の代理行使が認められている(310条)
2 小問2について
(1) Xは株主ではないから、議決権を行使する代理人の資格を株主に限っている定款に違反することとなる(831条1項1号、「決議の 「方法」の「定款」「違反」)。
(2) しかし、そもそもこのような定款が有効なのか、すなわち、310条に違反し無効なのではないかという点が問題となる。確かに、310条はこうした規定を許容するかどうかを明らかにしていない。
しかし、このような定めは我が国多年の慣行であるし、これによって総会屋などの第三者が総会を撹乱するという弊害を回避することができるというメリットを無視することはできない。
そこで、こうした定款規定も合理的理由に基づく相当程度の制限として一般的には有効としつつ、個別の場合において、会社利益が害されるおそれがなく、議決権の代理行使の必要性が認められる場合には、定款規定の適用が排除され、代理行使が認められると解する。
(3) 本問では、乙会社は、乙会社の総務課長Xを代理人としている。法人株主の場合、本来代表取締役が議決権を行使すべきものである。しかし、常に代表取締役が議決権行使をしなければならないというのは、非現実的であるし、総務課長などの使用人は会社組織に組み込まれており、上部からの指揮命令系統に服しているのであるから、会社の代理人に対するコントロールも十分働いている。
したがって、本問事案は、会社利益が害されるおそれがなく、議決権の代理行使の必要性が認められる場合に当たるといえ、定款規定の適用が排除されるものと解する。
以上から、本件の決議はなく成立しているものと認められるから、有効な決議である。
以上