行政法第5問

2022年7月21日(木)

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問題

Xは、商品名を「ホワイト六折スケール」と称する合成樹脂製6つ折函数尺(以下「本件函数尺」という。)を製造販売していたところ、担当大臣Yは、本件函数尺を販売及び販売のために所持することは非法定計量単位の使用を禁止した計量法に違反するものであることを明示し、知事に対しその趣旨に沿って本件函数尺に関する事務を処理するよう指示する内容の通達(以下「本件通達」という。)を発した。そのため、A県計量検定所長は、本件通達の趣旨に基づき、Xに対し本件函数尺の製造中止の勧告をした。
Xは、本件通達及びこれに基づく勧告は計量法に反するものであると考えていたため、これに従わなかったが、本件通達を受けて、多くの販売業者が本件函数尺の買入れを解約した。
なお、計量に関する事務は極めて専門技術的要素が多く、現実の行政事務は通達によって運営、執行されているため、計量器製造業者及びその販売業者らは、これに多大の関心を示し、発せられた通達に従うのが実情である。また、計量法では、登録した販売業者に対しては業者登録の取消し、事業停止といった処分が規定されている一方、登録していない製造業者(Xもこれに当たる。)に対しては、これらの処分は規定されていない。
以上の事実を前提として、Xは、本件通達の取消訴訟を提起することができるかについて、論じなさい。

解答

1 本件通達の取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)の提起が認められるためには、本件通達が「処分」(同項)といえなければならない。
取消訴訟は行政行為の公定力を排除するための訴訟類型であるから、「処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち(公権力性)その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているもの(直接具体的法効果性)であるのが原則である。
しかし、今日における行政主体と国民との関わり合いは従来想定されていた単純なものにとどまらない。
そこで、上記基準を基本としつつも、立法者意思、紛争の成熟性、国民の実効的権利救済などの様々な観点を考慮に入れて、「処分」といえるかを判定すべきであると考える。
2(1) 本件通達は担当大臣Yが計量法を根拠として、優越的地位に基づいて一方的に発出したものであり、 公権力性は認められる。
(2) しかし、一般的に通達は、行政内部の命令にすぎず、法規たる性質は有しないから、国民の法的地位に影響を与えるものではない。
そのため、直接具体的法効果性がなく、処分性は認められないのが原則である。
もっとも、①通達の存在が国民の具体的な権利義務ないしは法律上の利益に重大な関わり合いを持ち、②その影響が行政組織の外部にも及び国民の具体的な権利義務ないしは法律上の利益に変動をきたす、③通達そのものを争わなければ国民の権利が事実上不可能となるような場合には、通達の存在が直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定しているといえる。
したがって、この場合には、直接具体的法効果性が認められ、例外的に処分性が認められると解する。
3(1) 本件では、①計量に関する事務の専門技術的要素の多さから、現実の行政事務が通達によって運営、執行されており、関係業者らは、通達に多大の関心を示し、発せられた通達に従っているのである。現に本件通達についても、これを受けて多くの販売業者が本件数の買入れを解約しているのであり、本件通達の存在が国民の具体的な権利義務にないしは法律上の利益に重大な関わり合いを持っているといえる。
(2) また、②このような事情からすれば、本件通達の影響は多くの関係 業者など外部にも及んでおり、 国民の具体的な権利義務ないしは法律上の利益に変動をきたしているといえる。
(3) そして、③本件通達に従わなかった場合、 販売業者に対しては業者登録の取消し、事業停止といった後続処分が予定されているから、後処分の取消訴訟の中で本件通達の違法を争うことが可能である。一方、Xを含む製造業者に対しては、同様の処分が規定されておらず後続処分の取消訴訟の中でこれを争うことができない。にもかかわらず、後続処分をおそれた販売業者から、本件函数尺の買入れの解約を受けるという不利益を受けることになるのであり、Xの権利を救済するには、 本件通達自体を争うほかない。
そのため、本件通達そのものを争わなければ、国民の権利救済が事実上不可能である場合といえる。
(4) したがって、本件通達は 「処分」といえる。
4 以上より、その他の訴訟要件を満たせば、Xは本件通達の取消訴訟を提起することができる。
以上

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