商法第28問

2022年12月23日(金)

問題解説

問題

株式会社甲(以下「甲社」という。)は、家具の販売を事業として行う会社法上の公開会社であり、監査役設置会社である。甲社は、取締役としてA、B、C、D及びEを選任しており、代表取締役としてAを選定し、監査役としてFを選任していた。
甲社は、良質な家具を販売していたが、近年、若者向けのおしゃれな家具店や、安価な家具店が増えてきたことから、甲社の経営は伸び悩んでいた。しかも、そのような家具店はテレビの宣伝なども用いて業績を伸ばしていた。このような状況で、甲社内部でも今後の経営方針をめぐり、A、BとD、Eとの間に深刻な対立が生じていた。唯一Cが中立的であったものの、もはや議論を通して対立が解消される見込みはなかった。
DとEは、このような状態では甲社の経営が改善できないと判断し、Dにおいて業務執行をしていくため、Aを代表取締役から解職し、Dを選定すべく取締役会を開催することにした。その際、招集通知はB、C、D、E及びFに発せられ、Aには発せられな かった。そして、開催された取締役会では、B、C、D、E及びFが出席し、Aの代表取締役解職決議及びDの同選定決議は、いずれもC、D及びEの賛成により可決された。
以上の事案において、Aの解職決議及びDの選定決議の有効性について論じなさい。

解答

1 問題の所在
本問では、形式的には、取締役5名のうち4名が出席し、そのうち3名の賛成によってAの代表取締役解職及びDの同選定が決議されており、要件を満たしている(369条1項、以下、それぞれ「解職決議」「選定決議」という)。
もっとも、①Aに対する招集通知(368条1項)漏れがある。また。②Dを候補者とする選定決議にD自身が参加している。これらの事由によって決議の有効性に影響が生じないか。
2 ①について
取締役に対しては招集通知を発しなければならないところ、Aは、甲社の(代表)取締役であるから、招集通知を発しなければ違法となるのが原則である。
もっとも、Aは、解職の対象となる現代表取締役であり、解職決議との関係では、特別利害関係取締役である(369条2項)。特別利害関係取締役とは、取締役の忠実義務違反をもたらすおそれのある会社の利益と衝突する取締役の個人的利害関係を有する者をいうところ、解職の対象となる現代表取締役には、会社の利益のための議決権行使が期待できず、会社の利益と衝突する個人的な利害関係を有し、忠実義務違反のおそれがあるといえるからである。
そうすると、Aは、「議決に加わることができない」(369条2 項)のだから、招集通知を発する必要はないようにも思われる。
しかし、取締役会の審議事項は、 通知の内容にかかわらず追加することが可能なのだから、ある決議事項について特別利害関係を有する取締役に対しても招集通知を発しなければならないと解すべきである。
したがって、選定決議については当然のこと、解職決議についてもAに対して招集通知を発しなければ違法である。①は解職決議及び選定決議の瑕疵となる。
3 ②について
代表取締役の選任決議において、候補者は特別利害関係取締役に当たらないと解すべきである。自己が代表取締役として適任であるという判断については会社の利益と衝突するとはいえないからである。
したがって、候補者であるDが選定決議に参加したことにより、瑕疵 が生ずることはない。②は選定決議の瑕疵とならない。
4 解決議及び選定決議の効力
(1) では、①の瑕疵によって、両決議は無効となるか。
株主総会決議の瑕疵と異なり(830条、831条参照)取締役会決議について法が特別の定めを設けていないのは、取締役会に法・定款違反があった場合には、一律に無効とする趣旨である。しかし、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべ 特段の事情があるときは、決議を無効としてやり直しを求めるべきではないから、決議は有効になると解する。
本問では、解職決議及び選定決議のいずれについても、甲社の取締役4名中3名の賛成をもって決議されている。そうだとすれば、仮に Aが決議に参加したとしても、表決の結果には影響を及ぼさないといえる(なお、上記のように、そもそも解職決議にはAは参加することができない。)。
しかし、表決の結果だけに着目してしまうと、少数派の取締役に対する招集通知を怠っても取締役会決議の効力が左右されないものとされ、取締役会という合議体を設けた趣旨が没却されるから、解職決議と選定決議に分けて、個別具体的に検討すべきである。
(2) そこで、まず、解職決議について検討すると、特別利害関係取締役であるAは、議決に加わることができず(369条2項)、定足数にも算入されない(同条1項)。のみならず、審議と採決とを明確に区分することは通常困難であることからすれば、取締役会の構成員として審議に参加して意見を述べる権限も有していないと解するべきであ る。そのため、Aは、議決に対して、何らの影響力も与えることができない。
したがって、Aが出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があり、解職決議は有効である。
(3) 一方で、選定決議については、Aは、議決に加わることができるのだから、発言によって影響力を与えることができる。そうだとすれ ば、Aが出席してもなお決議の結果に影響がないとはいえない。
したがって、特段の事情はなく、選定決議は無効である。
以上

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