障害者による芥川賞受賞

難病と闘いながら芥川賞受賞の市川沙央さん、受賞会見で「芥川賞を目指していなかったので驚いています」

配信 2023年7月19日 19:52更新 2023年7月19日 19:54

「ハンチバック」で第169回芥川賞に輝いた市川沙央さん(43)さんが19日、東京・内幸町の帝国ホテルで行われた受賞会見に登場した。

 市川さんは1979生まれ。早大人間科学部(通信教育課程)を卒業後、本作でデビューし、第128回文學界新人賞を受賞。デビュー作でのノミネートだった。

 筋疾患先天性ミオパチーという難病により、人工呼吸器を使用。発話に大変な体力を使い、リスクもある市川さんは車イスに乗って、オレンジの鮮やかなドレスで登壇。

 「私は強く訴えたいことがあって、去年の夏に初めて純文学を書きました。こうして、芥川賞の会見の場にお導きいただいたことを非常にうれしく感じています。我に天命ありと思っています」とまず話した。

 選考委員の高い評価に「そう読んでいただけて、とてもうれしいです。非常に自信になります」と話すと、「(小説を書き始めての)この20年間、芥川賞を目指していなかったので驚いています」と率直に続けた。

 重い障害を抱える登場人物が出てくる自作で話題となっている「当事者性」については「それを問題視して、この小説を書きました。(障害を抱えた)当事者(による)受賞が2023年にもなって、なぜ初めてなのかを、みんなに考えてもらいたいと思っています」と話した。

 「いろんなものをいろんな視点でいろんな形で書いてみたいと思います」と今後について語った市川さん。オファーされる受賞エッセイについて「私はエッセイが苦手でこれから大変だなと思ってます」と取材陣を笑わせた。

 最後に「ちょっと生意気なことを言いますが、障害者対応に早く取り組んでいただきたいと思います」と訴えて、大きな拍手を浴びていた。

 選考委員を代表して会見した平野啓一郎氏は「最初の投票で市川さんに決まりました。否定的な意見はなかった。作品としての強さがありました」と明かし、「作者の置かれている状況と作品の世界、社会の問題が非常に高いレベルでバランスが取れていた。困難な状況にある人が必ずしも文才に恵まれているわけではないが、市川さんは困難な状況の中で非常に強度の高い批評性を持っている。文学的な才能で希有な作品を生み出したと思います」と評価した。(中村 健吾)

 ◆「ハンチバック」

主人公は親が遺したグループホームで裕福に暮らす重度障害者の井沢釈華。Webライター・Buddhaとして風俗体験記を書いては、その収益を恵まれない家庭へ寄付。ツイッターの裏アカでは「普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢」と吐き出している。ある日、ヘルパーの田中に裏アカを特定された釈華は1億5500万円で彼との性交によって妊娠する契約を結ぶ…。