民事訴訟法第2問

問題

XがYに対して貸金返還請求訴訟を提起した事例を前提に、以下の問題に答えなさい。
第1問
 Xが訴状を裁判所に提出し、裁判所で受理されたが、この時点ではすでにYは死亡していた。しかし、訴状および第一回口頭弁論期日呼出状は、Yの唯一の相続人であるZが受領したうえで、口頭弁論にもZがそのまま出席し、訴訟行為を行った。ところが、被告の当事者尋問をしようとしたところ、Y本人でないことが判明した。この場合、裁判所はこの訴えをどのように処理すべきか。
第2問
 前問とは異なり、訴状等の送達を受けたYは、甲弁護士にこの事件の処理を委任し、応訴した。ところが、Yは、第三回口頭弁論期日の直後に死亡した。
⑴ 第四回口頭弁論期日において、甲弁護士がY死亡の事実を述べたため、裁判所にもこの事実が明らかとなった。本件訴訟手続の進行はどのようになるか。また当事者は訴訟上どのような手続をとる必要があるか。
⑵ 甲弁護士が、Y死亡後もその事実を裁判所及びXに知らせなかったため、裁判所は、Y死亡の事実を知ることなく、被告をYとしてままXの本訴請求を全部認容する旨の判決をした。上記判決確定後、Yの相続人ZがXに対し、亡YのXに対する本件貸金返還債務が不存在であることを主張し、貸金債務不存在確認の訴えを提起した。この場合、裁判所はこの訴えをどのように処理すべきか。
(慶應義塾大学法科大学院 平成19年度)

解答 2022年6月30日(木)

第1 第1問について
1 本問では、Xが訴状を提出した時点で被告として記載されているYは既に死亡しており、一方でYの相続人Zが応訴している。よって、裁判所が本件訴えを処理するにあたり、訴訟当事者は誰であるか問題となる。
2 この点、当事者は訴状の送達(138条)、人的裁判権(4条)、除斥原因(23条)等の基準となり、裁判所が訴状を受領した時点で確定される必要があるため、訴状受領時点における当事者欄の表示及び請求の趣旨、原因の記載などの訴状の記載(133条2項)を合理的に解釈して決定すべきと解する(表示説)。
3 本件についてみるに、訴状の記載は被告Yとなっていること、及び請求原因事実もYを被告とする旨原告の合理的意思を読み取ることができることから、被告はYといえる。そして、被告Yが死亡したのは訴訟係属が生じる前であるから、訴訟の承継(124条)はなく、被告がそもそも存在しない場合として訴えは却下されるのが原則である。
4 しかしながら、かかる処理はここまで行った訴訟行為を全て無に帰するものとなり、訴訟経済上問題であり、加えて紛争の最終的解決にもつながらない。そこで、任意の当事者変更により相続人を当事者とすることが考えられる。
5 この点、任意の当事者変更とは、その要素を新訴の提起(133条1項)と旧訴の取下げ(261条)に分け、双方の訴訟の分断をできるだけ防ぐように運用すべきと解する。よって、本件のように新当事者が旧訴に関与していた場合に、その部分の訴訟行為については新訴において追認を拒絶できないものと解する(民法2条、信義則)。
6 以上より、裁判所は、旧訴取下げと新訴提起を行うことにより、YからZへの被告の任意的当事者変更を促すよう、釈明すべきである(149条)。
第2 第2問について
1 小問⑴
⑴ 本件は、訴訟の係属中に被告Yが死亡しており、訴訟手続は中断するのが原則である(124条1項1号)。しかし、Yには訴訟代理人甲が存在し、訴訟代理権は当事者の死亡によっては消滅せず(58条1項)、訴訟手続は中断しない(124条2項)。
⑵ そして、当事者が死亡した場合には承継が生じ、Yが死亡した時点でZが訴訟当事者となる。そして訴訟代理人甲は中断事由の発生を裁判所に届け出る必要があり(民事訴訟規則52条)、当事者は当事者の表示を改める申出をする必要がある。
2 小問⑵
⑴ 本件は、訴訟要件に特に問題なく本案審理に入ることができる。もっとも、訴訟係属後、被告Yが死亡しており、これを訴訟代理人甲が裁判所に知らせないまま、Xの請求を全部認容した判決が確定している。なお、同判決では、被告は死亡したYと記載されているものの、裁判所はYの死亡を知らなかったのであり、その部分につき判決の更正(257条)をすれば足りる。
⑵ そうすると、当然承継人であるZは訴訟当事者であるから、本確定判決の効力は当然Zにも及ぶ(114条1項、115条、既判力)。よってZは、前訴判決の既判力に矛盾する主張をすることはできない。XY間においては、前訴口頭弁論終結時において、貸金返還請求権の存在が既判力をもって確定しており、この既判力はZにも及ぶものであるから、後訴においてZはこの既判力に矛盾する主張をすることができない。
⑶ この点、Zの手続的保障に鑑み、前訴における訴訟行為の追完(97条)を認めてZの控訴を認めることが考えられる。しかしながら、訴訟代理人がいる場合に訴訟行為は中断しないこととした法の趣旨(58条1項)は、専門性に長けた弁護士等の訴訟代理人の権限を広く認め、実質的な紛争解決に資することを目的としている。よって、本件については、単にY死亡の事実を知らせなかった訴訟代理人たる弁護士甲の責めに帰するものといえ、そのような訴訟代理人を選任し訴訟を追行したY及びその承継人たるZについて、責めに帰することができない事由(97条1項)の存在を認めることはできない。したがって、訴訟行為の追完はできないと解する。
以上
1,648文字(用紙スペースは最大22字×33行×4枚=2,904文字)

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