憲法第2問

問題

 B国籍の特別永住者であるXは、保健師として、Y県に採用された。その後、Xは、課長級の管理職選考試験の受験をしようとしたが、Y県は、日本国籍であるという受験資格がないことを理由として、これを拒否した。
 Y県における課長級の管理職では、Y県知事の権限に属する事務に係る事案の決定権限を有する職員のほか、直接には事案の決定権限を有しないが、事案の決定過程には関与する職員があり、さらに、企画や専門分野の研究を行うなどの職務を行い、事案の決定権限を有せず、事案の決定にかかわる蓋然性も少ない管理職も若干存在していた。そして、Y県では、管理職に昇任した職員に終始特定の職種の職務内容だけを担当させるという任用管理は行われておらず、例えば、医化学の分野で管理職選考に合格した職員であっても、管理職に任用されると、その職員は、その後の昇任に伴い、そのまま従来の医化学の分野にだけ従事するものとは限らず、担当がその他の分野の仕事に及ぶことがあり、いずれの分野においても管理的な職務に就くことがあることとされていた。
 以上の事案において、Xがいかなる主張をすることが考えられるかを述べ、Y県側の反論のポイントを明らかにした上で、あなたの考えを述べなさい。なお、解答中、上記職務のうち、管理的な職務を担当する公務員を「公権力行使等地方公務員」としてよい。

解答 2022年7月1日(金)

第1 Xの主張
1 Xは、Y県の管理職選考試験において、外国人であることを理由に受験を拒否されている。日本国籍であることを管理職たる課長級への登用試験の受験要件としている本件制度は、日本国籍を持たない外国人であるXが管理職に就任することができる権利を奪い、平等権(14条1項)及び職業選択の自由(22条1項)に反しないか問題となる。
2 この点、憲法諸規定による基本的人権の保障(第3章)は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及び、平等権(14条1項)並びに職業選択の自由(22条1項)の保障も、国民主権の原理(前文、1条、15条1条)に反しない限度において、外国人にも及ぶと解する。そして、管理職への職員への昇任は、人事制度の中でも中核部分をなすものであって、人格的生存に不可欠な個人の尊厳に関わる重要な事案である(13条)。特にXのような特別永住者については、その歴史的背景に鑑み、特別な配慮を要する。したがって、特別永住者が公権力行使等地方公務員となることを制限することは格別、それ以外の公務員になることを制限するためには、厳格な合理性の基準、具体的には、制限の目的が重要で、かつ目的と手段たる制限の間に実質的な関連性を要すると解する。本件制度の目的は、国民主権原理の下、昇任ないし人事管理政策を適切に実施することにあり、地方公共団体の自治事務の適正な処理執行の観点から一定の合理性が認められる。しかしながら、本件制度は、一律に管理職試験への登用を禁じており、特別永住者に対し法の下の平等及び職業選択の自由を一律に制限している。管理職であっても、公権力行使等地方公務員以外の職種が含まれており、国民主権原理の観点からも任用を認めても問題はない。よって、かかる公権力行使等地方公務員以外の職種についても、一律に管理職たる課長職への登用試験を認めず、一律に日本国籍要件を課す本件制度は、手段たる制限の間に実質的な関連性を有しない過剰なものといえる。
3 以上より、本件制度は、法の下の平等(14条1項)及び職業選択の自由(22条1項)に反し違憲である。
第2 Y県側の反論と自分の意見
1 Y県側は、まず本件制度は地方公共団体内部における管理職たる課長級への登用試験についての実際上の運用に過ぎず、そもそも外国人の公務就任権を制限するものではないため、法の下の平等(14条1項)及び職業選択の自由(22条1項)の問題ではない。また、特別永住者であっても、特別な法の定めがない限り、一般の在留外国人と別異に取り扱うことに合理的な理由を見出すことはできず、むしろ法の下の平等(14条1項)に反すると反論する。そして、管理職への昇任試験に国籍要件を課している本件制度は合理性を有し、そもそもXの公務就任時にも開示されていたものであり問題はないと主張する。
2 以上のXとY県の対立点について、自分の見解を述べる。まず、本件は、外国人が新規に地方公務員として就任しようとする場合ではなく、既に職員として採用され勤務してきた外国人が管理職への昇任の機会を求めるものであり、外国人の公務就任の問題であるとはいえない。そして、法律の根拠なく、人事制度においてあくまで外国人である特別永住者を、他の在留外国人と別異に取り扱うべきではなく、かえって、法の下の平等(14条1項)に反し、人事制度の根幹を揺るがす不測の事態を招く恐れもある。
3 そこで、本件制度については、既に地方公共団体の職員として採用された者が管理職に昇任するについて日本の国籍を要するとした地方公共団体の措置の当否であり、外国人であることを理由とした管理職選考試験の受験拒否の合理性が問題となる。この点、法の下の平等(14条1項)は、一切の差別的取扱いを禁じたものではなく、それが事案の性質に応じた合理的な根拠に基づくものであれば、同項に反しないというべきである。そして、公権力行使等地方公務員には、国民主権の原理に照らし、原則として日本の国籍を有する者が就任することが想定されているとみるべきであって、外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは、本来国民主権の原理から許されるものではない(前文、1条、15条1項)。よって、普通地方公共団体が、公務員制度を構築するにあたり、公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも、その判断により行うことができるものというべきである。よって、普通地方公共団体が上記の管理職の任用制度を構築した上で、日本国民である職員に限り管理職に昇任できることができる措置を取ることは、合理的な理由に基づく区別であり、法の下の平等(14条1項)に反しない。
4 Y県においては、管理職に昇任した職員に終始特定の職種の職務内容だけを担当させるという任用管理を行っておらず、管理職に昇任すれば、いずれは公権力行使等地方公務員に就任する可能性が想定されていた。そしてY県は公権力行使等地方公務員の職に当たる管理職のほか、これに関連する包含する一体的な管理職の任用制度を設け運用している。したがって、Y県において、管理職の任用制度を適正に運営するために必要があると判断し、職員が管理職に昇任するための選考試験の受験資格として、当該職員が日本国籍を有する旨定めた本件制度は、合理的な理由に基づいて日本国籍を有する職員とそれ以外の職員を区別するものであり、法の下の平等(14条1項)及び職業選択の自由(22条1項)に反しない。
以上

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