民法第3問

問題

(1) Aは、複数の債権者に対して多額の債務を負っていたが、その所有する甲土地を差し押さえられることを避けるため、知人Bと相談の上、実際には売買の事実はないにもかかわらず、甲土地をBに対して売却したように装い、甲土地の登記名義をBに移転した。ところが、資金繰りに窮したBがこの状況を奇貨として、甲土地をCに対し、引き渡した。なお、現在、甲土地の登記名義はCのままになっている。
 以上の事実関係を前提に、①CはAB間の事情について知っていたが、Dは知らなかった場合、及び②CはAB間の事情について知らなかったが、Dは知っていた場合のそれぞれについて、AD間の法律関係について、論じなさい。
(2) Eは、その所有する乙土地について、固定資産税の負担を回避するため、知人Fと相談の上、乙土地をFに対して売却したように装い、乙土地の登記名義をFに移転した。ところが、FはEF間の事情を知らないGから、乙土地を購入したい旨の申し出を受けたため、Gに対して、乙土地を売却してしまった。ただし、所有権の移転登記は行われず、登記名義はFのままであった。
 他方、Eは、上記売買後も乙土地の使用を継続していたが、それを見たHから、乙土地を譲ってくれないかとの申し出を受けた。Eは、登記名義こそFに移転したものの、乙土地の真の権利者は自分であるから問題ないと考え、Hに対して、乙土地を売却し、これを引き渡した。
 GH間の法律関係について、論じなさい。

解答 2022年7月5日(火)

第1 小問(1)①の場合
1 Aは甲土地を占有するDに対し、所有権に基づき甲土地の明渡しを請求する。これが認められるためには、Aに甲土地の所有権が認められる必要がある。Aは、Bに対し、甲土地を売却する意思表示をしているが、これはABで示し合わせて売却したように仮装されたもので、通謀虚偽表示にあたり無効である(94条1項)。よって、いまだAに甲土地の所有権が認められるのが原則である。
2 一方、Dはかかる通謀虚偽表示の外観を信じて取引に入った第三者(94条2項)に当たるので、この通謀虚偽表示の無効を対抗することができないと主張する。
3 そこで、Dが第三者に当たるか問題となる。この点、通謀虚偽表示の趣旨は、虚偽の外観を信じた第三者を保護する点にあるため、第三者とはその信頼が真に保護に値する者とすべきである。具体的には、通謀虚偽表示を作出した当事者及びその包括承継人以外の者で、行為の外形を信頼して新たに独立の法的利害関係に入った者であると解する。そして、本件の転得者についても、その保護の必要性から第三者にあたるのが原則と解する。Dは、AB及びその包括承継人ではなく、また、B及びC名義の虚偽の登記を信頼して、新たに独立の法律関係に入った者であるから、第三者に当たる。
4 続いて、通謀虚偽表示を信じて取引に入った善意の第三者にあたるか検討する。この点、善意とは条文上善意としかなく、また通謀虚偽表示をした本人と虚偽の外観を信じて取引に入った第三者との利益衡量を踏まえれば、重過失は悪意と同視され別段の考慮が必要となるが、重過失がなければ善意の第三者として保護されると解する。本件では、DはAB間の通謀虚偽の状況を重過失なく知らないと言えるため、善意の第三者として保護される。
5 また、本件ではDは登記を経由していないが、通謀虚偽表示をしたAB及び善意の第三者であるDは、前主後主の関係に立ち、二重譲渡類似の対抗関係に立っている(177条)わけではないからである。
6 以上より、Dは善意の第三者(94条2項)に当たり、Dの主張は正当であることから、Aの請求は認められない。
第2 小問(1)②の場合
1 Dは通謀虚偽表示の事情につき悪意であるから、善意の第三者に当たらない。そのため、AはDに対して通謀虚偽表示の無効を主張することができる。
2 もっとも、Cは通謀虚偽表示の事情につき善意であり、善意の第三者に当たる。AはCに対しては通謀虚偽表示の無効を主張することができない。そこで、Dとしては、確定的に本件を取得した善意の第三者Cから正当に地位を承継した対抗関係に立つ者(177条)であると主張することが考えられる。
3 この点、善意の第三者から目的物を取引により承継取得した悪意者の地位について問題になる。善意者が介在した後の通謀虚偽表示における悪意の転得者は、権利を主張できないとすることは、通謀虚偽表示をなし虚偽の外観を作出した当事者を保護する規定であるが、既に善意の第三者が介在しており、悪意の転得者が登場するたびに当事者を相対的に救うのでは、延々と法律関係が定まらず、取引関係の早期確定の要請に欠ける。また、善意者が介在した後の悪意者が権利を取得できないとすると、悪意の転得者が前主たる善意の第三者に対し、契約上の義務違反を理由とする損害賠償責任(561条、415条)を追求する余地を残すことにもなり、善意の第三者の保護にもならない。従って、善意の第三者の権利取得によってその時点で権利関係は確定し、転得者が意図的に善意者を介在するなど、背信的な悪意者と認定される場合は別段(1条2項、信義則)、通謀虚偽表示についての善意悪意にかかわらず、その地位を承継すると解する。
4 以上より、Dは善意の第三者Cからの物件取得者であるから、確定的に所有権を取得すため、Aの請求は認められない。
第2 小問(2)
1 Gは、乙土地を占有するHに対して所有権に基づき乙土地の明渡しを請求する。まず、EF間の売買契約は、固定資産税の負担を回避するためにEF間で示し合わせて仮装されたものであり、通謀虚偽表示に当たるから無効である。一方、GはEF間の通謀虚偽表示を知らないため、善意の第三者にあたる(94条2項)。そのため、登記の具備や過失の有無を問わず、Eは上記無効をGに対抗することができない。
2 次に、Eから譲渡を受けたHとFから譲渡を受けたGの関係が問題となる。この点、通謀虚偽表示による無効を第三者に対抗できない場合(94条2項)、善意の第三者が確定的に権利を取得すると解する。そこで、この場合はあたかも通謀虚偽表示をした当事者から第三者に有効な譲渡が行われたと同様の関係が生じると解する。すなわち、通謀虚偽表示をしたEとFそれぞれから譲渡を受けた第三者のHとGについては、通謀虚偽表示をした本人を起点とする、二重譲渡類似の関係が生じることになる。従って、このHG両者の優劣は、登記の有無(177条)によって決すべきである。
3 本件の場合、Gは登記を備えない限り、Hに対して乙土地の所有権取得を対抗することができず、Gの請求は認められない。
以上(2,131文字)

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