民法第13問

2022年9月11日(日)

問題解説

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問題

Bは、Aから甲建物の所有権を相続し、移転登記を了した。その後、甲建物はBからCに譲渡されたが、いまだに移転登記がなされていない。甲建物は、Aがその所有権を有していた当時から敷地利用については無権原であった。甲建物の建っている土地の所有者Dは、甲建物の収去・土地明渡を求めたい。Dは誰に対して請求をすればよいか。甲建物が未登記建物であった場合はどうか。
(一橋大学法科大学院平成16年度 第1部(1))

解答

第1 設問前段について
1 まず、当該土地はDの所有に属するところ、Bから甲建物の所有権を譲り受けたCは、当該土地を無権原で占有していることになる。よって、Dは、当該土地所有権に基づいて、Cに対して建物収去土地明渡請求をすることができる。
2 では、Dは建物所有権登記を有するBに対しても建物収去土地明渡請求をすることができないか、建物所有権登記名義人は建物譲渡後も土地所有者に対して建物収去土地明渡義務を負うかが問題となる。
物権的返還請求権の相手方は、現に無権原で他人の物を占有している者、または妨害物の所有者など他人の物への侵害状態を除去しうべき地位にある者である。そうだとすれば、本来登記名義があるか否かと、物権的請求権の相手方となり得るかという問題は切り離して理解すべきで ある。
したがって、建物の所有権登記名義人は、建物収去土地明渡請求の相手方とならないのが原則である。
しかし、このような原則を貫くと、不法占拠者は建物の所有権移転を主張して容易に建物収去等の義務を免れることができ、土地所有者は建物登記簿からはその存在を知ることができない実質的な所有者を捜し出す困難を強いられることになる。また、土地所有者と登記名義人は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争 う点で、建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係にあるといえる。
そこで、他人の土地上に自らの意思に基づいて建物所有権取得の登記を経由していた建物所有者は、その建物を他に譲渡しても、登記名義を保有する限り、土地所有者に対し建物収去土地明渡義務を免れないと解する。
本問では、Bは他人の土地上に存する建物について、自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由しており、その建物をCにしているが、いまだ登記名義を保有している。したがって、BはDに対し自らの建物所有権の喪失を主張することができず、建物収去土地明渡しの義務を免れない。
よって、DはBに対して建物収去土地明渡請求をすることができる。
第2 設問後段について
1 Bから甲建物の建物所有権を譲り受けたCが、当該土地を無権原で占有している点については、前段と変わらない。
よって、前段と同様に、Dは、当該土地所有権に基づいて、Cに対して建物収去土地明渡請求をすることができる。
2 では、建物が未登記である場合、前段と同様にBに対しても建物収去土地明渡請求をなし得るか。
前段で述べた基準に基づいて判断すると、Bは、自らの意思に基づいて建物所有権取得の登記を経由していたわけではない。そのため、建物収去土地明渡義務を負わない。
実質的に見ても、前段の場合の登記の役割は、いわゆる対抗問題における優劣関係を決するというものではなく、建物についての所有権取得の登記が、土地所有者にとって、建物収去・土地明渡しの責任(義務) の所在を公示する意味を有するものである。
また、仮に未登記の場合にも前段のような処理をするとなると、土地所有者が、物権的請求権の相手方を任意に選択できることになりかねない。
以上から、Dは、Bに対して建物収去土地明渡請求をすることができない。
以上

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